『文章教室』を『数学文章作法 練習問題編』として使う。
公開日:
:
書き方・考え方
1.『数学文章作法 基礎編』(結城浩著・ちくま学芸文庫)で学んだその後に、何をすべきか?
(1) 正確で読みやすい文章を書くための基礎知識は、どうすれば学べるか?
正確で読みやすい文章を書くためには、正確で読みやすい文章を書くための基礎知識を学ぶのが有効です。では、正確で読みやすい文章を書くための基礎知識は、どうすれば学べるのでしょうか。
私のおすすめは、『数学文章作法 基礎編』(結城浩著・ちくま学芸文庫)を読むことです。『数学文章作法 基礎編』には、正確で読みやすい文章を書くために必要な基礎知識が、非常にわかりやすく整理されています。『数学文章作法 基礎編』を読めば、「読者のことを考える」というのがどんなことなのか、具体的に納得できると思います。
読者のことを考えるって、こういうことだったのか!結城浩著『数学文章作法 基礎編』(ちくま学芸文庫)
(2) 『数学文章作法 基礎編』で学んだ知識を技能として身につけるために、何をするとよいか?
しかし、『数学文章作法 基礎編』を読むだけでは、正確で読みやすい文章を書けるようにはなりません。
この理由は、『数学文章作法 基礎編』で学べる基礎知識が不十分だから、ではありません。基礎知識としては十分です。そうではなくて、基礎知識を学ぶだけでは不十分だからです。
正確で読みやすい文章を書くというのは、知っているか否かという知識の問題ではなく、できるか否かという技能の問題です。知識と技能の間には、壁があります。技能を身につけるためには、知識を学ぶだけではなく、実際に自分の手と頭を動かして練習することが必要です。
文章を書くための練習とは、どのようなことでしょうか。基本は、文章を書き、読み返し、書き直す、です。
まず自分で実際に文章を書く。その文章を自分で読み返す。読み直したときに感じたことを踏まえて、書き直す。できれば第三者に意見をもらう。また書いて、また読み返して、また書き直す。この繰り返すです。
『数学文章作法 基礎編』で学んだ基礎知識も、技能として身につけるためには、自分で文章を書いて、読み返して、書き直す、という練習をする必要があります。
(3) どの練習問題を使うとよいか?
とはいえ、文章を書き、読み返し、書き直す、といっても、とらえどころがありません。そもそも、何を書いたらよいのでしょうか。また、どのような観点で読み返し、どのように書き直したらいいのでしょうか。具体的にどこから手をつけるべきか、よくわかりません。
では、どうしたらよいのでしょうか。ひとつの解決策は、練習問題を使うことです。
練習問題の役割は、学んだ知識を、技能として身につけることをサポートすることです。高校で英語や数学を学んだときも、ひとつのテーマを学んだら、その都度練習問題に取り組むことで、構文の使い方や公式・定理の使い方を技能として身につけたはずです。正確で読みやすい文章を書くための練習をするときも、優れた練習問題を使えば、大いにはかどります。
そこで問題となるのが、『数学文章作法 基礎編』で学んだ基礎知識を身につけるために、どの練習問題を使ったらよいか、ということです。
2.『文章教室』を『数学文章作法 練習問題編』として使う
(1) 『文章教室』は、『数学文章作法 練習問題編』
『数学文章作法 基礎編』の著者である結城浩先生は、自身のウェブサイトで、『文章教室』というコンテンツを公開しています。この『文章教室』は、ある意味、『数学文章作法 練習問題編』です。『数学文章作法 基礎編』で説明された基礎知識(の一部)に対応する練習問題が豊富に用意されているためです。
そこで、『数学文章作法 基礎編』で学んだ基礎知識を技能として身につけるためには、『文章教室』を利用するのがオススメです。
(2) 『文章教室』のご紹介
a.『文章教室』とは
『文章教室』は、2002年1月から同年9月までの期間、結城先生がウェブサイトで実施されていた企画です。
『文章教室』の第1回問題編に、結城先生がこの企画を立ち上げた意図の一部が記載されています。
ところで、 あなたは 「私には文章のセンスがないからダメなんだよなあ」 なんて考えていませんか。 それ、やめましょう。
私は「センス」については、あまり考えないようにしています。 だって、不毛なんですもの。 文章は、センスやインスピレーションで書くのではなく、言葉で書くのです。 ですから、言葉の使い方を練習すれば、 誰でも、他の人が普通に読める文章、 誤解されない文章を書くことができます。 センスの有無というのは、ずっとずっと先の話だと思いますよ。 センスについて考えている時間はもったいない。 それよりも、こうしましょう。
- まず、いま考えていることを、どんどん書いてみましょう。
- そして、書いた文章を、よく読みかえしましょう。
- さらに、「もっと読みやすくできないかな」と考えましょう。
こういう具体的な練習が大事だと思います。 自分の手を動かして、書く。 自分の目を使って、よく読む。 そして、自分の頭を使って考える。 その積み重ねが大事ですね。 センス、という得体の知れないものに、 文章を書く気持ちを奪われないように注意しましょう。
(第1回 問題編より)
b.『文章教室』の構成
『文章教室』は、結城先生による一方通行のコンテンツではありません。『文章教室』の構成は、
- 結城先生がひとつのテーマを解説し、練習問題を出題する(問題編)
- ウェブサイトの読者が練習問題に取り組み、回答を提出する
- 結城先生が解答例を公開するとともに、読者から提出された回答を丁寧に添削する
- 読者から提出された回答も、これに対する添削も、すべてが公開される(解答編)
というものです。
結城先生と読者の方のやりとりの中で、正確で読みやすい文章を書く練習が展開されています。
c.『文章教室』のテーマ一覧
『文章教室』のテーマは、以下のとおりです。
第1回 文を短くしましょう
第2回 適切な単語を選びましょう
第3回 パラレリズムを使いましょう
第4回 自然な順序で書きましょう
第5回 語順を変えてみましょう
第6回 重要点は2回書きましょう
第7回 よい比喩を使いましょう
第8回 まずはどんどん書きましょう
第9回 接続詞をうまく使いましょう
第10回 ストレートに書きましょう
『数学文章作法 基礎編』を読まれた方は、ぴんとくるテーマがたくさんあるのではないかと思います。
3.『文章教室』の使い方
(1) お休み中だけれど、今でも使える
『文章教室』は、現在、お休み中です。そのため、今から『文章教室』の問題に取り組んでも、結城先生とのやりとりをすることはできません。
お知らせ:現在「文章教室」のコーナーはお休み中です。 自分の練習として投稿してくださってもかまいませんが、 添削などのお返事はできません。ご了承ください。
(文章教室より)
しかし、2002年当時にやりとりされていたコンテンツは、それから12年が経った今でも、全部そのまま閲覧できます。そして、読者からの回答に対する結城先生の解説は、かなり丁寧です。
そのため、2002年当時に結城先生と読者の方の間でかわされたやりとりを追えば、あたかも、今、自分が、結城先生からの添削を受けているような効果が得られます。
(2) 今、自分で手を動かして、練習問題に取り組む
大切なのは、今、自分で手を動かして、練習問題に取り組む、ということです。
今、自分で手を動かして練習問題に取り組むことで、12年前にかわされていた結城先生と読者の方のやりとりが、自分の中にすとんと落ちます。
結城先生も、こんなことをおっしゃっています。
以下、結城は、みなさんからの投稿にコメントをつけていきます。 みなさんも他の人の解答を読んでみてください。 自分で苦労した後ですから、 きっと多くのことを発見するはずです。
(第1回 解答編より)
たとえば、第1回「文を短くしましょう」の練習問題は、以下のとおりです。
次の文章を、読みやすい文章に書き換えてください。
知識を持っていて文章を書けるような人は、 教えるような文章を書くのがよくて、 自分の知識を他の人に伝えるような文章を書くのがよいが、 それは、 自分の知識を誇る目的ではないし、 自分の能力を誇るためでもなくて、 自分の知識や能力を使って、 他の人を助けるために書く文章だ。
(第1回 問題編より)
この練習問題に対しての、私の回答は、次のとおりです。
———-
知識を持っていて、文章を書く能力もあるなら、自分の知識を人に教えるための文章を書くとよい。ただし、あなたがこの文章を書く目的は、自分の知識や能力を誇るためではなく、自分の知識や能力を使って人を助けるためである。
———-
実際に回答を作ってみると、いくつかの点で苦労しました。たとえば、
- 「教えるような文章を書くのがよくて」と「自分の知識を他の人に伝えるような文章を書くのがよい」との関係は? 同じことの繰り返し?
- 「誇る目的」と「誇るため」は同じ意味か?
- 「自分の能力を誇る」の「能力」とは、何の能力か? 「文章を書ける」か?
- そもそも、この文章は、誰に何を伝えたい文章なのか?
などです。
これを作った後で、解答編を読むと、なるほどと感じる点が、たくさんあります。また、自分の解答の修正点が見つかります。
解答編を読んで、私は、自分の解答を、以下のように書き直しました。
———-
知識を持ち、文章も書けるなら、その知識を人に教えるための文章を書くとよい。ただし、あなたがそうするのは、自分の知識や能力を誇るためではなく、自分の知識や能力を使って人を助けるためである。
———-
修正した理由は、次のとおりです。
- 「知識を持っていて」はまどろっこしいから、「知識を持ち」に修正
- 「文章を書ける能力もある」よりも、「文章も書ける」の方が素直な印象
- 「自分の」が多いから、意味が通るところは削った。他方、2文目の「自分の知識や能力」は、「誇るため」と「人を助けるため」を対比させるためにも、「自分の知識や能力」を繰り返した。
- 2文目の「目的」と「ため」が重なっていて重たかったから、最初の「目的」を削った。
4.まとめ
このように、『文章教室』は、まさに『数学文章作法 練習問題編』です。『数学文章作法 基礎編』を気に入った方は、ぜひぜひ、やってみてください。おすすめします。
また、私自身も、公開されている10回分を順次やってみるつもりです。そして、各回について、第1回と同じように、
- 練習問題に対する解答
- 苦労した点・迷った点・練習問題に取り組みながら考えた点
- 解答編を読んだあとに書き直した修正版解答
- 修正した意図
をまとめて、記事にする予定です。
よろしければ、皆さんもやってみてください。
スポンサードリンク
関連記事
-
WorkFlowyで、離れた場所を同時に操り、文章を書く
1.WorkFlowyで長文を書くことを助けてくれるのは、階層構造だけではない WorkFlowy
-
まさに『数学文章作法 練習問題編』!結城浩先生の『文章教室』がすごい。
1.最短バージョン 結城浩先生のウェブサイトのコンテンツである『文章教室』は、読みやすい文章を書く
-
「文章を書き上げる理由」の獲得
1.自分のブログを持つ効用を、自分の価値観や考え方に引きつけて、探しだす こんなエントリを書きまし
-
メロンパンナちゃんの描き方を覚えよう! メロンパンナちゃんの描き方を、項目番号付階層文章で詳細解説。
この文章は、この文章(メロンパンナちゃんの描き方)を、項目番号付項目で階層化した文章のサンプルです。
-
「文章群を書き続ける」というあり方が、「考える」を促す
1.「考えたい。でも、そのために何をしていいか、わからない。」 『知的生産の技術』や『思考の整理学』
-
全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい)
1.はじめに 「Evernoteとアウトライナーの融合は可能か?」というテーマを考察した、この記事
-
私は、こんな道具を使って、文書を作りたい。(その3・「切り出し」による文書作成)
WorkFlowyやUlyssesからヒントを得て、「私は、こんな道具を使って、文書を作りたい。」と
-
公用文式項目番号付け方ルールに従うことには、どんなメリットがあるか
1.公用文式項目番号付け方ルールとは 何かを論じる文章を書くときは、文章を項目に分けることが大切です
-
自分の考えを正確にわかりやすく伝える文章を書けるようになるために役立つ本のリスト
この記事は、大学の講義で使うために作成したメモを、若干整えたものです。 私がこのメモの初版を作った
-
なぜ、WorkFlowyという道具は、「やりたい」のつまみ食いの集積を完成文書へ統合することを可能にするのか?
1.はじめに 昨日、これを書きました。 そのときどきの「やりたい」のつまみ食いを、文書の完成へと統