WorkFlowyを共同制作環境として活用する(3) 誰から誰へを表現するシンプルで柔軟な仕組み「ダイナミックタグシステム」
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WorkFlowy
HandyFlowy&MemoFlowyの開発は、主に、WorkFlowyの共有トピックのうえで進んでいます。
この連載は、HandyFlowy&MemoFlowyの開発を通じて、私たち開発チームが学んだ、WorkFlowyを共同制作環境として活用するためのノウハウを、共有するものです。
今回は、
- 他のメンバーが自分宛てに書き込んだ内容を、未読のまま見逃してしまう。
- 自分に関連する既読の書き込みが、どこにいったかわからなくなる。
- 自分が他のメンバーに宛てて書き込んだ内容を、そのメンバーが読んでくれたかどうか、わからない。
という課題に取り組みます。
目次
1.課題
多くのグループウェアには、人の概念があります。ある投稿について、誰が書き込んだ投稿なのか、誰宛に書き込まれた投稿なのか、誰が未読で誰が既読か、などを管理できます。
これに対しては、WorkFlowyには、人の概念が(ほとんど)ありません。誰が書き込んだ投稿かもわかりませんし、誰宛の投稿なのかもわかりません。既読・未読もわかりません。
そのため、
- 他のメンバーが自分宛てに何かを書き込んでくれたのに、自分がそれに気づかず、未読のまま見逃してしまう。
- 自分宛に書き込まれた内容だけを一覧表示できないので、自分宛の既読の書き込みを見失ってしまう。
- 自分が他のメンバーに宛てて何かを書き込んだ後、そのメンバーがその書き込みを読んでくれたかどうか、わからない。
といったことが生じます。
いずれも、共同制作において、わりと致命的な問題です。さて、どうしたらよいでしょうか。
この課題を解消する仕組みが、「ダイナミックタグシステム」です。
「ダイナミックタグ」という独自のタグによって、誰が誰に対して書き込んだ内容かを明示できるとともに、既読・未読の別も管理できます。さらに、自分のためのリマインダとして用いることも可能です。
2.ダイナミックタグシステムの基本
(1) ダイナミックタグを準備する
最初に、メンバー全員のタグを決めます。決めるタグは2種類。
- フルネームの名前タグ 例:@sazae、@katsuo、@wakame、@namihei、@fune
- 2文字の略称タグ 例:sazae=sa、katsuo=ka、wakame=wa、namihei=na、fune=fu
メンバー全員の略称タグをピリオドで区切り、カギカッコ([])でくくります。最初の略称タグのまえにも、ピリオドをつけます。
- [.sa.ka.wa.na.fu.]
この[.sa.ka.wa.na.fu.]が、ダイナミックタグです。
名前タグと略称タグ(ダイナミックタグ)の役割は、
- 名前タグ(@sazae)は、書き込んだ人を意味する
- 略称タグ(ダイナミックタグ[.sa.ka.wa.na.fu.])は、書き込みの宛先を意味する
というものです。
(2) ダイナミックタグシステムの基本
a.基本ルール
ダイナミックタグシステムの基本ルールは、2つです。
[基本ルール1]新しく書き込みをするときは、書き込みの親トピックに、名前タグとダイナミックタグをつける。
書き込みの親トピックに、名前タグ(@sazae)とダイナミックタグ([.sa.ka.wa.na.fu.])をつけます。
たとえば、こんな感じです。
- 2016-08-11@sazae[.ka.wa.na.fu.] 今晩の夕食、何がいい?
- サンマの塩焼きにしようと思ってたんだけど、ドラ猫がくわえて持っていっちゃったのよ。メインがなくなっちゃった。
[基本ルール2]自分宛の書き込みを読んだら、ダイナミックタグの中から、自分の略称タグを消す。
ダイナミックタグの中に自分の略称タグがある書き込みは、自分宛の書き込みです。その書き込みを読んだら、自分の略称タグを消します。
たとえば、@katsuoがこの投稿を読んだら、
- 2016-08-11@sazae[.wa.na.fu.] 今晩の夕食、何がいい?
- サンマの塩焼きにしようと思ってたんだけど、ドラ猫がくわえて持っていっちゃったのよ。メインがなくなっちゃった。
というように、ka.を消します。
[組み合わせ]自分宛の書き込みを読んで、返信する
自分宛の書き込みを読んで、返信する、という場合も同じです。
最初の@sazaeの書き込みが
- 2016-08-11@sazae[.ka.wa.na.fu.] 今晩の夕食、何がいい?
- サンマの塩焼きにしようと思ってたんだけど、ドラ猫がくわえて持っていっちゃったのよ。メインがなくなっちゃった。
で、これを@katsuoが読み、
- 2016-08-11@sazae[.wa.na.fu.] 今晩の夕食、何がいい?
- サンマの塩焼きにしようと思ってたんだけど、ドラ猫がくわえて持っていっちゃったのよ。メインがなくなっちゃった。
返事を書くと、
- 2016-08-11@sazae[.wa.na.fu.] 今晩の夕食、何がいい?
- サンマの塩焼きにしようと思ってたんだけど、ドラ猫がくわえて持っていっちゃったのよ。メインがなくなっちゃった。
- 2016-08-11@katsuo[.sa.ka.wa.na.fu.] えー、そうなの!サンマの塩焼き、楽しみにしていたのに。。。ドラ猫、許さん。ねえさん、ちゃんと追いかけてよ。
- サンマの塩焼きが無理なら、カレー希望。
こんな感じ。
続けることも可能。
- 2016-08-11@sazae[.wa.na.fu.] 今晩の夕食、何がいい?
- サンマの塩焼きにしようと思ってたんだけど、ドラ猫がくわえて持っていっちゃったのよ。メインがなくなっちゃった。
- 2016-08-11@katsuo[.ka.wa.na.fu.] えー、そうなの!サンマの塩焼き、楽しみにしていたのに。。。ドラ猫、許さん。ねえさん、ちゃんと追いかけてよ。
- サンマの塩焼きが無理なら、カレー希望。
- 2016-08-11@sazae[.ka.]追いかけたわよ!サンダル見つからなかったから裸足よ、裸足。でも逃げられちゃったわ。
- カレーね、了解。それなら買い物いかなくてもなんとかなりそうね。
b.基本ルールによって可能になること
この2つの基本ルールによって、どんなことが可能になるでしょうか。
2つのメリットがあります。
(a) 自分宛の書き込みを検索できる
まず、書き込んだ人以外のメリット。
自分宛の書き込みを簡単に検索できます。
検索するキーワードは、「略称タグ+ピリオド」です。@katsuoなら、「ka.」で検索します。共有トピックに入って、最初に「ka.」で検索すれば、自分宛ての書き込みだけをフィルタリングできるわけです。
この検索も、「WorkFlowyのURL」でコントロールできます。そのため、自分の略称タグを検索した状態の「WorkFlowyのURL」をブックマークしておけば、一瞬で自分宛ての書き込みをフィルタリングできるわけです。
(b) 自分が書き込んだ内容の、未読・既読を認識できる
次に、書き込んだ人のメリット。
自分が書き込んだ内容を、他の人が読んでくれたかどうか、確認できます。
たとえば、上のサンマの話を書き込んだ@sazaeは、@katsuoがこの書き込みを読んだことを確認できます。また、それと同時に、@wakameと@namiheiと@funeがまだこの書き込みを読んでいないことを認識できます(これも大事)。
3.実践から生まれた運用上の工夫
ダイナミックタグシステムは、HandyFlowy&MemoFlowy開発チームで、実際に活用されています。実践を通じて、いくつかの運用上の工夫が生まれましたので、紹介します。
(1) ダイナミックタグの並べ方
a.特にこの人宛に届けたい、という書き込み
ダイナミックタグ内で略称タグをどのように並べるかによって、宛先の優先度を表現できます。
たとえば、@sazaeが今夜の夕食のことを書き込む場合、「夕食のメニューにうるさいのは@katsuoだから、まずは@katsuo宛に書かなくちゃ」と思ったら、[.ka.wa.na.fu.]というように、kaを最初にすることができます。
これに対して、メニューを決めるために@funeに相談に乗って欲しいのなら、[.fu.ka.wa.na.]とfuを最初にしたり、買い物を@wakameに頼みたいなら、[.wa.ka.na.fu.]とwaを最初にすることもできます。
また、必ずしも全員を書く必要はありません。
たとえば、先ほどのこのやりとり。
- 2016-08-11@katsuo[.ka.wa.na.fu.] えー、そうなの!サンマの塩焼き、楽しみにしていたのに。。。ドラ猫、許さん。ねえさん、ちゃんと追いかけてよ。
- サンマの塩焼きが無理なら、カレー希望。
- 2016-08-11@sazae[.ka.]追いかけたわよ!サンダル見つからなかったから裸足よ、裸足。でも逃げられちゃったわ。
- カレーね、了解。それなら買い物いかなくてもなんとかなりそうね。
裸足で追いかけたかどうかは、他の人にはどうでもよいので、@katsuoだけが読んでくれれば、それで問題ありません。であれば、[.ka.]と、ダイナミックタグの中には@katsuoのkaだけを入れておけばよいわけです。
b.ダイナミックタグ内に、自分の略称タグを書くか、書かないか?
自分が書き込むときのダイナミックタグには、自分の略称タグを書く必要があるでしょうか。あとから自分がその書き込みを見返したいか否か、によります。
- 「これしっておいてね」的な、返答不要なものは、あとから自分の書き込みを見返す必要はありません。だから、自分のタグをつけなくてかまいません。
- 何らかの返答を期待して、他のメンバーが読んでくれたか否かを自分でチェックしたい場合は、自分のタグをつけておくとよいです。
では、どこに自分のタグをつけるか。場所は、自分の考える重要度で決めることができます。
たとえば、全員の回答を得てから、自分が何かをしたい場合、自分の略称タグを、一番右に書きます。すると、自分のタグが一番左に来たときが、自分が処理するタイミングとなります。
namiheiが、こんな書き込みをしたとします。
- 2016-08-05@namihei [.sa.ka.wa.fu.ma.ta.na.] 和室の戸棚の中にあるどら焼き、わしのかな? 先週買ったのをどこかに置いた気がするから、これじゃないかと思うんだけど、自信がなくて。
sazae、katsuo、wakame、fune、masuo、tarao全員が確認し、
- 2016-08-05@namihei [.na.] 和室の戸棚の中にあるどら焼き、わしのかな? 先週買ったのをどこかに置いた気がするから、これじゃないかと思うんだけど、自信がなくて。
という状態になったなら、namiheiとしては、安心して、戸棚にあるどら焼きを食べることができます。
また、たとえば、ある人には確認をしてほしく、ある人には一応知っておいてもらいたい、という場合でも、自分の略称タグの位置によって、表現可能です。
sazaeがmasuoとtaraoに週末遊びに行く場所を相談するとして、一応、他の家族にも情報共有しておくなら、
- 2016-08-11@sazae[.ma.ta.sa.ka.wa.na.fu.] 週末は、ディズニーランドはどう? 朝ごはん早めに食べて、車で行きましょう。
と書いておけば、masuoとtaraoの確認が終わった段階で決定となり、と同時に、その間にkatsuoやwakameにも情報を知らせておくことができるわけです。
(2) 自分のための、自分の略称タグ
a.既読だけど、未処理
次に、自分宛ての書き込みを読んだときの処理について。
基本ルールは、自分宛ての投稿を読んだら、自分の略称タグを消す、です。自分のタグを消すのは、書き込んだ人に、「読んだよ」と伝える意味を持ちます。
他方で、略称タグを消してしまうと、タグで検索したときに、その投稿がヒットしません。自分にとって大切な書き込みであるときなどは、検索にヒットするように、リマインダを付けておきたいこともあります。
そんなときは、
- 書き込んだ人が付けたダイナミックタグの中にある自分の略称タグを消し、
- 当初のダイナミックタグの外に、新たに、自分の覚えのための略称タグをつける
とすれば解決です。
これによって、
- 書き込んだ人に対しては、「読んだよ」と伝えつつ、
- 自分に対しては、「この投稿について、未処理」とリマインダを残す
ことを両立できます。
b.自分のタスク管理として
このように、自分の略称タグは、自分宛のリマインダとして活用することができます。アウトラインの中の、自分が後から参照したいトピックに、自分の略称タグ+ピリオドをつけます。
自分に関連する未読トピックを確認するのと同じ検索条件で、自分で付けたリマインダを見返すことができます。
なお、自分宛てのリマインダとしての略称タグを自分でつけるときは、書き込みの根本につける必要はありません。WorkFlowyの検索は、検索条件にヒットしたトピックの親トピックは表示しますが、検索条件にヒットしたトピックの子トピックは折りたたんで非表示となります。だから、深い階層に、自分があとから見返したいトピックがあれば、その深いところにあるトピックに、自分の略称タグをつけておくとうまくいきます。
4.ダイナミックタグシステムと、Frankさん
(1) ダイナミックタグが誕生した経緯
今回紹介した「ダイナミックタグシステム」は、ブログ「Productivity Mashup」のFrank Degenaarさん(『Do Way, Way More in WorkFlowy!』の著者)が考案したものをベースにしています。
Frankさんは、WorkFlowyフリークです。MemoFlowy公開を知り、開発チームにコンタクトを取ってくださいました。今では、HandyFlowy&MemoFlowy開発チームのアドバイザー的な役割を引き受けてくれています。
彼と彼の友人であるRawbytzさんは、HandyFlowy&MemoFlowyに、いろんな貢献をしてくださっています。たとえば、英語メニューの改善やカスタマイズツールバーは、多くの点で、お二人のおかげです。そんなFrankさんの貢献の中で、最大のインパクトが、この「ダイナミックタグシステム」の導入ではないかと思います。
Frankさんは、WorkFlowy公式ブログにおいて、この「ダイナミックタグシステム」を紹介しています。ここにも、HandyFlowy&MemoFlowy開発チーム内での実例が登場しました。
Collaborating in WorkFlowy – The Proof is in the Pudding – WorkFlowy Blog
(2) 「2文字をピリオドで区切る」か「#と2文字」か
ちなみに、発案者のFrankさんは、その後、略称タグの書式を、「#と2文字」に変更しています。#sa、#ka、#waなどです。
#を使うメリットは、
- タグをクリックすると、検索できる。
- option/altを押しながらクリックすると、タグを削除できる(爆発する)。
の2点です。
他方で、当初の「2文字をピリオドで区切る」にも、メリットがあります。
- 見やすい
- (WorkFlowyの)タグにならないため、リンクとならないことや、日本語入力のじゃまにならないため、かえって扱いやすい場合がある
そこで、HandyFlowy&MemoFlowy開発チームでは、当初のFrankさん案である「2文字をピリオドで区切る」を採用しています。
5.おわりに
「ダイナミックタグシステム」、いかがでしたでしょうか。
特別な機能は使っていません。要するに、テキストを検索しているだけです。
しかし、WorkFlowyの検索機能の特徴(階層構造をそのまま表示する、「WorkFlowyのURL」で検索条件を保存できる、検索結果のまま、アウトラインを編集できる、など)によって、とてもうまく機能します。シンプルでありながら柔軟で、WorkFlowyの力をうまく引き出す仕組みといえるでしょう。
「ダイナミックタグシステム」を導入すれば、WorkFlowyは、人を管理する機能を手に入れます。そして、高機能グループウェアにも決して劣らない共同制作環境となります。
説明だけではよくわからないかもしれません。よろしければ、一度お試しください。
(わからないことや引っかかったことがあれば、Twitterなどで、お気軽にお問い合わせください。)
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