知的生産のフローとWorkFlowy
目次
1.知的生産のフロー
(1) 『知的生産の技術』と、知的生産のフロー
『知的生産の技術』は、知的生産とは「あたらしい情報をつくりだす作業」だとします。
知的生産とは、知的情報の生産であるといった。既存の、あるいは新規の、さまざまな情報をもとにして、それに、それぞれの人間の知的情報処理能力を作用させて、そこにあたらしい情報をつくりだす作業なのである。
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この定義には、次のような、知的生産についての流れ、フローを見て取ることができます。
- 情報のインプット
- 「既存の、あるいは新規の、様々な情報をもとにして」
- 情報の操作
- 「それに、それぞれの人間の知的情報処理能力を作用させて」
- 情報のアウトプット
- 「そこにあたらしい情報をつくりだす作業」
この知的生産をフローと捉える見方は、『知的生産の技術』の章立てにも現れています。
- はじめに
- 1 発見の手帳
- 2 ノートからカードへ
- 3 カードとそのつかいかた
- 4 きりぬきと規格化
- 5 整理と事務
- 6 読書
- 7 ペンからタイプライターへ
- 8 手紙
- 9 日記と記録
- 10 原稿
- 11 文章
- おわりに
つまり、
- 情報のインプット
- 着想のカード化(「発見の手帳」)
- 新聞の切り抜き・規格化
- 読書のカード化
- 情報の操作
- カードの操作
- 情報のアウトプット
- こざね法
- タイプライター・手紙・原稿の使い方
という流れがあります。
さらに、『知的生産の技術』は、アウトプットに関連して、知的生産を市民による積極的な社会参加の仕方として捉えることを提唱します。
また、人間の知的活動を、教養としてではなく、積極的な社会参加の仕かたとしてとらえようというところに、この「知的生産の技術」というかんがえかたの意味もあるのではないだろうか。
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(2) 知的生産をフローとして捉える
知的生産をフローとして捉える、という視点は、私が『知的生産の技術』から学んだもっとも大切なことのひとつです。
知的生産は、フローです。知的生産は、「情報のインプット」→「情報の操作(組み立て・並べ替えなど)」→「情報のアウトプット」というように流れていきます。
知的生産の質や量を評価するには、フロー全体を見なければいけません。「情報のインプット」、「情報の操作(組み立て・並べ替えなど)」、「情報のアウトプット」のそれぞれを個別に見るのではなく、「情報のインプット」→「情報の操作(組み立て・並べ替えなど)」→「情報のアウトプット」というフロー全体を見る必要があります。
まず、「情報のインプット」だけでは意味がありません。インプットした情報を下流の「情報の操作」や「情報のアウトプット」へと流してこそ、「情報のインプット」は価値を持ちます。どれほどたくさんの本を読んでも、どれほど徹底的に新聞の切り抜きを蓄えても、どれほど丁寧にカードを作っても、知的生産という観点からは、それだけでは意味がない、ということです。
つぎに、「情報の操作」だけを考えることはできません。「情報の操作」は、フロー上流の「情報のインプット」に制約されますので、「情報のインプット」が貧しければ、「情報の操作」も豊かにはなりません。たとえば、「発見の手帳」で着想をメモしたり、読書から得た情報をカードに蓄積するといった情報のインプットをしなければ、操作する材料となる情報が不足してしまいます。
また、操作した情報を下流の「情報のアウトプット」へと流してこそ、「情報の操作」は価値を持ちます。情報を複雑に組み立て、高度で緻密なことを考えても、考えているだけで終わっていては、知的生産としては、無意味です。
それから、「情報のアウトプット」だけを考えることはできません。「情報のアウトプット」は、フロー上流の「情報のインプット」と「情報の操作」に制約されますので、これらが貧しいなかで、「情報のアウトプット」だけを豊かにすることはできません。時間を捻出し、力を振り絞り、アウトプットを重視しても、情報のインプットと情報の操作が不足していれば、アウトプットするための材料や思索が足りず、質の高いアウトプットにつながらないのです。
このように、よい知的生産を望むなら、知的生産のフローを全体として考えることが大切です。フローを構成する一部分だけ個別に取り上げるのでは、足りません。
2.知的生産のフローとWorkFlowy
(1) 『知的生産の技術』とWorkFlowy
『知的生産の技術』とWorkFlowyの間には、(少なくとも私の主観では、)強い関連性があります。このことを私は、これまでに次の3つの記事で書きました。
最初の記事は『知的生産の技術』の「発見の手帳」をWorkFlowyで実現する方法を考えたもの、次の記事は『知的生産の技術』の各章をWorkFlowyの視点からふり返ったもの、最後の記事は『知的生産の技術』のカード・システムとWorkFlowyとの類似点をまとめたものです。いずれも、わりと具体的な関連性を考察しました。
ですが、『知的生産の技術』とWorkFlowyは、もう少し抽象的なレベルでも、強く関連するところがあるように思います。それは、先ほど整理した「知的生産をフローと捉える」という視点です。
『知的生産の技術』は、知的生産をフローと捉えています。一方、WorkFlowyを知的生産のためのツールとして使うことによって私が実現できたことは、要するに、「WorkFlowyの中に知的生産のフローを流す」ということではないかと思うわけです。
(2) WorkFlowyの中を、知的生産のフローは、どのように流れているか
では、私の知的生産のフローは、私のWorkFlowyの中を、どのように流れているのでしょうか。「情報のインプット」→「情報の操作」→「情報のアウトプット」という段階ごとに、ふり返ります。
a.「情報のインプット」段階
(a) 読書と「発見の手帳」
「情報のインプット」段階について、私の知的生産のフローで大きな位置づけを占めるのは、読書と「発見の手帳」です。
読書は、「抜き書き読書ノート」というものをWorkFlowyで作っています。
「発見の手帳」も、今はWorkFlowyです。
WorkFlowyで「発見の手帳」(『知的生産の技術』とWorkFlowy)
(b) WorkFlowyのImport機能
なお、「情報のインプット」段階で、知的生産のフローのためにWorkFlowyがどう役に立つかを考えるには、WorkFlowyのImport機能をおさえておくとよいかと思います。実に便利な機能です。
WorkFlowyのImportの基本(テキストファイル、Excel、Evernote)
b.「情報の操作(組み立て・並べ替え)」段階
次に、「情報の操作」段階を考えてみます。
(a) トピックの移動と階層化による意味の構造の組み立て
「情報の操作」とは、情報の組み立てや並べ替えです。情報を記録した何か(カードとかファイルとかノートとか)を、組み立てたり並べ替えたりすることによって、筋の通った新しい情報へと構成します。
WorkFlowyでは、トピックを移動し、トピックを階層構造に組み立てることによって、情報を操作します。
トピックの移動については、以下の記事をご覧ください。
トピックの階層構造については、以下の記事をご覧ください。
トピックを移動して階層構造に組み立てることは、意味の構造を組み立て、文章の構造につなげることを意味するような気がしています。
(b) 情報の場所を移動することによる情報のメタ化
また、「情報の操作」には、情報を記載する場所を移動することで、情報を抽象化・メタ化していく、という面もあります。具体的には、『思考の整理学』で紹介されていた「メタ・ノート」です。WorkFlowyは、「メタ・ノート」とも抜群の相性を持っています。
c.「情報のアウトプット」段階
(a) 文章を書く
「情報のアウトプット」は、私の知的生産のフローでは、9割方が「文章を書く」です(残り1割が、セミナーや講演だったり大学の講義だったりします)。
私は、文章を書くためのツールとして、WorkFlowyを使っています。
WorkFlowyで文章を書く理由はいくつかありますが、WorkFlowyが「大量の書きかけの文章群全体を管理するための仕組み」として優れていることが、大きな理由です。また、感情的・感覚的なのですが、WorkFlowyで文章を書くことがとても気持ちよく、大好きだというのも、大きな理由です。
なぜ、WorkFlowyで文章を書くのか(WorkFlowyで文章を育てる)
(b) ハサミスクリプトと知的生産のフロー
知的生産のフロー全体を考えるという視点からは、もうひとつ重要なことがあります。それはハサミスクリプトです。
ハサミスクリプトとは、WorkFlowyのトピック階層構造に応じて、トピックに記載されたテキストを、HTMLなどに変換するプログラム(AppleScriptやブックマークレット)です。マロ。さんがたくさんのバージョンを作成し、公開しています。
WorkFlowyをブログツールに。ハサミスクリプトファミリーの整理(Win&Mac・HTML&マークダウン&はてな記法)
WorkFlowyとハサミスクリプトを組み合わせると、「変化し続けるWorkFlowy」から「暫定的な作品群」を切り取り、ウェブにブログ記事として公開する、という流れを作ることができます。この意味で、ハサミスクリプトは、知的生産のフローをWorkFlowyの中を流す上で、大きな役割を果たしています。
ハサミスクリプトは、何から、何を、切り取るのか?(変化し続けるWorkFlowyから暫定的な作品群を切り取るという、個人の知的生産システム)
3.おわりに
この記事では、『知的生産の技術』が提示した「知的生産をフローとして捉える」という視点が、WorkFlowyというツールによってどのように具体的に実現されているのか、考えてみました。
引き続き検討したいことは、「なぜ、WorkFlowyは、知的生産をフローとして捉えることを、うまく実現してくれるのか?」「なぜ、WorkFlowyの中を、知的生産のフローが、うまく流れていくのか?」です。
明確な回答を持っているわけではありません。でも、ポイントのひとつは「トピック」にあるのではないか、と考えています。つまり、「トピック」という入れ物があるからこそ、「トピック」という入れ物にテキスト情報を格納するからこそ、知的生産のフローがWorkFlowyの中をうまく流れていくのではないかなあ、ということです。
この点は、後日、改めて考えてみるつもりです。
お知らせ
このエントリは、その後、加筆修正などを経て、書籍『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の一部分となりました。
書籍『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の詳細目次と元エントリは、次のとおりです。
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