なぜ、文章群を書き続けるのか?
公開日:
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最終更新日:2016/05/14
書き方・考え方
私の知的生産の基礎は、「文章群を書き続ける」です。
なぜ、「文章群を書き続ける」というあり方を大切にしているのか、考えてみます。
目次
1.文章を書くということに求めている役割
私が、文章を書くということに求めている役割は、次の2つです。
- 考えるために、文章を書く
- 作品として公開するために、文章を書く
(1) 考えるために、文章を書く
ひとつめは、考えるためです。
●
私は、考えることが好きです。でも、考えるとは、とても抽象的でとらえどころがありません。なので、何かを考えたいと思ったとしても、そのために一体何をしていいか、よくわからないところがあります。
これに対して、文章を書くことはとても具体的で、ひとまず何をしたらいいのかも明確です。また、どうなれば前に進んでいるのかといった進捗状況が、ある程度判別できます。
そして、何らかのテーマについての文章を書こうとすると、
- 不足が浮き彫りになる
- 過剰が浮き彫りになる
- 本筋から外れた部分が浮き彫りになる
といったことが生じるため、そのテーマについての思考が前に進みます。
だから、私は、何らかのテーマについて考えたくなったら、そのテーマについての文章を書くことにしています。
(2) 自分の一部を作品として公開するため、文章を書く
ふたつめは、自分の一部を作品として公開するためです。
●
何かとてもよいことを考えたとしても、自分一人で考えているだけでは、その考えが何らかの価値を生み出すことはありません。何かとてもよい体験をしたとしても、その体験を自分だけでそっと大切にしているだけでは、その体験がどこかにつながることはありません。
自分自身のいろんなことは、自分一人だけにとどめていては、他者に対して開かれていません。それでも自分自身は面白いかもしれませんが、他者にとっては存在しないのと同じですし、他者からのフィードバックをを受け取ることもできません。また、他者のいろんなことと結びついて何らかの価値を発揮する、ということも起こりえません。
これに対して、考えたことや体験したことに文章という形を与え、作品にすれば、他者に届く可能性を獲得します。そんな作品を、第三者からもアクセスされうる公共の場所に出しておけば、ひょっとしたら、誰かがそこに何らかの価値を見出してくれるかもしれません。誰かがフィードバックを返してくれるかもしれません。
文章を書けば、自分の考えや体験を、作品として公開することができます。文章を書いて作品にすることによって、誰かの何かとつながって、新しい価値が生まれるかもしれません。
だから、私は、自分の一部を作品として公開するために、文章を書きます。
2.文章群を書き続ける理由
しかし、この2つの役割は、ひとつの文章を書くだけで達成することができません。「文章群を書き続ける」必要があります。
(1) 文章群を書き続けることで、考える
文章を書くことは、考えるためのよい方法です。しかし、ひとつの文章だけを書くことで考えたいことのすべてを考え尽くそうとすることは、よい方法ではありません。
まず、ひとつの文章を書くだけで、ひとつのことを考え尽くすことは、不可能です。考えるテーマをひとつに絞ったとしても、そのひとつのテーマをきちんと考えるには、いろいろな視点から複眼的に検討する必要があります。たとえば、
- 抽象・具体
- 抽象的な理論を考える
- 具体例を考える
- 比較の基準
- 時系列で比較する
- 同時期の他のものと比較する
- 検討対象の広さ・深さ・密度
- 広く考える・狭く考える
- 深く考える・浅く考える
- 緻密に考える・ざっくりと考える
といったようなことです。
しかし、これらたくさんの視点のすべてを、ひとつの文章に盛り込むことは、とても難しいことです。よほど優れた能力がないと混乱しますし、仮に能力があっても膨大な時間とエネルギーを必要とします。
また、ひとつの文章を書く1回きりですべてを考えようとすることには、弊害もあります。文章を書くことによる考えの促進は、文章を書くフロー全体で少しずつ生じるのですが、ひとつの文章を書くだけでは、その恩恵を十分に受けることができないからです。
●
これに対して、「文章群を書き続ける」ことは、考えるためのとてもよい方法です。
まず、ひとつひとつの文章が扱う内容を小さく絞り込むことができます。たとえば、
- この文章では、問題の背景を掘り下げる
- この文章は、全体像を浅く概観する
- この文章は、具体例を淡々と描写する
- この文章は、このテーマについての先人の蓄積を整理する
という感じです。
ひとつひとつの文章が担う役割が小さくなるため、ひとつの文章にすべてを盛り込むことに比べて、小さな負担で文章を書くことができます。非凡な才能も要求されませんし、時間やエネルギーも小さくなります。
また、それぞれの文章を書き上げる際に、その都度、小さな収穫を受け取ることができます。大きくて完璧な文章をひとつ書き上げるよりも、小さくて暫定的な文章をたくさん書き上げるほうが、同じ資源を費やしても、たくさんの思考を進めてくれるのです。
●
このように、「考えるために、文章を書く」ということは、ひとつの文章を書くよりもむしろ、文章群を書き続けるというあり方によってこそ、うまく達成されます。
(2) 文章群を書き続けることで、自分の考えや体験を作品として公開する
自分の考えや体験を文章にすれば、それらを作品として公開することができます。こうすれば、ひょっとしたら誰かが、そんな自分の一部に価値を見出して、新しい価値を生み出してくれるかもしれません。自分の考えや体験を文章にすることは、自分を他者につないで世の中に価値を追加するための道筋でもあるのです。
しかし、これを、ひとつの文章だけで実現しようとするのは、賢明ではありません。いくつか理由があります。
まず、ひとつの文章だけで自分の一部を作品として公開しようとすると、いきおい、自分のベストを出したくなります。唯一の作品なのだから、恥ずかしくない集大成のものにしなければと考え、自分の中でのハードルが高くなります。しかし、自分が完全に納得できる集大成としての文章など、なかなか書けるものではありません。それゆえ、結局ひとつも公開できずに終わりがちです。
次に、自分の中にある作品として公開したいすべての部分をひとつの文章に盛り込むことは、とても難しいことです。全然別の領域に属することもあります。相互に矛盾する複数のことを表現したいと思うかもしれません。大部分が重なっているけれど少しちがう複数のことを作品にしたいと思うかもしれません。これらすべてをひとつの作品の中に盛り込むことは、ほとんど不可能です。
また、自分の中のどの部分に他者が価値を見出すのかは、多くの場合、自分で事前に予想することができません。自分では価値を見出してもらえると期待していたことに価値を見出してもらえないこともあれば、逆に、自分ではたいした価値がないと思っていたことに大きな価値を見出してもらえることもあります。だから、確実に価値を見出してもらえるであろうことだけを厳選して作品にするのは、あまりうまくいきません。
●
これに対して、「文章群を書き続ける」は、自分の一部を作品として公開するための、とてもよい方法です。
まず、ひとつだけではなくたくさんの作品を公開できるので、ひとつひとつの作品に対する思い入れやこだわりが高くなりすぎることを防止できます。作品に対するこだわりが低くなりすぎて適当なものを量産するのはあまりよろしくありませんが、こだわりが高すぎてひとつの作品も出せないのはもっとよくありません。作品に対するこだわりは、適当な高さに抑えておくことが大切であり、このために、たくさんの作品を公開することがうまく機能します。
次に、自分の考えや体験をたくさんの文章に分けることで、ひとつひとつを比較的簡単に作品にすることができます。自分の考えや体験の中には、一見、相互に矛盾しそうなところや、ほとんど同じだけどちょっとちがうというところが、たくさん含まれています。これらを矛盾なくひとつの作品に収めるのは至難の業ですが、たくさんの文章に分ければ、少しずつでも作品にしていくことができます。
それから、自分の中にある作品になりそうなものを、とりあえずできるかぎりたくさん出しておくと、その中のどれかが、予想もしなかったところへとつながっていくかもしれません。そうして公開した作品が、長い時を経たのちに、どこかに結びつくことだってありえます。
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このように、「文章群を書き続ける」ということによってこそ、自分の考えや体験を文章という作品として公開することが、なんらかの価値に結びつき得ます。
3.まとめ
私が、「文章群を書き続ける」というあり方を大切にしている理由は、私が文章を書くことに求めている2つの役割を達成するためには、ひとつの文章を書くだけでは不十分であり、文章群を書き続けることが必要だからです。
文章群を書き続けてきたからこそ、考えたいと思ったテーマを存分に考えることができました。文章群を書き続けてきたからこそ、自分の考えや体験に文章という形を与え、作品として公開することができました。
だから私はこれからも、「文章群を書き続ける」というあり方を大切にするつもりです。
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