AI・BI・PI・BC
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本
AI
『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』を読んでいます。
12個の動詞それぞれを、興味深く感じます。私個人が主観的に面白く感じるのは、「flowing」や「remixing」あたりなのですが、近い将来、この社会に与える影響の大きさを考えると、客観的には、「cognifying」が重要なのではないかと考えています。
※この項での引用は、以下、『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』より。
AIは、将来、現代社会における電気のようなインフラになる、という指摘に、AIが社会に与える影響のイメージを掴むことができました。
人工知能(AI)が安価で強力でどこにでもあるようになったとき、これに匹敵するような「すべてを変える」力を想像することは難しい。
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電気のようにただつなぐだけで、AIの機能を利用できるようになるのだ。それは電気がこの100年してきたように、不活性な対象物を活性化する。
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AIは、仕事にも大きな影響を与えます。同書の予測では、7割の職業がオートメーションに置き換わるそうです。
信じ難いことかもしれないが、今世紀が終わるまでにいま存在する職業の70%がオートメーションに置き換えられるだろう──あなたの仕事も含めてだ。つまり、ロボット化は不可避であり、労働の配置転換は時間の問題なのだ。
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しかし、同書は、決して悲観論ではありません。AIは競争相手ではなく、共同作業のパートナーとして位置づけられるためです。
これはマシンとの競争ではない。もし競争したらわれわれは負けてしまう。これはマシンと共同して行なう競争なのだ。
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彼らはわれわれがまるでできない仕事もやってくれる。必要だとは想像もしなかった仕事もやってくれる。そうすることで、われわれが新しい仕事を自分たちのために見つけるのを手伝ってくれる。その新しい仕事が、われわれ自身を拡張していくのだ。ロボットのおかげで、われわれはもっと人間らしい仕事に集中できる。
それは不可避だ。ロボットたちには仕事を肩代わりしてもらい、本当に大切な仕事を頭に描くのを手助けしてもらおう。
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BI
『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』
他方、AIと仕事との関係の点で、『人工知能と経済の未来』の予測は、もっと悲観的です。
※以下、この項での引用は、『人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊』より。
同書は、汎用型AIが順調に発展した場合、今から30年後の2045年ころには、全人口の1割ほどしか労働していない社会になっているかもしれない、と予測します。
このように、機械が人々の雇用を順調に奪っていくと、今から30年後の2045年くらいには、全人口の1割ほどしか労働していない社会になっているかもしれません。
location 1605
この予測を前提にした、同書の最重要提案が、ベーシックインカム(BI)です。収入の水準によらずにすべての人に無条件で、最低限の生活費として、ひとりあたま一律の金額を給付する制度です。
私は、純粋機械化経済において、労働者の所得を保証するために最もふさわしい制度は、「ベーシックインカム」だと思っています。「ベーシックインカム」(Basic Income, BI)は、収入の水準に拠らずに全ての人に無条件に、最低限の生活費を一律に給付する制度を意味します。また、世帯ではなく個人を単位として給付されるという特徴を持ちます。
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同書によれば、汎用型AIが行き渡った未来は、
- BIを整えればユートピアに
- BIのような社会保障なしであればディストピアに
なるかもしれない、とのことです。
こうしてBIの給付額を増大させることによって、AIの発達の末に訪れるはずの途方もなく実り豊かな経済の恩恵を、一部の人々ではなく全ての人々が享受できるようになるはずです。
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しかし、もしBIのような社会保障制度がなければ大半の人々にとって、未来の経済は暗澹たるものになりかねません。BIなきAIはディストピアをもたらします。しかし、BIのあるAIはユートピアをもたらすことでしょう。
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『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』
AIによってここまで人間の仕事が減るかについて、私はかなり懐疑的です。でも、BIは面白いアイデアだと思います。誰もが食っていくために働く必要がない、という社会は、もし実現できるなら、すごくよい感じです。
そこで、BIのことをもう少し調べることにしました。読んだのは、『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』です。
※以下、この項での引用は、『ベーシック・インカム 国家は貧困問題を解決できるか』からです。
同書は、ベーシックインカムのわかりやすい入門書です。基本的な制度の枠組み、哲学や発想、実現可能性を考えるための試算などを知ることができます。
この本を読んで、ほとんど私はベーシックインカムの信奉者になりかけていました。
ところが、ちょっと気になる記載がありました。次の記載です。
BIは、移民を制限することになる。年八四万円のBIは、日本の生活コストが高いことを考えても、貧しい国の人々には魅力的なものとなりうる。移民は、年五〇〇万円以上を間違いなく稼げる人に限定して認めるしかない。福祉国家は、移民を制約する国家であることを、むしろあらかじめ明らかにしておくべきだ。
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BIはすべての国民に無条件で与えられるものである。しかし、無条件で与えられるものであれば、なおさら、その国民の範囲を限定せざるをえないものとなるだろう
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たしかにそうです。「収入の水準によらずにすべての人に無条件で、最低限の生活費として、ひとりあたま一律の金額を給付する」ということを国家が行うとして、その対象は、当然、国民になります。そして、限られた予算でベーシックインカムを実現するには、国民の範囲を限定せざるを得ません。
それはわかります。わかるのですが、私は、あまり好きではありません。
特に、最近は、国家という単位を重視しない方向で考えたいと思っています。
[『サピエンス全史』を起点に考える]都市を基本単位として生きることで、グローバル帝国に参加する。
ベーシックインカムの基本的な発想は踏襲した上で、もう少し何か別の可能性はないでしょうか。
PI
ベーシックインカムの変種を求めて出会ったのが、『21世紀の不平等』のPIです。
同書の著者であるアンソニー・アトキンソンは、『21世紀の資本』の著者であるトマ・ピケティの師ともいうべき存在だということです。まだ全部は読めていないのですが、アンソニー・アトキンソンは、同書において、ベーシックインカムを批判し、代案としてPIというものを提案します。
※以下、この項での引用は、『21世紀の不平等』からです。
PIとは、「参加型所得」です。「参加」を条件として、基礎的な金額を給付することになります。
第二に、これは市民権ではなく「参加」に基づいて支払われる手当の提案であり、このためこれは「参加型所得」(PI)と呼ばれる。
location 5785
BIの信奉者は、PIが「参加」を条件とすることをもって、中核的な原理を捨て去っていると批判しますが、彼によれば、BIが「無条件」でPIが「条件つき」という対比は誤りだ、とのことです。BIも、市民権(国籍)を条件としています。
参加という条件は議論を招く。批判者たちは、「無条件」の手当が「条件つき」手当に置きかえられているので、これはアプローチの中核的な原理を捨て去っていると述べる。これに対して私としては、ベーシック・インカムはしばしば「無条件」と呼ばれるが、でも実際には条件がないわけがない、と答える。
location 5793
そして、アトキンソンは、BIの「市民権(国籍)」とPIの「参加」を比較し、「参加」を条件とするほうが合理的である、と考えるに至った、とのことです。
イギリス市民所得トラストのウェブサイトにあるように、彼らが提案しているのは「市民権としてあらゆる個人に支払われる、無条件であり停止できない所得」(強調引用者)だ。
だから私たちは二つの条件を比べねばならない。市民権と参加だ。
慎重に考えてから、私は参加のほうに肩入れするようになった。私見では、市民権はベーシック・インカム支払いの基準とするには、単独ではあまりに広範すぎ制約的でありすぎる。
location 5796
PIという発想自体は、よくわかります。BIが条件とする「市民権(国籍)」が、今のサピエンスの社会ではあまりうまく機能しないのではないか、という懸念についても、私は共感します。
しかし、具体的な給付の場面で、「参加」を、誰がどのように判断すべきか、という点が大きな問題になりそうです。特に、誰が、の点かな。
これについて、アトキンソンは、基本的には国家を考えているようです。さらに、国家レベルよりも広い範囲であるEUにやらせたらいい、ともいいます。
いまのところ、参加型所得は国レベルでは議論されているが、私はそれがEUにとっての課題にも上げられるべきだと思う。
location 5845
でも、正直なところ、国家やEUが、人々の「参加」を適切に判断できるかは、かなりむずかしいような気もします。
BC
このように、BIもPIも、よさそうなのですがもう一歩であるところ、この原因は、ひょっとすると、給付主体が国家(あるいは国家の集合であるEUなど)であることを前提としているためかもしれません。
そもそも、ここで考えているのは、汎用型AIが社会に行き渡り、全体としては、全人口の1割程度が労働するだけで全人口を養えるほど豊かになった社会で、どのように富を分配するか、という話です。そんな社会なら、国家以外にも、基礎的な給付を担える主体が現れているような気もします。
候補のひとつは、AmazonやGoogleなどの企業です。特に、インフラのようなAIを世界中に提供する企業なら、企業版BIのようなものを自前で運用するくらいの資力を蓄えていそうです。
他方で、もうひとつの候補として、ブロックチェーン技術によって生まれる分散型自立組織(DAO)もありうるのではないか、という気がします。
分散型管理の一形態に、ブロックチェーン上で管理と運用を行う分散型自律組織(DAO)がある。DAOはビジネスにおける分散化の極致と言える。近い将来、誰でも自由にDAOのために〝はたらき〟、経済的恩恵を受けることが可能になるだろう。
location 1862 『ビジネスブロックチェーン』
そんなことをぼんやりと思いながら、『現代思想 2017年2月号 特集=ビットコインとブロックチェーンの思想』における「中枢の解体可能性と分散組織デザイン Back Feed Protocol をサンプルとした分析」(西川アサキ著)を読んでいました。
※以下、この項での引用は、『現代思想 2017年2月号』からです。
非常に難しい論文であるため、現時点では、全然理解できていません。ですが、ここで紹介されている「The Backfeed Protocol」(BFP)は、ブロックチェーン技術によるDAOが、BIのようなPIのような基礎的な給付の主体となるために役立つ技術のような気がします。
「BFP」とはなんでしょうか。
イーサリアムというブロックチェーンを利用したプラットフォームがあります。イーサリアムは、その上でプログラムを動かすことができます。これによっていくつもの分散型自立組織(DAO)を動かすことができるのですが、そのうちのひとつに、「The DAO」というDAOがありました。ところが、この「The DAO」は、2016年に攻撃を受けました。そこで、より分散的なプロトコルの検討が始まりました。それが「BFP」です。
しかし、より分散的なプロトコルの検討が The DAO 上の提案として検討されていた。それが The Backfeed Protocol(以下BFP)だ。
location 4905
原理はちんぷんかんぷんです。しかし、ここで関係しそうなのは、「貢献」と「評判」などをプログラムで評価して、全体としての意思決定を進める仕組みです。
The DAO のキューレーターを、BFPではPOVという方法で置き換える。POVとは、Proof Of Work(作業による証明)、Proof Of Stake(持ち分による証明)などの一種で、コミュニティーに起きた出来事(貨幣の場合は「取引」など)を、全体として受け入れるかどうかというコンセンサス(POWやPOSの場合、分散型台帳へブロック追加を承認し、ブロードキャストさせる)を決めるアルゴリズム(POWの場合、計算量を投じないと発見できない暗号化キーを見つける、POSの場合POWの発見確率が、現在持っているトークンに比例して大きくなる)となる。
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また、BFPでは「貢献」と呼ばれる「無形式提案」方式を採用する。
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POVでの多数決は、重み付き多数決の一種で、後述する「評判」という値が相対的に大きい「ノード(以下、組織の「メンバー」とあまり区別しないで使う。計算機、人間、アカウント、プログラムなどでありうる)」ほど、多くの「票(ただし実数値なので「権限」といった方がいいだろう)」を持つ。そして、評判╳投票値(Yes/No の場合、どちらを選んだか)の「ある特定意見に対する評判重み付き合計」が中央値を過ぎたところで、その貢献に意義が決定される。
location 4952
この方法では「何が貢献であるのか」という基準をオープンにしておくことで、とても細かい粒度に至るまで、非形式的な人の知恵を生かすことができる(なお評価を無意味に作成するスパムが出現しうるから、対策として評価作成には「参加料」を払う)。そしてもし、すべての決定をPOVで行うなら、キューレーターなど階層構造を全く持たない恐ろしく分散的な組織が実現する。
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これを応用すれば、BIにおける「市民権」やPIにおける「参加」など、基礎的な給付の前提となる条件を、公正に、自律的に、分散的に、自然に、判断し続けることができるのかもしれません。
AI・BI・PI・BC
AIが行き渡った社会においては、BCの上で動くDAOが、人による労働を必要とせず、自律的に富を生み出し続ける。
BCの上で動くDAOは、多様な道筋でBCに参加した人すべてに、暗号通貨か何かによって、一律の金額を給付する。この基礎給付がBIやPIのように機能しているので、誰もが最低限度の生活を維持することができる。
人々は、働きたい人は働き、遊びたい人は遊び、研究したい人は研究し、歌いたい人は歌い、そんなふうに暮らしている。
AIからBIとPIを経てBCまで辿りながら考えたことでした。
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