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ブログに「単純作業に心を込めて」と名前をつけたら、「単純作業に心を込めて」という行動指針を得た。

公開日: : ブログ, 単純作業に心を込める

1.はじめに

単純作業に心を込めて

とあるブログ記事が縁になって読ませて頂くようになりましたが、「これでもか!これでもか!」というぐらい容赦のない長文ブログでありながら、なんだか読んじゃいます。あと、タイトルが素敵ですね。5分考えましたが略称が思いつきません。

R-style » 11月と言えば自分の好きなブログを告白する月らしいです。 ~4th Edtion~より)

ありがとうございます。

まだ終わってないけれど2014年をふり返り、この1年間で、自分はどなたからの影響を受けただろうかと考えると、まっさきに思い浮かぶのが、倉下忠憲さんです。2014年は、ブログ「R-style」、「ハイブリッドシリーズ」や緑・黄・赤の信号本、月刊くらしたなど、様々な媒体を通じて、毎日のように、倉下さんの思考に触れた1年間でした。この1年間で、私はこの「単純作業に心を込めて」にそれなりの数の長文を書いたのですが、そのほとんどに、倉下さんの思考からいただいた何かが生きている気がします。

そんなわけなので、倉下さんによる「11月と言えば自分の好きなブログを告白する月らしいです。 ~4th Edtion~」で「単純作業に心を込めて」を取り上げていただいたことには、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。

そして、特にうれしいのは、コメントです。「なんだか読んじゃいます。」ももちろんうれしいのですが、それ以上に、「あと、タイトルが素敵ですね。」が、たまらなくうれしいです。

このすてきな出来事の記念として、コメントいただけた「単純作業に心を込めて」というこのタイトルのことを、ちょっとたちどまって語ってみます。

2.「単純作業に心を込めて」という行動指針

「そうだよ。ゲームみたいなもんさ。俺には権力欲とか金銭欲とかそういうものは殆んどない。本当だよ。俺は下らん身勝手な男かもしれないけど、そういうものはびっくりするくらいないんだ。いわば無私無欲の人間だよ。ただ好奇心があるだけなんだ。そして広いタフな世界で自分の力を試してみたいんだ」

「そして理想というようなものも持ちあわせてないんでしょうね?」

「もちろんない」と彼は言った。「人生にはそんなもの必要ないんだ。必要なものは理想ではなく行動規範だ」

【略】

「ねえ、永沢さん。ところであなたの人生の行動規範っていったいどんなものなんですか?」と僕は訊いてみた。

「お前、きっと笑うよ」と彼は言った。

「笑いませんよ」と僕は言った。

「紳士であることだ」

僕は笑いはしなかったけれどあやうく椅子から転げ落ちそうになった。「紳士ってあの紳士ですか?」

「そうだよ、あの紳士だよ」と彼は言った。

「紳士であることって、どういうことなんですか? もし定義があるなら教えてもらえませんか」

「自分がやりたいことをやるのではなく、やるべきことをやるのが紳士だ」

「あなたは僕がこれまで会った人の中でいちばん変わった人ですね」と僕は言った。

村上春樹『ノルウェイの森』より

「単純作業に心を込めて」は、私の行動指針です。上に引用した『ノルウェイの森』の一節を読んで、「自分の行動指針ってなんだろう? 自分はどんなことを行動指針にしたいのだろうか?」と考えて、ふと思いついた言葉が、「単純作業に心を込めて」でした。Mr.Childrenの「彩り」から触発されてるんだと思います。

「自分の行動指針ってなんだろう?」と考えていたとき、私が探していたのは、次の5つの条件を満たすものでした。

  • (1) この行動指針に従って行動すれば、大筋で、うまくいく
  • (2) この行動指針に従って行動することが、気持ちよい
  • (3) この行動指針に従って行動する自分のことを、肯定できる
  • (4) この行動指針に従って行動することが、むずかしくない
  • (5) この行動指針に従って行動し続けることに、飽きない

私にとって、「単純作業に心を込めて」は、この5つの条件を満たす行動指針です。この行動指針に出会えたのは、本当に幸運だったなと感じています。

ひとつひとつ見ていきます。

(1) この行動指針に従って行動すれば、大筋で、うまくいく

行動指針は、その行動指針に従って行動しさえすればうまくいくものでなければいけません。もちろん、大成功する必要はないですし、何ひとつ欠けることのない完璧な幸福を実現する必要もありません。でも、ひどいことにならずに生き延びる、という程度の意味で、大筋でうまくいくことくらいは必要です。

これまでの私の限られた経験の範囲内で考えてみれば、「単純作業に心を込めて」という行動指針に従って行動すれば、それほどひどいことにならずに生き延びることができる気がしています。大成功はむずかしいかもしれません。でも、大筋では、うまくいくんじゃないかと楽観視しています。

なぜかといえば、結局のところ、この世界を生き延びるために自分がすることは、すべて、単純作業の積み重ねだからです。そして、個々の単純作業は、心を込めて丁寧に取り組みさえすれば、それなりにうまくいくからです。ひとつひとつの単純作業に心を込めて、ひとつひとつの単純作業をそれなりにうまく取り扱っていけば、総体としてのこの世界を生き延びるために自分がするべきことも、まあ、そんなにひどいことにはなりません。

(ただし、文字どおり、個々の単純作業だけに全力集中して、その積み重ねとしての全体を無視すると、ひどいことになることもあります。そこで、個々の単純作業に心を込めて取り組むことと、全体をひどいことにならないように動かすこととの間を、何らかの仕組みによってつないでおくほうが無難です。

私は、この点に、タスク管理の存在意義があるんじゃないかと考えています。

タスク管理の役割は「個々の単純作業に心を込めること」と「全体がうまくいく」ことをつなぐこと

(2) この行動指針に従って行動することが、気持ちよい

行動指針は、その行動指針に従って行動することそれ自体が気持ちよいものでなければいけません。その行動指針に従って行動することそれ自体が苦痛だったり、居心地悪かったり、やたらと疲れたりするのなら、たとえ、その行動指針に従った行動から大きなリターンを得ることができるとしても、その行動指針に従った行動を続けることはできないからです。

「単純作業に心を込めて」という行動指針に従って行動することは、わりと気持ちよいことです。私は思うのですが、単純作業というのは、いやいや取り組めば、面倒くさい雑事以外の何物でもありませんが、余裕のある状態で心を込めて取り組めば、ある種の快適さが湧いてくる性質を持っています。

もちろんそれは、遊園地でジェットコースターに乗ったり、ハリウッドの超大作映画の世界にのめり込むような、強い快感ではありません。でも、京都の禅寺のお庭で静かな気持ちになるとか、観覧車から遠くの海を眺めるとか、そういうことから感じられるのと似たような気持ちよさが、単純作業に心を込めることには、あります。

人生は単純作業の積み重ねです。であれば、ひとつひとつの単純作業に心を込めて、ひとつひとつの単純作業からじんわりとしたささやかな気持ちよさを汲み取ることができれば、その総体としての人生全体も、心地よいものになるんじゃないかと思います。

(ただし、人生を構成する個々の単純作業に心を込めるためには、気持ちに余裕を持つことが必要不可欠です。そして、ひとつひとつの単純作業に心を込められるだけの気持ちの余裕を持つことは、必ずしも簡単なことではありません。そこで、ひとつひとつの単純作業に心を込められるだけの気持ちの余裕を生み出すことをサポートする何かが必要です。

私は、この点にも、タスク管理の存在意義があるんじゃないかと思っています。

ちょっと別観点ですが、同じようなことを、次の文章で書きました。

子育てパパサラリーマンにこそ、タスク管理システムをおすすめしたい

(3) この行動指針に従って行動する自分のことを、肯定できる

生きていく上で、自分や自分の人生を肯定することは、たぶん、すごく大切です。いわゆる自己肯定感というやつだと思います。

自己肯定感は、親をはじめとする周りの人から、たくさんの愛情などをいただく中で、少しずつ育まれていくものだと言われています。私もひとりの親として、うちの子が自己肯定感を育むことの手伝いができたらいいなと願っています。

でも、自分でできることもあります。「自己肯定感を育てる」という課題を設定し、取り組む、というのは、自己肯定感を育むために、自分でできることのひとつです。

「自己肯定感を育てる」という課題を設定し、取り組む

自己肯定感を育てるという課題を達成するために大切なことのひとつは、自己肯定感を育てやすい人生観なり世界観なりを持つことです。そして、今ここで考えている行動指針は、人生観や世界観の重要な一部分です。そのため、行動指針は、その行動指針に従って行動する自分のことを、自分で肯定できるものでなければいけません。

「単純作業に心を込めて」という行動指針は、私の場合、その行動指針に従って行動する自分を肯定できる、行動指針です。

たとえば、何かしらうまくいかないことが起きて、気持ちがグチャグチャしている日でも、その日の夕食の皿洗いをするとき、この「単純作業に心を込めて」という行動指針に従って、皿洗いという単純作業に心を込めれば、なんとなく、気持ちが落ち着きます。

村上春樹の『ねじまき鳥クロニクル』の岡田亨さんは、混乱したときにアイロンを掛ける、という技を持っているのですが、まあ、似たようなものです。

頭が混乱したときに備えて、具体的な行動を決めておく。『ねじまき鳥クロニクル』岡田亨の基本技

(4) この行動指針に従って行動することが、むずかしくない

行動指針は、抽象的な人生の理想ではなくて、具体的な日々の行動の指針です。ですから、「この行動指針に従って行動することが、むずかしくない」ということが、決定的に大切です。行動指針の価値は、実際に、その行動指針に従って行動をすることによってのみ、生まれます。それに従って行動できない行動指針に、価値はありません。

「単純作業に心を込めて」は、これに従って行動することが、けっしてむずかしくはない行動指針です。「単純作業に心を込めて」行動することは、ある意味、すごく簡単です。

もちろん、「単純作業に心を込めて」に従って行動することは、ときにむずかしいです。それも、ものすごくむずかしいです。特に、時間や体力や気持ちに余裕がないときは、ささいな単純作業をやらなければいけないこと自体にいっぱいいっぱいになってしまって、その単純作業に心を込めることなんてとてもできない、と感じることもあります。

しかし、どんなに余裕がないときであっても、「単純作業に心を込めて」という行動指針に従って行動することは、本当は、簡単です。どんなにむずかしく感じても、実は、すごく簡単です。

たとえば、今しているこの単純作業に心を込めないと、自分や家族の命がないと言われたら、どんなに余裕がないときであっても、その単純作業に心を込めて行動できるはずです。

たとえば、今しているこの単純作業に心を込めれば、ミスチルのライブのアリーナ最前列をプレゼントすると言われたら、どんなに余裕がないときであっても、その単純作業に心を込めて行動できるはずです。

結局、余裕がないときに、単純作業に心を込めることがむずかしい理由は、余裕がなくなると、単純作業に心を込めることの優先順位が下がるためです。どんなに余裕がないときでも、単純作業に心を込めることの優先順位が高ければ、「単純作業に心を込めて」という行動指針に従うことは、むずかしくありません。

(5) この行動指針に従って行動し続けることに、飽きない

行動指針を持つ人は、毎日たくさんの具体的瞬間に、行動指針に従って行動をします。普通に毎日を過ごすだけで、その行動指針に従って行動することを、数限りなく繰り返すことになります。

ですから、行動指針は、その行動指針に従って行動し続けることについて、自分が飽きないであろうものでなければいけません。

『海辺のカフカ』で、大島さんが、こんなことを言っていました。

この世界において、退屈でないものには人はすぐに飽きるし、飽きないものはだいたいにおいて退屈なものだ。そういうものなんだ。僕の人生には退屈する余裕はあっても、飽きているような余裕はない。

村上春樹『海辺のカフカ』より

単純作業に心を込めることは、退屈です。でも、少なくとも私は、単純作業に心を込めることを飽きることはないだろうと思っています。

私にとって、「単純作業に心を込めて」は、この行動指針に従って行動し続けることを飽きないだろうと思える行動指針です。

3.「単純作業に心を込めて」というブログタイトルと「単純作業に心を込めて」という行動指針との関係

(1) 名付けたこと→出会い

このブログのタイトルは、「単純作業に心を込めて」という、私の大切な行動指針です。こう書くと、以前からの大切な行動指針である「単純作業に心を込めて」を、新しく始めるブログのタイトルにした、という関係であるかのように思えます。

しかし、そうではありません。実際の経緯は、このブログに「単純作業に心を込めて」と名付けたことで、「単純作業に心を込めて」という行動指針と出会えた、というものでした。

すなわち、もともと私の中には、この行動指針の漠然としたイメージがありましたが、具体的な言葉にはなっていませんでした。ちょうどそのころ、新しく始めるブログのタイトルを考えていた私に、突然浮かんできた言葉が、「単純作業に心を込めて」でした。よいタイトルだと思ってブログに「単純作業に心を込めて」と名付けたら、私は、これこそが自分が求めてきた行動指針だったことに気づきました。

この意味で、このブログを「単純作業に心を込めて」と名付けたことは、「単純作業に心を込めて」という行動指針と出会えたことの、かなり大きな要因です。

(2) ブログ「単純作業に心を込めて」を継続すること→行動指針「単純作業に心を込めて」を継続すること

その後、私は、この「単純作業に心を込めて」というブログを、2年以上にわたって継続しています。

これまで続けてきて思うことは、「単純作業に心を込めて」というブログを続けることが、「単純作業に心を込めて」という行動指針に従った行動を続けるための、すごくよい手段になっている、ということです。

私は今、毎日、何かしら、このブログと関わっています。10分以上のまとまった空き時間を見つけたら、ちょこちょことブログのために文章を書いていますし、もっと短いすきま時間しかないときも、iPhoneでTwitterをエゴ・サーチしたり、GoogleAnalyticsをチェックしてどのエントリがよく読まれているのかを観察したりしています。

これらすべての作業をするたびに、私は、「単純作業に心を込めて」という言葉を浴びます。これによって、私は、意識的にせよ、無意識的にせよ、自分の行動指針が「単純作業に心を込めて」であることを思い出します。

ここには、ブログ「単純作業に心を込めて」を継続することが、「単純作業に心を込めて」という行動指針に従った行動を続けることを助ける、という関係があります。

この関係を、私はとても好ましく思うので、「単純作業に心を込めて」という行動指針を大切にするためにも、これからも、この「単純作業に心を込めて」というブログを、大切にしていこうと思います。

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