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自然な退化がある:ドラクエのレベル上げと現実世界との重要な違い(3)

公開日: : 書き方・考え方

1.ドラクエのレベル上げと、現実世界との、もうひとつの重要な違い

3つ連続でドラクエのことを書いているのですが、これらの文章を書くことで、私が考えようとしているのは、「ドラクエのレベル上げと現実世界の自分育成とでは、どんなところが違うのか。ドラクエのレベル上げのイメージを、現実世界で自分を育てることに活かす上で、意識しておかなければいけない違いは何か?」ということです。

これまでの2つの文章では、

という2つのことを考えました。

3つめとして、

  • ドラクエでは、主人公たちが自然に退化しないけれど、現実世界では、自分は自然と退化する

ということを考えてみます。なお、この点は、上の2つめの点(制限時間があること)と、少し関連するけれど、ちょっと視点の異なる違いです。

2.ドラクエでは自然な退化がないけれど、現実世界では自然な退化がある

(1) ドラクエでは、自然な退化がない

ドラクエでは、主人公たちは、自然と退化する、ということがありません。

まず、ドラクエから離れている間に自然と退化する、ということがありません。たとえば、1年ぶりにドラクエの冒険の書を開いたとしても、そこには、前回冒険の書に記録したときからまったく退化していない主人公たちが待っています。

次に、ドラクエ内の時間の流れでも、自然と退化する、ということがありません。カジノにハマって全然敵を倒さずにいても、ルイーダの酒場で飲んだくれていても、敵から逃げまくっていても、ちっとも退化しません。

(2) 現実世界では、自然な退化がある

でも、現実世界では、自然な退化があります。

やり方とか解き方とかは、使わないと、忘れます。大学受験のためにベクトルや数列を勉強して、ひととおりの問題を解けるようになっても、その後10年以上使わなければ、まあ、ほぼ間違いなく、センター試験すら解けなくなります。

肉体的なものの衰えも、顕著です。毎日5km走っていたときはランニングは快適でしたが、ランニングの習慣を失ってからは、長距離を走ることは多少の苦痛を伴うようになっちゃいました。

現実世界では、一定の状態を維持するためにも、不断のエネルギーを必要とします。レベル上げはしなくていいやと思って、カジノやメダル探しに没頭していると、いつの間にか、レベルが下がってしまいます。

3.自然な退化がある現実世界で、自分を育てるには

自然な退化がない、というドラクエのレベル上げの条件は、レベル上げにとっては、ある意味、とても恵まれた条件です。でも、現実世界はそうではありません。

そこで、自然な退化がある、ということを厳然たる事実として受け入れて、自分を育てていかなければいけません。

そのために大切なのは、次の3つではないかと、今のところ、思っています。

(1) メンテナンスを大切にする

まず、自分の能力を現状維持するためにもエネルギーが必要なんだ、ということを自覚することです。現実世界では、何もしなければ、自然と退化します。現状維持を求めるなら、現状維持のためのエネルギーを注がなければいけません。

現状維持にエネルギーを注ぐことの中心は、メンテナンスではないかと思います。自分の体をメンテナンスし、自分の頭や知識をメンテナンスし、自分の感情や心をメンテナンスします。

ドラクエは、放置しても自然な退化がないので、メンテナンスは不要です。でも、現実世界では、メンテナンスが必要不可欠です。

(2) 選択と集中:戦略的な自分育成

次に、現状維持にもエネルギーが必要なので、すべての能力を極めようとしない、ということです。

力もあって、呪文もたくさん覚えていて、技も豊富で、すばしこい、というようなオールマイティプレイヤーは、かっこいいです。でも、現実世界では、ひとりの人間があれもやてこれもやって、ということは、あんまりありません。自ずと、毎日の中で使う能力と使わない能力が出てきます。

現実世界では、使わない能力は、何もしないと衰えます。使わない能力を高いレベルで維持するためには、エネルギーが必要です。

でも、その能力は使わないのですから、高いレベルで維持することは、あんまり合理的ではありません。

となると、現実世界では、オールマイティプレイヤーであろうとするよりも、自分にとって重要な能力を選択して、その能力を高めるように集中する方が、ずっと合理的です。

ドラクエのレベル上げの醍醐味のひとつは、何でもできるスーパーマンを育てることです。でも、現実世界でこれをしようとすると、エネルギー効率が悪すぎます。時間に限りもあることですし、選択と集中によって、戦略的に自分を育てることが大切です。

(3) 失われるものを受け入れて、失われないものを大切にする

最後に、自然な退化を受け入れる、ということも大切なんじゃないかな、と感じます。

現実世界で自然な退化があるということは、人間に寿命がある、ということから必然的に導かれる帰結です。これは、どうしようもありません。なので、基本的には、あらがうことなく、受け入れるべきものではないかと、私は思います。

昔は普通にできたことができなくなるのは、寂しいことではあります。

私は、大学生のころはランニングが趣味だったのですが、今は時間をとることができなくて、日常的には全然走ることができていません。今は、たまに長い距離を走ると、すぐに息が上がってしまいます。昔は走れたのになあ、と思うと、自分の退化を感じて、陰鬱な気持ちになります。

でも、ランニングの習慣をやめるというのは、私が選択と集中によって決めたことです。この選択と集中をするなら、5kmも10kmも普通に走れる、という能力が退化することも、受け入れなければいけません。

他方で、退化しちゃったとしても、退化する前に自分がその能力を持っていた、という事実は、失われません。ランニングの話でいえば、自分が毎日5km走ることを習慣にしていた、という事実は失われず、自分の中には、この経験が確かに蓄積されています。

この経験が蓄積されていることで、私は、たとえば村上春樹が走ることについて語るときに、リアリティを持ってその文章を楽しむことができます。また、毎日走っていたことは、今でも、姿勢だったり呼吸だったり、そういうものに、何か影響をもたらしているようにも感じます。

失われるものを受け入れて、失われないものを大切にする。自然な退化が避けられない現実世界で、自分を育てていくことを考えるためには、このことが大切なんじゃないかなと、私は考えています。

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