『コンテナ物語』の「コンテナ」から、「入れ物」による規格化・単位化が価値を実現するための条件を考える
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1.『コンテナ物語』を、「入れ物」による規格化・単位化を考えるための教材として、読む
(1) 『コンテナ物語』
『コンテナ物語』を読みました。きっかけは、R-styleの【書評】とR-style » Amazonの日経BP社キャンペーンでした。
『コンテナ物語』は、「コンテナ」による物流革命を解説した1冊です。「コンテナ」は、物流に革命をもたらしたのですが、その革命とは、単に物流コストを下げただけにとどまりません。「コンテナ」による物流革命の本質は、「コンテナ」によって、それまでとはまったくちがうシステムが誕生したことにあります。
『コンテナ物語』は、その名のとおり、コンテナにまつわる物語でもあります。マルコム・マクリーンという実業家の奮闘を軸に、「コンテナ」が物流に革命をもたらし、世界を大きく変えた軌跡を、ドラマチックに描いています。
(2) 私が持っていた、主観的な関心の軸
この本を読みはじめたとき、私が持っていた主観的な関心の軸は、次の2つでした。
a.物流における「コンテナ」の役割
ひとつは、この世界で「コンテナ」が果たしている実際の役割への興味です。
以前から、物流というものに関心を持っていました。日常生活の中でAmazonや楽天などネット通販の恩恵を受け、その便利さに驚愕していることもありますが、それよりも大きなきっかけは、『ザ・ゴール』シリーズを読んだことだろうと思います。
価値を生み出すのは全体の流れであり、全体の流れが生み出す価値の大きさはボトルネックによって制約される、というのが『ザ・ゴール』シリーズのポイントのひとつです。そして、『ザ・ゴール』シリーズは、原料や仕掛品を調達するための物流も、全体の流れを構成する要素のひとつだとします。ときには、物流がボトルネックとなり、全体が生み出す価値を制約してしまうこともあります。どんな物流の体制を整えるかが、生産性に直結するわけです。
地味に思える物流が、企業の生産性に決定的な影響を与えうることを知り、物流、とくに世界規模でおこなわれている産業のための物流が、どのようなシステムで組み立てられているのかに、興味をひかれました。
b.「入れ物」による規格化・単位化が実現する価値
もうひとつは、実際の「コンテナ」よりももう少し抽象的な話です。
最近、私は、「入れ物」が果たす役割というものに興味を抱いていました。「入れ物」は、その入れ物に格納する何かを、規格化し、単位化します。この規格化・単位化という機能は、実はかなり強力で、いろんなことに応用できるのではないか、という感覚を抱いていたわけです。
「入れ物」による規格化・単位化に興味を抱いたきっかけは、2つあります。
ひとつは、部屋の片付けでした。
どうも雑然としている自宅をなんとかすべく、一念発起して部屋の片付けに取り組んだとき、試行錯誤の末に私がたどり着いた解決策は、布製の収納ボックスでした。
こんな布製の収納ボックスを近所のホームセンターでたくさん買い込み、片付けたいものをどんどん放り込み、簡単なラベルを貼って、クローゼットの枕棚に詰め込みました。
収納ボックスの強みは、大きさと見た目を統一できることです。収納ボックスに入れてしまえば、どんな形のどんなものであっても、同じ大きさ、同じ見た目になります。しかも、収納ボックスはきれいな立方体なので、ピタリとくっつけて並べることも、積み上げることも、簡単です。クローゼットの枕棚に、奥行き2つ×横3つ×上下2段、計12個の収納ボックスを並べた結果、行き場を失い雑然と部屋のあちこちに散在していた物たちは、魔法のように片付きました。
もうひとつは、紙情報の規格化・単位化でした。
私はこれを『知的生産の技術』と『「超」整理法』から学びました。
『知的生産の技術』は、すべてのメモをB6版のカードに書き込みます。また、新聞の切り抜きは、ひとつずつ台紙に貼り、その他の紙はオープンファイルに入れます。
これらの本質は、情報の規格化・単位化です。多種多様な情報を、決まった形の入れ物に入れることによって、情報を規格化・単位化し、扱いやすくするわけです。
それによって、おおきい記事もちいさい記事も、みんな、おなじ型式をあたえられて、単位化されるのである。そして、その規格化・単位化が、その後のいっさいのとりあつかいの基礎になっている。分類も、整理も、保存も、すべてそのうえでのことである。 じつは、カードの使用そのものが、一種の規格化であった。カードに記入することによって、いっさいの思想・知識・情報が、型式上の規格をあたえられ、単位化されるのである
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『「超」整理法』も、情報の規格化・単位化を基本コンセプトとしています。
押出しファイリングでは、様々な紙を同じサイズの封筒に入れることが、これにあたります。また、「超」整理手帳は、A4サイズの紙であればなんでもセットできるカンガルーホルダーを備えていますが、これは、A4サイズに規格化した紙情報を活用するための仕組みです。
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このように、私は、部屋の片付けと知的生産の経験から、「多種多様な何かを、共通の「入れ物」にしまうことによって、規格化・単位化する」ということに、強い興味を抱いていました。
「コンテナ」は、高度にシステム化された「入れ物」です。「コンテナ」は、荷物を規格化し、単位化することによって、世界規模の物流システムを支えています。「コンテナ」システムを学べば、「入れ物」による規格化・単位化がどんな価値を実現するのかを考えるための、大きなヒントが得られるのではないかと考え、私は『コンテナ物語』を読みました。
(3) 「入れ物」による規格化・単位化を考えるための教材として、『コンテナ物語』を読む
『コンテナ物語』は、私が持っていた主観的な関心の軸の両方に、正面から答えてくれました。
ひとつめの軸との関係では、『コンテナ物語』は、世界規模の物流システムを解説した本です。しかも、現時点でのシステムのあり方を説明するだけでなく、このシステムが、誰のどのような動機と行動によって生み出されたのかを、物語のように描いています。まさに、ひとつめの関心の軸に正面から答えてくれる本でした。
でも、それ以上に面白かったのが、ふたつめの軸との関係です。『コンテナ物語』のテーマは、「コンテナ」であって「入れ物」ではありません。『コンテナ物語』が扱うのは、徹頭徹尾「コンテナ」であって、収納ボックスや情報カードなど、他の「入れ物」は出てきません。しかし、それでも、『コンテナ物語』からは、「入れ物」による規格化・単位化を考えるための、よいヒントをたくさん受け取ることができました。
私は、『コンテナ物語』を、「入れ物」による規格化・単位化を考えるための教材として、読みました。
そこで、項を改めて、『コンテナ物語』から受け取ったヒントを紹介しつつ、「入れ物」による規格化・単位化が実現する価値を考えてみます。
2.「入れ物」による規格化・単位化が実現する価値を考える
「入れ物」による規格化・単位化との関係で、『コンテナ物語』から私が受け取ったヒントは、2つあります。どちらも、「「入れ物」による規格化・単位化が価値を実現するには、どんな条件を備える必要があるのか?」ということに関連します。
(1) フローを貫くシームレスなシステム
a.「コンテナ」は、シームレスなシステムである
ひとつめのヒントは、「コンテナ」がシームレスなシステムを実現した、ということです。
「コンテナ」は、海運から始まりました。しかし、「コンテナ」が世界に革命的な変化をもたらしたのは、「コンテナ」が海運だけにとどまらず、鉄道、トラック、船による、シームレスな貨物運送を実現したためです。
そもそもコンテナの基本的なコンセプトは、「輸送単位を共通化し鉄道、トラック、船によるシームレスな貨物輸送を実現する」ことにある。
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やがてインターモーダル方式が導入され、コンテナ輸送は船からトラックまたは鉄道へ、あるいはその逆という具合にシームレスなシステムに変貌を遂げる。
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「コンテナ」は、単なる物体ではありません。シームレスな運送システムを構成する重要な要素です。
この実用的な物体の価値は、そのモノ自体にあるのではなく、その使われ方にある。さまざまな経路と手段を介して最小限のコストで貨物を運ぶ高度に自動化されたシステム。その主役が、コンテナである。
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「コンテナ」は、全世界をカバーするシームレスな運送システムの中を移動します。
おそろしいスピードで進行するこうした作業によって、コンテナ貨物は全世界をカバーするシームレスな輸送システムを移動していく。
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全体のフローを貫くシームレスな運送システムの中を移動することによってこそ、「コンテナ」による規格化・単位化は、大きな価値を実現しているのです。
b.全体のフローを貫くシームレスなシステムを作ってこそ、「入れ物」による規格化・単位化は、価値を実現する
これを「入れ物」一般に広げると、どんなことがいえるでしょうか。
それは、「入れ物」による規格化・単位化は、全体のフローとの関係を考えないと、あんまり意味がない、ということです。全体のフローを貫くシームレスなシステムを組み立ててこそ、「入れ物」による規格化・単位化は、大きな価値を実現します。全体のフローを貫くシームレスなシステムがないなら、「入れ物」による規格化・単位化をしても、それほど大した成果は期待できない、ということです。
たとえば、部屋を片付けるために雑然とした物を収納ボックスという「入れ物」に格納するケースを考えてみます。全体のフローは、物を片付ける目的によってちがいます。頻繁に使うものなのか、年に数回程度しか使わないものなのか、二度と使わないと思うが捨てる判断のためにしばらく保管しているものなのか、使わないけれど捨てられない思い出の品なのかによって、全体のフローは変わってきます。そんな全体のフローの中に、収納ボックスを位置づけなくてはいけません。頻繁に使うなら、取り出しやすい場所に、取り出しやすい形で置いておく、などです。
また、たとえば、知的生産のために情報をカードという「入れ物」に格納するケースを考えてみます。全体のフローは、知的生産なので、インプット→操作→アウトプットです。最終的なアウトプットが文章を書くことなら、そのための材料になるように格納する必要があります。本からの引用なら、書名やページなどの出典情報を明記する、などです。
くり返しになりますが、肝心なことは、全体のフローを貫くシームレスなシステムを描き、「入れ物」をそのシステムの中に位置づけることです。規格化・単位化だけで満足していては、「入れ物」の価値は半減してしまいます。
(2) 「入れ物」の中身に触れることと、「入れ物」自体を動かすことを、区別する
a.「コンテナ」の中身に誰も手を触れず、「コンテナ」の物流が完了する
ふたつめのヒントは、「コンテナ」が輸送される間、「コンテナ」の中身に誰も触れない、ということです。
もう一つ特筆すべき点は、この間にコンテナの中身に誰も手も触れないということだ。
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輸送の間、「コンテナ」は開封されません。中身に誰も手を触れないということは、当たり前といえば当たり前です。
でも、これは本当に当たり前なのでしょうか。そうではないような気がします。
たとえば、A国が、自国で生産したリンゴ(フジと紅玉)とバナナとみかんを、海外のB国に輸出する例を考えてみましょう。B国にはB1地域、B2地域、B3地域があり、B1地域のなかにあるB1-1県はフジとバナナを必要としています。
A国からB国の港までは、船を使います。B国の港からB1地域の駅までは、貨物列車を使います。B1地域の駅からB1-1県までは、トラックを使います。
このとき、次のような運送方法はどうでしょうか。
- A国の港から、リンゴだけを格納したコンテナ、バナナだけを格納したコンテナ、みかんだけを格納したコンテナを、B国の港へ、船で運ぶ
- B国の港で、B1地域向けの果物を格納するコンテナ、B2地域向けの果物を格納するコンテナ、B3地域向けの果物を格納するコンテナに入れ替えて、B1地域向けの果物を格納するコンテナを貨物列車でB1地域に運ぶ
- B1地域の駅で、B1-1県向けのフジとバナナだけを仕分けしてコンテナに格納し、そのコンテナをトラックでB1-1県へ運ぶ
ありえなくはない気がします。しかも、出荷するA国からすれば、このほうが簡単です。
しかし、実際の運送システムは、こうはなっていません(たぶん)。コンテナは、A国の港から船で運ばれ、B国の港を経由して貨物列車でB1地域に運ばれ、B1地域の駅を経由してトラックでB1-1県に運ばれる間、ずっとそのままです。
なぜかといえば、この方がずっと合理的だからです。ひとつの「コンテナ」は、船、列車、トラックなど、様々な運送手段によってシームレスに運ばれ、この間、いちいち開封されたりしません。
では、このような合理的なシステムを実現するには、どんな条件を満たす必要があるでしょうか。
ポイントは、「コンテナ」に格納する単位にあります。複数の目的地に運送すべきものをひとつのコンテナに混ぜてしまうと、途中でコンテナを開封する必要があります。そこで、コンテナの単位は、目的地ごとでなければいけません。運ぶものの性質(リンゴかバナナかみかんか、など)ではなく、目的地(B1地域、B2地域、B3地域など)によって、コンテナの単位を分けることが大切です。
「コンテナ」に格納する単位は、目的から決めなければいけない。これが、ここでのヒントから得た知見です。
b.「入れ物」一般への応用:枠組みと単位
さて、これを「入れ物」一般に応用してみましょう。
(a) 2段階の枠組みを認識し、活用する
まず、「入れ物」の中身に触れることと、「入れ物」自体を動かすことを区別する、という2段階の枠組み自体が、参考になります。
「入れ物」の中身に触れることとは、何かを「入れ物」に格納したり、「入れ物」の中身を入れ替えたり、「入れ物」の中身に変更を加えたりすることです。
これに対して、「入れ物」自体を動かすこととは、「入れ物」を移動したり、「入れ物」を並べ替えたり、「入れ物」を組み立てたりすることです。
「コンテナ」から学べることは、この2つを区別することの合理性です。つまり、「入れ物」自体を動かすときは、「入れ物」を開封しないままにしておき、中身に触れない方が、スムーズだ、ということです。「入れ物」自体を動かすことと、「入れ物」の中身をいじることは、別の性質の作業です。これら両方を同時並行でやろうとすると、しばしば混乱します。
たとえば、部屋を片付けるなら、第1段階として雑然とした物を収納ボックスに格納し、第2段階として収納ボックスをクローゼットの枕棚などに並べます。この2段階に分けることで、作業は確実に進むわけです。
たとえば、知的生産の場面では、第1段階として知的生産の素材となる情報をカードなどに記録し、第2段階としてこれらのカードを組み立てたり並べ替えたりして一貫した筋を作ります。この2段階に分けることで、知的生産の作業は確実に進みます。
文章を書くことにこれを応用することもできます。ひとつのメッセージや断片的な着想、フレーズやキーワードを書くことが、第1段階。それらの断片的な言葉を組み立てたり並べ替えたりして文章に整えることが第2段階。この2段階に分けて書くことで、文章を書く作業を、一歩一歩着実に進めることができます。
(b) 「入れ物」に格納する単位を、目的から考える
次に、「入れ物」に格納する単位についても、大きなヒントを与えてくれます。
合理的なコンテナシステムのためには、コンテナに格納する単位が大切なのでした。これと同じように、「入れ物」による規格化・単位化を活かすためには、「入れ物」に格納する単位が大切です。
収納ボックスに物を収納するにしても、スペースが空いているからといって、相互に無関係な雑多なものをひとつの収納ボックスに格納してしまうと、かえって収納がうまくいきません。
情報カードに着想をメモするにしても、紙のスペースに余裕があるからといって、ひとつのカードにたくさんの着想をメモすると、あとからそのカードを活用するのがやりにくくなります。単位を小さく分けることが肝心です。
では、この単位分けは、どのように行えばよいのでしょうか。
それは、目的によって決まります。「入れ物」は、全体のフローの中に位置づけられるべきものでした。「入れ物」には、全体のフローが先行します。そして、全体のフローには、何らかの目的があります。そこで、単位は、この目的から決めたらよいわけです。
たとえば、収納ボックスに格納するものの単位は、使用場面や保管期間、永久保存なのか捨てる前のバッファー的保存なのか、などによって決まります。
たとえば、押出しファイリングにおける封筒への格納は、書類の使用場面や役割によって決まります。カードに記録する情報の単位は、その情報を活用する場面によって変わります。本からの抜き書きなら、引用場面になります。1項目全部引用したいのか、段落ごと引用したいのか、1文だけ引用したいのか、などです。
3.まとめ
まとめます。
『コンテナ物語』は、「コンテナ」による物流革命をわかりやすく解説しています。「コンテナ」が物流に革命をもたらし、世界を大きく変えた軌跡を、ドラマチックに描いており、読み物としても面白いため、一押しです。
私は、『コンテナ物語』を、「入れ物」による規格化・単位化を考えるための教材として、読みました。
この観点で、私が『コンテナ物語』から学んだことは、2つあります。
ひとつめは、全体のフローを貫くシームレスなシステムを描き、「入れ物」をそのシステムの中に位置づけることの大切さです。「入れ物」は中身を規格化・単位化してくれますが、それだけで満足していては、「入れ物」の価値は半減してしまいます。
ふたつめは、「入れ物」に格納したものの操作と「入れ物」自体の操作を区別する、という2段階の枠組みで物事を操作することの意義と、この2段階の枠組みのためには「入れ物」に格納する単位に留意する必要がある、ということです。そして、「入れ物」に格納する単位は、「入れ物」に先行する全体のフローが実現すべき目的から決める必要がある、ということです。
『コンテナ物語』、「入れ物」の奥深さを実感した1冊でした。
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