「文章を書くツール」の変遷
1.はじめに
私にとって、「文章を書く」ことは、特別で大切な行動です。
仕事の上でも、「文章を書く」ことは重要です。趣味の点でも、「文章を書く」ことは暮らしに彩りを加えてくれています。さらに、仕事や趣味よりももう少し手前の生きる土台にとっても、「文章を書く」ことが確かな役割を果たしている気がします。
●
「文章を書く」ことが特別で大切な行動になったのは、今から十数年前の、大学生のころです。そのころから今日まで、私は、「文章を書く」ことを続けてきましたし、「文章を書く」ことは、私にとって、特別で大切な行動であり続けてきました。
でも、「文章を書く」という行動の具体的なあり方は、かなり変わりました。特に、「文章を書くツール」は、この十数年の間、まったく一貫していません。
そこで、以下、この間の「文章を書くツール」の変遷を整理します。
2.「文章を書くツール」の変遷
(1) B6サイズのノート
1番目のツールは、B6サイズのノートでした。1冊100円程度でコンビニや文具店で売っている、小さめのサイズのノートです。
使い方で決めていたのは、次の3つです。
- 1ページに1つの文章
- 冒頭に文章のタイトルを書く
- 必ず日付を入れる
1日3〜5ページくらい書いていたと思います。
(2) テキストエディタ
2番目のツールは、テキストエディタでした。
大学生のころはMacを使っていたので、miというテキストエディタを使っていました。
その後、所属組織の事情などからWindowsユーザーになったのを機に、秀丸エディタに切り替えました。
テキストエディタの使い方は、B6ノートの使い方を踏襲していました。
つまり、
- 1つのファイルに1つの文章
- 1行目とファイル名に文章のタイトルを書く
- 2行目とファイル名に日付を入れる
という3つが基本ルールです。
このルールで書くと、たくさんのテキストファイルが発生します。これらのテキストファイル群は、『「超」整理法』の考え方に従い、基本的に分類せず、ひとつのフォルダに全部放り込んでいました。
(3) 紙copi
3番目のツールは、紙copiでした。
紙copiはWindows用のスクラップブック用ソフトです。「紙」というファイルにテキストやHTMLを保存し、「紙」を「箱」というフォルダで管理することに特徴があります。
私は、スクラップ機能は使わずに、もっぱら「紙」にテキスト形式の文章を書いて使っていました。
紙copiの使い方も、B6ノートやテキストエディタと、大筋では大差ありません。
- 1つのファイル(「紙」・実体はテキストファイル)に1つの文章
- 1行目に文章のタイトルを書く(自動的に1行目がファイルタイトルになる)
- 日付は、気が向いたら書く(書かなくても、作成日・更新日を簡単に確認できるので、困らない)
という3つでした。
紙copiは、「箱」というフォルダを作ることができます。でも、「箱」による分類はあまり使わず、基本的には、ひとつの「箱」にすべてのファイル(「紙」)を放り込んでいました。この点も、テキストエディタを踏襲していました。
(4) Evernote
4番目のツールは、Evernoteでした。
Evernoteは、クラウドの個人用データベースツールです。
Evernoteは、いろんなデータを、ノートに保存して、管理します。ノートに保存できるデータ形式は、とても幅広いです。テキスト、画像、動画、音声はもちろん、PDFやWordなど、特定のアプリケーション用のデータも保存できます。
私も、当初、Evernoteを、何でも保存できるデータベースとして活用しようとしました。でも、使っているうちに、文章を書くツールとしてEvernoteを使うことこそが、自分にとってEvernoteの力を発揮させるためのもっともよい使い方だ、と感じました。
そこで、その後は、すべての文章を書くためのツールとして、Evernoteを使い始めました。
文章を書くツールとしてのEvernoteの使い方は、紙copiまでと同じような感じで、
- 1つのノートに1つの文章
- 1行目に文章のタイトルを書く(自動的に1行目がノートタイトルになる)
- 日付は、気が向いたら書く(書かなくても、作成日・更新日を簡単に確認できるので、困らない)
というものでした。
(5) WorkFlowy
5番目のツールは、WorkFlowyです。現役の「文章を書くツール」になります。
WorkFlowyは、クラウドのメモツールです。テキストをトピックに格納し、大量のトピック群をひとつの階層つきリストとして管理することに特徴があります。
WorkFlowyは、いろんな役割を果たします。この中でも、「文章を書く」という用途は、WorkFlowyの力をうまく活かせるものだと感じます。
私が文章を書くツールとしてWorkFlowyを使う方法は、概ね、こんな感じです。
- 1つのトピックの配下の複数のトピックで、1つの文章を組み立てる
- 最上位のトピックが、暫定的なタイトルになる
- 日付は、書かない
3.「文章を書くツール」5つの間に存在する、4つの変遷
このように、私の「文章を書くツール」は、次の5つでした。
- B6サイズのノート
- テキストエディタ
- 紙copi
- Evernote
- WorkFlowy
これら5つのツールには、次の4つの変遷があります。
- B6サイズのノート/テキストエディタ・紙copi・Evernote・WorkFlowy
- B6サイズのノート・テキストエディタ/紙copi・Evernote・WorkFlowy
- B6サイズのノート・テキストエディタ・紙copi/Evernote・WorkFlowy
- B6サイズのノート・テキストエディタ・紙copi・Evernote/WorkFlowy
これら4つの変遷は、それぞれ、ちょっとした特徴があります。
以下、この4つについて考えてみます。
(1) B6サイズのノート/テキストエディタ・紙copi・Evernote・WorkFlowy
最初の変遷は、B6サイズのノートからテキストエディタです。
この特徴は、アナログからデジタルへ、です。それ以前はB6サイズのノートにペンで書くというアナログだったのに対して、テキストエディタ以降、デジタルデータで文章を書くようになりました。
アナログからデジタルへ移り変わったことによって生じた影響は、以下のものです。
- 記載順序を気にする必要がなくなった。デジタルで書くなら、最初から最後まで順番に書かなくてもよい。
- 書いたものの再利用の道が開かれた
- 書いても書いても、スペースが足りなくなったり、処分に困ったり、という心配がなくなった
(2) B6サイズのノート・テキストエディタ/紙copi・Evernote・WorkFlowy
2番めの変遷は、テキストエディタから紙copiです。
この特徴は、ひとつの文章を書くことから、複数の文章群を書くことへ、です。それ以前はひとつのテキストファイルを新規作成で作り、ファイル名を付けて保存することにより、ひとつの文章を書く、という流れでした。でも、紙copiによって、新しい文章を書き始めるために、いちいちひとつのファイルを新規作成で作る必要がなくなりました。
ひとつの文章を書く、から、複数の文章群を書く、へと移り変わったことによって、こんな課題が解消されました。
- 以下の作業が不要になったことで、新しい文章を書き始めるハードルが劇的に下がった
- ファイルに名前をつける
- ファイルを保存する
- 以下の機能によって、複数の文章群全体を、対象として把握できるようになった
- ファイルを開かなくても、一覧画面でファイルを選択するだけで、ファイルの中身を確認することができるようになった
- 箱というフォルダで、紙というファイルを整理できるようになった(さらに、紙copi上で、紙(ファイル)を箱(フォルダ)に分類整理できるようになった
(3) B6サイズのノート・テキストエディタ・紙copi/Evernote・WorkFlowy
3番目の変遷は、紙copiからEvernoteです。
この特徴は、1台のパソコンからクラウドへ、です。それ以前は、文章を書くために紙copiを使うパソコンをひとつに決める必要がありました。でも、Evernoteはマルチプラットフォームのクラウドサービスなので、自宅のWindowsデスクトップからも、持ち歩き用のWindowsモバイルノートブックからも、スマートフォンからも、どこからでも、文章を書けるようになりました。
Evernoteが実現してくれたのは、テキストデータのポケット一つ原則でした。
Evernoteがテキストデータのポケット一つ原則を実現してくれたことは、「Evernoteという作業場に行きさえすれば、文章を書くことに関連するすべてが、そこにある」という状態でした。これによって、こんな恩恵を受けました。
- 書きたい気分を逃さないようになった
- そのときの書きたい気分に対応する書きかけの文章が、Evernoteにある
- 「以前、同じテーマで途中まで書いたかも」という疑念に惑わされなくなった
- すべてがそこにあるので
- すきま時間で少しずつ文章を育てる、という感覚を養えた
(4) B6サイズのノート・テキストエディタ・紙copi・Evernote/WorkFlowy
4番目の変遷は、EvernoteからWorkFlowyです。
この特徴は、ひとつの文章のためにひとつのファイルから、ひとつの文章のために大量のトピック、です。
Evernoteまでは、B6サイズのノートも、テキストエディタも、紙copiも含め、私の文章の書き方は、ひとつの文章を書くためにひとつのページやファイルや「紙」やノートを用意する、というものでした。
でも、WorkFlowyでは、そうではありません。WorkFlowyは、「ひとつの文章は大量のトピックの集合体である」と考えています。ひとつの文章のためにひとつの何かを用意するのではなく、大量のトピックをひとつの文章へと組み立てるのが、WorkFlowyによる文章の書き方です。
WorkFlowyで文章を書くようになって私が実感することは、ひとつの文章という単位はあくまでも仮の区切りで、この区切りの内側にも、外側にも、たくさんの文章になりうる何かがある、ということです。小さく区切れば短い文章になり、大きく区切れば長い文章になる、という、文章群・文章・文章の構成要素の流動性を、WorkFlowyはうまく捉えています。
●
他方で、WorkFlowyという5番目の「文章を書くツール」は、これまでの3つの変遷を含んでいます。
- デジタルなので、どこから書き始めてもよいですし、再利用も簡単です。
- わざわざ新しいファイルを作る必要もなければ、中身を確認するためにファイルを開く必要もないので、文章群の管理もできます。
- マルチプラットフォームのクラウドサービスなので、机のデスクトップからも持ち歩くMacからもiPhoneからもアクセスできる、文章を書く作業場です。
そのため、WorkFlowyは、クラウドによるテキストデータのポケット一つ原則を実現するためにも、Evernoteに負けていません。
4.おわりに
「文章を書くツール」は、ツールです。ツールに過ぎません。どんなツールを使おうと、最終成果物として生み出されるのは、「文章」という共通のものです。
しかし、どんな「文章を書くツール」を使うかによって、「文章を書く」ことの具体的な作業や手順は大きく変わります。そして、これにともなって、「文章を書く」という行動を通じて、どんなことを考えるかや、どんなことを感じるか、も変わります。
自分が体験した「文章を書くツール」の変遷をふり返って感じることは、「文章を書くツール」は、最終成果物である「文章」よりもむしろ、「文章を書く」という行動それ自体の意味の点で、ちがいを生み出すのかもしれません。
これからも、いろんな「文章を書くツール」を体験することで、いろんな「文章を書く」という行動を積み重ねながら、生きていけたらいいな、と感じます。
お知らせ
このエントリは、その後、加筆修正などを経て、書籍『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の一部分となりました。
書籍『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の詳細目次と元エントリは、次のとおりです。
スポンサードリンク
関連記事
-
WorkFlowyで作るKindle本の「読書ノート」の実例:『三色ボールペンで読む日本語』
1.はじめに 『ソーシャル時代のハイブリッド読書術』を読んでから、「読書ノート」を作る習慣を始めまし
-
土台を固める堅実なバージョンアップ・HandyFlowy Ver.1.3のお知らせ
HandyFlowyは、スマートフォンから使うWorkFlowyを驚くほど便利にするアプリです。
-
メロンパンナちゃんの描き方を覚えよう! メロンパンナちゃんの描き方を、項目番号付階層文章で詳細解説。
この文章は、この文章(メロンパンナちゃんの描き方)を、項目番号付項目で階層化した文章のサンプルです。
-
『WorkFlowy文章作法』の「はじめに」
本書について こんにちは。本書『WorkFlowy文章作法』では、 WorkFlowyで文章を書く
-
レポート課題に取り組むときの留意点
私は、大学の非常勤講師として学部生向けの講義をひとつ担当しているのですが、その講義の単位認定には試験
-
アドオン「Stylish」で「WorkFlowy専用Firefox」に機能を追加する
1.「WorkFlowy専用Firefox」を、一段高いレベルに引き上げてくれたアドオン「Styli
-
『知的生産の技術』のカード・システムと、WorkFlowy
前回は、シゴタノ!の倉下忠憲さんの記事を下敷きにして、『知的生産の技術』の各章を、WorkFlowy
-
『文章教室』(結城浩)練習問題実践記録・第9回「接続詞をうまく使いましょう」
この文章は、結城浩先生の『文章教室』に取り組んだ記録です。 →文章教室 第1回~第8回の記録は、
-
磯野家の家系図版「WorkFlowy用語の基礎知識」(2)トピック群を特定したり表現したりするための用語
1.はじめに 「私家版WorkFlowy用語の基礎知識(β版)」を、スクリーンショットや具体例を用い
-
Androidをどう使うかの転換~情報を消費するツールから思考と生産を補助するツールへ~
1.いちばん身近にある道具の使い方 先日ふと気づいたのですが、私にとって、いちばん身近にある道具は