仮説としての「問い・答え・理由」によって、思考の範囲を区切る(私のトップダウン型思考)
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書き方・考え方
1.はじめに
(1) 私のトップダウン思考と、Tak.さんのボトムアップ思考
杭を打てば垣根ができる[Thought][思考のOS] の中で、るうさんから、次の指摘をいただきました。
もうひとつ余談だが、2ペインアウトライナーを愛用する人はトップダウン型、1ペインの人はボトムアップ型の思考に近い感じがする。前者の代表が彩郎さんで、後者がTak.さんだ。だから、彩郎さんの記事には必ず見出しがつくし、Takさんのは必ずつかない。
るうさんからは、これまでにも、私の思考はトップダウンで、これに対してTak.さんの思考はボトムアップだ、という指摘をいただいたことがありました。
でも、最近まで私は、自分の思考がトップダウンで、Tak.さんの思考がボトムアップだといわれても、両者のちがいが、あんまりよくわかりませんでした。
ところが、今回、Evernoteとプロセス型アウトライナーのちがいを考えたところ(全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい))、自分の思考がトップダウンで、Tak.さんの思考がボトムアップだということが、これまでに比べて、ずいぶんと納得できました。
(2) Evernoteで文章を書くこと好む私と、アウトライナーで文章を書くことを好むTak.さん
私は、Evernoteで文章を書くことを好みます。Evernoteの特徴は、るうさんによれば、ノートという単位で杭を打って情報を区切ることです。ノートの中に書き込まれたテキストは、簡単には、ノートの外に出ていきません。
Tak.さんは、プロセス型アウトライナーで文章を書くことを好みます。プロセス型アウトライナーの特徴は、Tak.さんとるうさんによれば、ここに書き込まれたすべてのテキストの断片が等価で、流動性を保っていることです。あるトピックの下位階層に書き込まれたテキストは、簡単にその上位トピックの外に出ていきますし、ひっくり返ることすらあります。
これを別の視点から見れば、私はノートによって区切られた範囲の内側で文章を書くのが好きで、Tak.さんはこれを好まない、とも言えるような気がします。ここで、文章を書くことと思考することが近い関係にあることを踏まえれば、私は思考の範囲を区切って考えるのが好きで、Tak.さんは思考の範囲を区切って考えることをあまり好まない、ということかもしれません。
この、区切った範囲の内側で考えることが、今回私が気づいた、自分の思考のひとつの特徴です。最初に思考の範囲を区切り、その範囲内を丁寧に仕上げていくことを、私は好みます。そして、ある意味、この思考法は、トップダウン型の思考とも言えます。
そこで、思考の範囲を区切って、その内側で考えるという思考法を、主にブログに文章を書くことを想定しながら、以下、まとめます。
ポイントは、
- (1) 思考を進めること=「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くこと
- (2) 最初に、仮説としての「問い・答え・理由」を置くことで、思考のフィールドを設定すること
- (3) 「問い・答え・理由」の構造を持った文章をひとつ書くプロセスで、そこにはまらない思考の断片をたくさん収穫すること
の3つです。
2.「問い・答え・理由」で思考の範囲を区切って、その内側で考える
(1) 思考を進めること=「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くこと
まず、私にとって、「思考を進めること」とは、「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くことと、ほぼ同じ意味です。
私は言葉によって思考を進めるスタイルが好きです。また、キーワード単位で連想して考えるよりも、文章を書くことで考えるほうが好きです。さらに、頭に浮かんだことをつれづれなるままに書き綴るよりも、何らかの論理構造を持った文章を整えることによって考える方が、うまくいきます。そして、何かを考えるときの一番基本となる論理構造として、私は、「問い・答え・理由」という構造を愛用しています。
たとえば、「全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい)」で考えたのは、
- 「Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想は、どうちがうのか?」
という問いです。
そして、
- 「プロセス型アウトライナーに書き込まれたテキストは全体としてひとつの流動的な有機体を構成するが、Evernoteに書き込まれたテキストは全体としてひとつの流動的な有機体を構成することはない。」
という答えと、
- 「プロセス型アウトライナーに書き込まれたテキストは、見出しと本文の区別がなくて要素が等価だから、すべての要素が流動的に動きうる。これに対して、Evernoteに書き込まれたテキストは、ノートで区切られることで、ノートタイトルと本文の区別があって要素が等価ではないので、ノート本文がノートを超えて外に出るという意味での流動性はない。」
という理由を整えることで、私は、「Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想はどうちがうのか?」という問いについて、思考を前に進めることができました。
(2) 最初に、仮説としての「問い・答え・理由」を置くことで、思考のフィールドを設定すること
「思考を進めること=「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くこと」を前提にすると、「うまく思考を進めるにはどうしたらよいか」は、「うまく「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くにはどうしたらよいか」になります。
うまく「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くため、私が大切だと思うことは、まず「問い・答え・理由」を設定することです。
実際に文章を書き始める前に、まずはひとつの「問い・答え・理由」を設定します。考えたいテーマを「問い」として設定し、その「問い」に対する「答え」と「理由」を決めます。これを、書き始める最初の段階で、やります。
もちろん、書き始めたばかりなので、この「問い・答え・理由」は、暫定的なもので、最後まで維持されるとは限りません。書いている途中で、「答え」が正反対に変わることもあれば、「理由」を補充することもありますし、ときには、「問い」を設定し直すことすらあります。いわば仮説です。
しかし、仮説であっても、最初に「問い・答え・理由」を設定する方が、うまく「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くことができます。何もないところからひとつひとつ考えながら書き、「問い・答え・理由」の構造を組み立てるのは、すごく難しいことです。これよりも、暫定的な、仮説としての「問い・答え・理由」をひとつ作り、この間を埋めていくように文章を書く方が、私の場合は、「問い・答え・理由」の構造を、うまく作ることができます。
なぜ、最初に「問い・答え・理由」を設定することが、うまく書くことの役に立つのかといえば、「問い・答え・理由」を設定することが、思考すべき範囲を区切ってくれるからではないかと思います。「問い・答え・理由」を設定することは、思考のフィールドを設定することです。思考のスタート地点とゴール地点、そして途中の通過地点が記されたフィールドがあれば、スタートからゴールまで、ひとつひとつ着実に進むことができます。
(3) 「問い・答え・理由」の構造を持った文章をひとつ書くプロセスで、はまらない思考の断片をたくさん収穫すること
最初に「問い・答え・理由」を設定し、思考の範囲を区切ることは、思考の創造性を否定する行為のようにも思えます。あらかじめ決まっている「問い・答え・理由」をいくら論理的に整えても、そこから新しい価値が生まれることがないのなら、とても創造的とは言えません。
しかし、最初に「問い・答え・理由」を設定して思考の範囲を区切ることは、思考の創造性を否定しません。逆に、最初に「問い・答え・理由」によって思考の範囲を区切るからこそ、そこから新しい思考の断片が生まれます。最初に「問い・答え・理由」を設定して思考の範囲を区切ることは、むしろ、思考によって新しい価値を創り出すための方法論でもあります。
これを、次に説明します。
a.「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くプロセス
最初に「問い・答え・理由」を設定して、「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くプロセスは、こんな感じになります。
まず、暫定的な仮説としての「問い・答え・理由」を設定します。たとえば、次のとおりです。
- 問い:プロの研究者が活用している考察を深めるための仕組みを、普通の個人が取り入れるためには、どうしたらよいか?
- 答え:自分のテーマを設定して、ブログを書けばいい。
- 理由:プロの研究者は、自分のテーマのアウトプットを繰り返すことで、考察を深める。普通の個人も、自分のテーマのアウトプットを繰り返せば、プロの研究者のように、考察を深めることができる。普通の個人が自分のテーマのアウトプットを繰り返すためには、ブログを書けばいい。
次に、この「問い・答え・理由」を書いて、その間を埋めていきます。そのときに、たとえば、こんなことを考えます。
- (1) プロの研究者が活用している考察を深めるための仕組みは、自分のテーマのアウトプットを繰り返すことだけなのか?
- (2) 自分のテーマのアウトプットを繰り返すことで考察が深まるのは、どんなメカニズムなのか?
- (3) 普通の個人が自分のテーマのアウトプットを繰り返すためには、どんな選択肢があるか?
- (4) だれでも、自分のブログを書きさえすれば、自分のテーマのアウトプットを繰り返すことができるのか?
- (5) プロの研究者が活用している仕組みそのものを、普通の個人が利用することはできないのか?
このように、仮説としての「問い・答え・理由」の間を埋めるためにいろいろと考えていると、最初に設定した「問い・答え・理由」にはまらない思考の断片が出てきます。
たとえば、「(5) プロの研究者が活用している仕組みそのものを、普通の個人が利用することはできないのか?」についていえば、プロの研究者が活用している仕組みには「学会」や「投稿論文」というものがあるところ、普通の個人にも、学会に参加することや論文を投稿することは開かれているので、仕組みそのものを普通の個人が利用することはできます。しかし、仮説としての「問い・答え・理由」で言いたいのは、「プロの研究者が活用している仕組みと似たような仕組みをブログで作ることができる」ということなので、「プロの研究者が活用している仕組みそのものを利用できる」という思考は、この「問い・答え・理由」にははまりません。
このときの選択肢は2つです。
- ひとつは、仮説としての「問い・答え・理由」を組み替えること。仮説なので、気楽に組み替えちゃえばよいのです。
- もうひとつは、当初の「問い・答え・理由」は維持して、はまらない思考を捨てること。「問い・答え・理由」を維持するのであれば、そこにハマらない思考を無理やり盛り込むことは、茨の道です。それよりも、その「問い・答え・理由」との関係では、その思考を捨てるほうが無難です。
この2つのどちらか、あるいは両方を実行することで、私は、「問い・答え・理由」の構造を整えます。
若干単純化していますが、これが、私が「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くプロセスです。
b.ある「問い・答え・理由」の構造からはみ出した思考の断片を収穫する
さて、はまらない思考の断片が出てきたときに、当初の「問い・答え・理由」を維持した上で、はまらない思考の断片を捨てることを選択した場合、ここで捨てられた思考の断片は、どうなるのでしょうか。死んでしまうのでしょうか。
そうではありません。ここで捨てられた思考は、ここでの「問い・答え・理由」には採用されませんでした。しかし、ここで捨てられたからといって、死ぬわけではありません。ここで捨てられた思考の断片は、別のところで、新しい思考を構成する可能性があります。
つまり、
- 最初に「問い・答え・理由」を設定し、文章を書く
- 最初に設定した「問い・答え・理由」にはまらない思考が出てくる
- 「問い・答え・理由」にはまらない思考の断片を捨てて、「問い・答え・理由」の構造を整える
というプロセスで文章を書けば、このプロセスからは、たくさんの思考の断片が捨てられます。
でも、ここで捨てられた思考の断片は、ここで設定した「問い・答え・理由」の構造にはまらなかっただけです。別の「問い・答え・理由」という思考のフィールドでなら、新しい価値を生み出す可能性があります。
そのため、はまらない思考の断片をたくさん捨てることは、同時に、思考の断片をたくさん収穫することでもあります。
これが、上に書いた「最初に「問い・答え・理由」を設定して思考の範囲を区切ることは、むしろ、思考によって新しい価値を創り出すための方法論でもあります。」の答えです。
3.私のトップダウン型思考法
まとめます。
私にとって、「思考を進める」とは、「「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くこと」と、ほぼ同じ意味です。
「問い・答え・理由」の構造を持った文章を書くために、私は、まず最初に、仮説としての「問い・答え・理由」を設定します。思考の範囲を区切り、思考のフィールドを作るためです。
そして、ここで設定した仮説としての「問い・答え・理由」を前提に、その間を埋めるように、いろんなことを考えます。
いろんなことを考えると、「問い・答え・理由」の構造にはまる思考の断片も出てきますが、中には、「問い・答え・理由」にはまらない思考の断片も、たくさんたくさん、出てきます。
このときに私にできることは、次の2つです。
ひとつは、仮説としての「問い・答え・理由」を組み替えることで、もうひとつは、仮説としての「問い・答え・理由」を維持したまま、この構造にはまる思考の断片だけを採用して、はまらない思考の断片を捨てることです。実際は両方を併用することになるでしょうから、いずれにしても、はまらない思考を捨てることになります。
しかし、捨てられた思考の断片は、捨てられたからといって、死ぬわけではありません。その断片がここで捨てられたのは、ここで想定した「問い・答え・理由」の構造にははまらなかったからです。でも、この思考の断片は、別の新たな「問い・答え・理由」の構造になら、はまるかもしれません。そのため、その構造にはまらない思考の断片を捨てることは、ある意味、思考の断片を収穫することだとも言えます。
このように、「問い・答え・理由」を設定して思考の範囲を区切って考えることによって、私は、「問い・答え・理由」の構造を持った文章をうまく書くのと同時に、その構造にはまらない思考の断片をたくさん収穫しています。「問い・答え・理由」を設定して思考の範囲を区切ることは、私にとって、思考の創造性を制約するものではなくて、むしろ、思考の創造性を拡張するものです。
●
このような私の思考のスタイルには、最初に「問い・答え・理由」という思考の全体構造を設定して、その範囲内を考える、という方向があります。この方向が、るうさんが指摘するところの、私のトップダウン型思考法なのかなと、今のところ、考えています。
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