「情報を区切る単位はトピックだけでいい」というWorkFlowyの思想
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WorkFlowy
目次
1.WorkFlowyは、思想を持っている
WorkFlowyを使っていると、WorkFlowyは思想を持ってるなあ、と感じます。
クラウドアウトライナーという実用的なツールであるWorkFlowyと、思想というあんまり実用的ではないものとの間には、ずいぶんと距離があるような気もします。
でも、WorkFlowyは、いくつかの基本設計について、なぜその基本設計を採用したのかについての明確な理由を持っています。そして、この明確な理由は、単に「こうした方が便利だから」とか「この方がユーザーの要望に合っているから」を超えて、「この方が自然だから」とか「こうあるべきだから」といった、思想といっても大げさではないほど確固たるもののように、私には感じられます。
たとえばWorkFlowyの基本設計のひとつは、「ひとつのアカウントにつきひとつのアウトラインしか認められていない」です。これは、一見奇妙な基本設計ですし、多くのユーザーは、複数の方が使いやすいから使わせてくれ、と感じるのではないかと思います。
しかし、この基本設計には、「アウトラインはひとつあれば十分だし、ひとつだけの方がむしろよい」というWorkFlowyの思想があります。だからこそ、WorkFlowyは、仮にひとつのアカウントにつき複数のアウトラインを認めてくれ、というユーザーの声が盛り上がっても、きっとこれを認めません。
「アウトラインはひとつあれば十分だし、ひとつだけの方がむしろよい」というWorkFlowyの思想を肯定する。
2.「トピックのほかに、情報を区切る単位を持たない」というWorkFlowyの思想
アウトラインの個数は、かなり根本的なWorkFlowyの基本設計だと思うのですが、これと同じくらい基本的な設計だと私が感じているのは、「トピックのほかに、情報を区切る単位を持たない」という点です。
(1) 複数の単位で情報を区切ることができるツール(テキストエディタとEvernote)
WorkFlowy(などのプロセス型アウトライナー)以外のツールは普通、情報を区切る単位を、複数、持っています。
たとえば通常のテキストエディタを考えてみましょう。
まず、テキストファイルという単位があります。それから、複数のテキストファイルをまとめて管理するために、フォルダという単位を持っています(まあ、フォルダはテキストエディタが持つ単位ではなく、WindowsのエクスプローラやMacのFinderのような、OSレベルの単位ではありますが)。それから、テキストファイルの中も、項目や段落という単位で情報を区切ることができます。
Evernoteも同じです。
テキストエディタのテキストファイルに相当するのが、Evernoteのノートです。ノートは、ノートブックという単位で区切ることができ、ノートブックはノートブックスタックという単位で区切ることができます。また、ひとつのノートの中は、段落や項目という単位で区切ることもできますし、区切り線や画像や添付ファイルという単位で区切ることもできます。
情報を区切る単位を複数持っているツール、テキストエディタやEvernoteなどは、どの単位がどの単位を格納できるかの点で、制約があります。この単位を格納できるのはこの単位だけ、などと、あらかじめ決まっています。
たとえばテキストエディタは、テキスト本文を格納できるのはテキストファイルだけで、テキスト本文をフォルダに格納することはできません。また、テキストファイルを格納できるのはフォルダだけで、あるテキストファイルが別のテキストファイルを格納することはできません。
- フォルダA
- テキストファイルa
- テキスト情報(a)
- テキストファイルa
- フォルダB
- テキストファイルb
- テキスト情報(b)
- フォルダC
- テキストファイルc1
- テキスト情報(c1)
- テキストファイルc2
- テキスト情報(c2)
- テキストファイルc1
- テキストファイルb
同じように、Evernoteは、およそあらゆる情報をEvernoteにしまうことができるツールではありますが、およそあらゆる情報を格納できる単位は、ノートだけです。画像をそのままノートブックやノートブックスタックに格納することはできません。また、ノートを格納できるのはノートブックだけですし、ノートブックを格納できるのはノートブックスタックだけです。
- ノートブックスタック
- ノートブックA
- ノートa
- 情報(a1) テキスト
- 情報(a2) 画像
- 情報(a3) 動画
- ノートa
- ノートブックB
- ノートb1
- 情報(b1) Wordファイル
- ノートb2
- 情報(b2) PDFファイル
- ノートb3
- 情報(b3) Excelファイル
- ノートb1
- ノートブックA
- ノートブックスタック
- ノートブックC
- ノートc1
- 情報(c1)
- ノートc2
- 情報(c2)
- ノートc1
- ノートブックD
- ノートd
- 情報(d)
- ノートd
- ノートブックC
(2) ひとつの単位でしか情報を区切ることができないツール(WorkFlowy)
これに対して、WorkFlowyが持つ情報を区切る単位は、トピックのみです。
WorkFlowyには、トピックのほかに、情報を区切る単位がありません。フォルダもなければ、段落もありません。ファイルすらないのです。WorkFlowyは、すべての情報を、トピックというただひとつの単位で区切っています。
WorkFlowyの情報を区切る単位がトピックのみであることは、どの単位がどの単位を格納できるのかの制約がない、ということを意味します。
テキストエディタやEvernoteが、どの単位がどの単位を格納できるかについて制約を持っているのに対して、WorkFlowyはトピックという単位しか持ちませんので、どのトピックであっても、他のどんなトピックを格納することができます。
格納する・される関係が、どんなトピック同士でも成り立つということは、トピック同士の関係を、どのようにでも組み替えることができる、ということです。
Before
最初の構造がこうだったとして、
- 食べ物
- 赤色
- リンゴ
- 黄色
- カレー
- 白色
- 餅
- 赤色
- 飲み物
- 赤色
- 赤ジソドリンク
- 黄色
- オレンジジュース
- 白色
- 牛乳
- 赤色
- 車
- 赤色
- 消防車
- 黄色
- タクシー
- 白
- 救急車
- 赤色
After
こんな感じに組み変わります。
- 赤色
- リンゴ
- これは食べ物
- 赤ジソドリンク
- これは飲み物
- 消防車
- これは車
- リンゴ
- 黄色
- カレー
- オレンジジュース
- タクシー
- 白色
- 救急車
- 餅
- 牛乳
テキストエディタやEvernoteでは、フォルダ(ノートブック)→ファイル(ノート)→ファイルの中身のデータという階層が決まっているので、こんなふうに、階層を入れ替えることはできません。
WorkFlowyの階層構造は、トピックというただひとつの単位が、お互いに格納しあうことができるところに、特徴があります。
3.自分の思考全体を「全体としてひとつの流動的な有機体」として育てること
以前、私は、何人かの方と、Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがいをめぐって、意見交換をさせていただき、そのときの考察を、以下の2つの文章にまとめました。
全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい)
Evernoteは、ノートの杭を打つからこそ、思考のツールとして現にうまく機能している。
ポイントを整理すると、次のとおりです。
- Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがいは、「全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か」にある
- Evernote
- 「ノート」という情報を区切る単位が存在している。Evernoteに蓄積された様々な情報(テキストデータや画像やPDFやWordファイルなど、多種多様な情報)は、「ノート」という単位で区切られている。
- 「ノート」に格納された情報の一部が別の「ノート」になったり、「ノート」の中に別の「ノート」を格納することはできないし、「ノート」が「ノートブック」になったり、「ノートブックスタック」が「ノート」になることもない。
- 「ノート」という単位で区切られているので、Evernoteは、全体としてひとつの流動的な有機体にはならない。
- プロセス型アウトライナー
- 本文と見出しを区別しない。プロセス型アウトライナーの中の情報を区切る単位は、「トピック」のみ。「トピック」は、テキストデータを区切る単位であると同時に、同時に、他の「トピック」を区切る単位でもある。
- 情報を区切る単位が「トピック」だけなので、情報の流動性がとても高い。子トピックだったトピックが親トピックになったりすることもある。これは、Evernoteで言えば、「ノート」が「ノートブック」になったり、「ノート」内のひとつのテキストが「ノート」になったりするようなものである。
- 情報を区切る単位が「トピック」だけであることによって、プロセス型アウトライナーは、全体としてひとつの流動的な有機体になっている。
- Evernote
- Evernoteは、ノート単位で情報を区切るからこそ、思考のツールとして、うまく機能する
- 私にとって、思考を進めることは、「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くことである
- 私は、このために、最初に、仮説としての「問い・答え・理由」を設定し、思考のフィールドを作るようにしている
- 仮説としての「問い・答え・理由」を設定して思考のフィールドを作るために、Evernoteの「ノート」は、とてもうまく機能する
当時の私は、トップダウン型思考という私の思考スタイルと相性がいいのは、アウトライナーよりもEvernoteだと考えていました。Evernoteに、「ノート」「ノートブック」「ノートブックスタック」など、情報を区切る単位が複数用意されていること、中でも、「ノート」という情報を区切る特別な単位があることが、自分の思考を促している、と感じていました。
しかし、WorkFlowyをしばらく使った今感じるのは、情報を区切る単位は、ひとつで十分だし、むしろひとつの方がよいのかもしれない、ということです。
たったひとつのアウトラインに集約した膨大な情報を、「トピック」というたったひとつの単位で区切ること。これによって、自分の思考全体を、「全体としてひとつの流動的な有機体」として育てること。これが、WorkFlowyが「こうあるべき」と信奉する思考のあり方なのかもしれません。
今、私は、自分の思考全体を「全体としてひとつの流動的な有機体」として育てるというWorkFlowyの思想的な思考のあり方を、いけるところまで深めてみたいなと思っています。
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