*

「分人」と「個人」の線の引き方

公開日: : 単純作業に心を込める

「分人」とは、作家の平野啓一郎さんが、『ドーン』や『私とは何か』で提唱する考え方です。

平野啓一郎「分人」シリーズ合本版:『空白を満たしなさい』『ドーン』『私とは何か―「個人」から「分人」へ』

いろんな点で興味深い考え方なのですが、分割可能・不可能の線の引き方の点で興味深く思ったので、図にして考えてみたくなりました。半分メモですが、以下、考えたことと描いてみた図をご紹介します。

1.「分人」と「個人」の、分割可能/分割不可能

「分人」と「個人」は、対照概念です。「分人」は、ひとりの人間を「分けられれるもの」と把握し、「個人」はひとりの人間を「分けられないもの」と把握します。

  • 分人:ひとりの人間は、分けられる
  • 個人:ひとりの人間は、分けられない

このように、ひとりの人間という観点からは、「分人」が「分けられる」で「個人」が「分けられない」なのですが、他者との関係という観点からは、この関係がひっくり返ります。

「分人」は、他者との人間関係ごとに生じます。自分の中にあるAさん向けの「分人」は、Aさんの中にある私向けの「分人」とセットであり、分けられません。他者との関係によって、協同的にその都度現れるのが、「分人」です。「分人」は、他者から「分けられない」ものです。

これに対して、「個人」は、ひとりの人間を「分けられないもの」と把握するのに対して、他者との関係では、自分を他者から「分けられる」と考えます。

つまり、

  • 分人:他者との関係は、分けられない
  • 個人:他者との関係は、分けられる

ということです。

そして、分人 dividual は、他者との関係においては、むしろ分割不可能 individual である。もっと強い言葉で言い換えよう。個人は、人間を個々に分断する単位であり、個人主義はその思想である。分人は、人間を個々に分断させない単位であり、分人主義はその思想である。

location 15376 「分人」シリーズ合本版『私とは何か』

「分人」という考え方は、ひとりの人間を小さな単位に「分けられる」ものと把握することによって、他者との関係を「分けられない」ものと把握します。

単位を小さくすることによって、きめ細やかな繫がりを発見させる思想である。

location 15379 「分人」シリーズ合本版『私とは何か』

2.「個人」と「分人」の人間関係を図示する

さて、以上のことを、図で考えてみたいと思います。

登場人物は、私と、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんです。

私と、A、B、C、D

「個人」という考え方でこの関係を捉えると、私というひとりの人間は「分けられない」ものであり、私全体で、人間関係を把握するためのひとつの単位です。

その分、私と他者との間は、「分けられる」関係です。

線を引くと、こんな感じになります。

個人の線の引き方

これに対して、「分人」は、私というひとりの人間を、「分人」の集合体、「分人」のネットワークとして把握します。他者がAさん、Bさん、Cさん、Dさんの4人なら、私の中に、Aさんとの分人、Bさんとの分人、Cさんとの分人、Dさんとの分人が分化して、これらの「分人」たちの集合体、ネットワークが、私です。

分人とは?

ひとりの人間を「分けられる」ものと考えて、線を引いている、ともいえます。

「分人」は、ひとりの人間の中に分割可能な線を引く

他方で、「分人」は、他者と協同的に生まれ育つものです。だから、自分の中にある誰かとの「分人」たちは、それぞれ、対象となる他者とは、「分けられない」といえます。

もちろん、ここでいう「対象となる他者」とは、対象となる他者における「私向けの分人」です。だから、図示すると、こんな感じでしょうか。

「分人」は、他者との関係では、分割不可能

一連の図に表現されている人間関係は、同じです。私と、Aさん、Bさん、Cさん、Dさんとの、人間関係です。

そんな同じ人間関係ですが、「個人」という考え方に立てば、私の内部には線は引かれず、私と他者との間には線が引かれ、

個人の線の引き方

「分人」という考え方に立てば、私の内部には線が引かれますが、私と他者との間には線は引かれません。

「分人」は、他者との関係では、分割不可能

どちらが正解、というものではないとは思いますが、実際の現象を説明するためにも、自分なりの理想を描くためにも、私は、「分人」の線の引き方に共感します。

スポンサードリンク

関連記事

no image

与えられた才能を、小さな世界に集中させて、小さな世界を大切にする

1.『ノルウェイの森』のキスギと永沢さん (1) キスギ 村上春樹の『ノルウェイの森』に、キスギ

記事を読む

no image

過去と未来に向けて開かれた流動的な構造

千夜一夜の物語 今から2年ほど前の2014年9月30日、この「単純作業に心を込めて」というブログに、

記事を読む

no image

寝て安静にしてるうちに正月が終わってしまったけれど、いろいろよかった

1.正月早々体調を崩して、寝て安静にしてるうちに正月が終わってしまった 気づけば、2014年も1週

記事を読む

no image

「単純作業に心を込めて」を、『千夜一夜物語』みたいなブログにしたい。

1.『千夜一夜物語』の構造 (1) 『千夜一夜物語』 『千夜一夜物語』という物語があります。『ア

記事を読む

no image

[条件づくり]と[手順組み]、そして「待つ」こと。(『[超メモ学入門]マンダラートの技法』より)

1.はじめに こんな文章を書きました。 「失敗のマンダラ」で失敗の構造をみる。 「「失敗のマンダラ」

記事を読む

no image

為末大『諦める力』を、持続可能な毎日ための教科書として読む

1.『諦める力~勝てないのは努力が足りないからじゃない』(為末大) 為末大さんの『諦める力』を読み

記事を読む

no image

Toodledoの「Dailyタスクリスト」を材料に、1日をふり返り、翌日を準備する(Toodledoで「Dailyタスクリスト」(3)1日の終わり編)

1.Toodledoで「Dailyタスクリスト」 (1) 「Dailyタスクリスト」という、タスク

記事を読む

no image

ひとつの文章によってではなく、一連の文章群によって、何かを伝える

1.自分のブログに書く文章に、整った論理構造を与えやすいのは、表現する対象をシンプルに絞り込むことが

記事を読む

no image

「ここにいたんだ」

1.『宇宙兄弟』の「ここにいたんだ」 『宇宙兄弟』が好きです。 どこも安定しておもしろいのですが、と

記事を読む

no image

「単純作業に心を込めて」の十戒

1.変わらないタブー このウェブの中に、R-styleというブログが存在しています。倉下忠憲さんが1

記事を読む

スポンサードリンク

スポンサードリンク

no image
お待たせしました! オフライン対応&起動高速化のHandyFlowy Ver.1.5(iOS)

お待たせしました! なんと、ついに、できちゃいました。オフライン対応&

no image
「ハサミスクリプト for MarsEdit irodrawEdition」をキーボードから使うための導入準備(Mac)

諸事情により、Macの環境を再度設定しています。 ブログ関係の最重要は

no image
AI・BI・PI・BC

AI 『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』を読

no image
[『サピエンス全史』を起点に考える]「それは、サピエンス全体に存在する協力を増やすか?」という評価基準

1.「社会派」に対する私の不信感 (1) 「実存派」と「社会派」 哲学

no image
[『サピエンス全史』を起点に考える]サピエンス全体に存在する協力の量と質は、どのように増えていくのか?

『サピエンス全史』は、大勢で柔軟に協力することがサピエンスの強みだと指

→もっと見る

  • irodraw
    彩郎 @irodraw 
    子育てに没頭中のワーキングパパです。1980年代生まれ、愛知県在住。 好きなことは、子育て、読書、ブログ、家事、デジタルツールいじり。
    このブログは、毎日の暮らしに彩りを加えるために、どんな知恵や情報やデジタルツールがどのように役に立つのか、私が、いろいろと試行錯誤した過程と結果を、形にして発信して蓄積する場です。
    連絡先:irodrawあっとまーくtjsg-kokoro.com

    feedlyへの登録はこちら
    follow us in feedly

    RSSはこちら

    Google+ページ

    Facebookページ

PAGE TOP ↑