アイデアの「畑」と「地層」:『ハイブリッド発想術』読書メモ(「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか」番外編)
目次
1.『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』がドンピシャだった
(1) ブログを使ってEvernoteと思考の関係を考えていたら、アドバイスをいただいた
私は、Evernoteを、主に、思考のための道具として使っています。
Evernoteは、考えを捕まるためにも、考えを育てるためにも、考えを寝かせて熟成させるためにも、大活躍してくれます。私にとって、Evernoteは、思考の結果を記憶しておく場所ではなくて、考えを捕まえ、育て、寝かせる場所です。
でも、最近、Evernoteよりももっと優れた思考のツールがあるのではないか、という疑念が湧いてきました。
とはいっても、Evernoteは思考のために役に立たないのではないか、という方向からの疑念ではありません。そうではなくて、「Evernoteよりももっと優れた思考のツールがあるのではないか?」という疑念が湧いてきた、ということです。
この疑念に答えるため、私は、自分にとって、Evernoteはどんな思考ツールなんだろうかということを考えることにしました。「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを立てて、この問いを考えることにしたわけです。
でも、この問いは大きな問いです。なので、最後までひとりで全部考えてからその結果をブログに投稿する、ということは、私の手には負えませんでした。
そこで、その時点その時点までに考えたことを、ちょっとずつブログに投稿していくことにしました。
そこで、最初からまとまったかたちにすることは諦めて、気長に、その都度その都度の到達点をかたちにすることで、少しずつ思考を進めていく、ということを試みます。
そうしたところ、ブログを読んでくださったるうさんから、Twitterで、こんなアドバイスをいただきました。
@irodraw そういえば倉下先生のハイブリッド発想術は既読です、よね?文章作成の思考整理の方法がいろいろ書かれているので今の彩郎さんに向いてるかなと→ http://t.co/XzMxJrp2PJ
— るう@デメル (@ruu_embo) 2014, 2月 4
るうさんのアドバイスは、このテーマを考えるなら、倉下さんの『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』がぴったりだ、というものです。
私が、「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを立てたのは、そもそも、倉下さんによる以下の指摘がひとつの起点になっています。
Evernoteは記憶のツールであって、思考のツールではありません。 きちんと役割分担が必要です。
であれば、この機会に、倉下さんが、Evernoteと思考整理の方法などについて語っているという、この『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』を購入することにしました。
(2) ドンピシャだった
今日の昼ころから読み始めて、ノンストップで読了でした。これはすごい!今、私が考えたいと思っていることに、ドンピシャでした。
私がEvernoteから価値を引き出せるようになったのは、だいたい、ここ1年くらいです。この1年くらいの間、Evernoteから引き出せる価値の本質は、どんなものなんだろう、などということを、よく考えていました。
この『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』には、私がここ1年くらいで何となく感じていたEvernoteの本質、Evernoteの強みが、とてもわかりやすく、かつ、とても深く、表現されていました。
たくさんの箇所で、すとんと腑に落ちました。
まさに私が今読むべき本だったと思います。このタイミングでこの本に引き合わせてくれたるうさん、ありがとうございます。それから、2012年の段階でここまでの考察を進められていた倉下さんのことを、あらためて尊敬します。
2.『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』の構成
『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』の構成は、以下のとおりです。
はじめに All You Need Is Idea!?
01 良いアイデアは良い「畑」から生まれる
02 アイデアの種を見つけるメモ術のバリエーション
03 アイデアの種を大きく育てる連想ノート術
04 アイデアの実を収穫するセンスを磨く
05 Evernoteによるアイデア地層のつくり方
06 ハイブリッド考具としてのiPad活用法
おわりに 誰にでもアイデアの「地力」がある
各章について、軽くご紹介します。
(1) アイデア畑(01 良いアイデアは良い「畑」から生まれる)
アイデアはどこからやってくるか?
アイデアの六原則を知る
- 原則1:誰にでも実行できる
- 原則2:アイデアは種と土の出会い
- 原則3:アイデアには工程がある
- 原則4:何がどのようにできるかは分からない
- 原則5:発想はスキルである
- 原則6:ツールは補助的な存在である
アイデアパーソンになるための三つのポイント
- ポイント1:種をたくさん見つける
- ポイント2:土壌を豊かに保つ
- ポイント3:きっちり実を収穫する
アイデアを考えるにはツールが要る
本章のまとめ
- □アイデアは誰にでも生み出せます
- □発想力は鍛えられます
- □ツールをうまく使うことも大切です
「01 アイデアはよい「畑」から生まれる」は、「アイデア畑」という、本書を貫くメタファーを紹介し、アイデアを生むための基本的な考え方を説明するパートです。
コンパクトかつポイントを突いたわかりやすい記述なので、この章は、発想法の基本を押さえるためにも有益です。
「アイデア畑」というメタファーは、考えることを考える際に、すごく有効でわかりやすいものだと感じました。
(2) 発想のプロセスと発想のツール
「02 アイデアの種を見つけるメモ術のバリエーション」「03 アイデアの種を大きく育てる連想ノート術」「04 アイデアの実を収穫するセンスを磨く」は、発想のプロセスを扱うパートです。本書の本体部分です。
本書は、発想を、着想→連想→整想というプロセスで捉えていますので、各章がひとつひとつのプロセスに対応します。
a.着想・種・メモ(02 アイデアの種を見つけるメモ術のバリエーション【着想のプロセス】)
発想はメモを取る習慣から生まれる
- 第一の障壁:何を、どのようにメモしていいのかわからない
- 第二の障壁:メモしたい時に、手元にメモするものがない
- 第三の障壁:メモを取ったけれども、それが活用できていない
タイプ別実践メモ術
今日からはじめられる四つのメモ・エクササイズ
本章のまとめ
- □自分の頭から出てくる「気づきメモ」が重要です。
- □どこでもメモを取れる環境を作りましょう。
- □取ったメモは一カ所に保存して後で見返しましょう。
着想は、種を集めるプロセスです。メモの意義とコツが丁寧に記載されています。
メモを取る習慣を身につけるための3つの障壁の話は、たいへん参考になりました。
b.連想・育てる・アナログ紙ノート(03 アイデアの種を大きく育てる連想ノート術【連想のプロセス】)
アイデアの種を大きくするのに必要な二つの考具
- 見えない道具:発想法=連想法
- 自由連想法
- 制約設定法
- トリガーワード法
- メタ思考法
連想法に適しているのは、アナログのノート(見える道具:ノート(紙ツール))
連想を広げるトレーニングとしての「一人ブレスト」
アイデアの種を育てるエクササイズ
本章のまとめ
- □アイデアを広げるには連想が肝
- □人の記憶は「きっかけ」によって引き出される
- □心地よく連想を広げられるツールを使う
連想は、アイデアを育てるプロセスです。ここで登場するのは、見えない道具としての発想法と、見える道具としてのアナログ紙ノートです。
見えない道具としての発想法(=連想法)を、4つに分類して整理しているのですが、この記載は、すごくわかりやすかったです。
c.整想・収穫・デジタルツール(04 アイデアの実を収穫するセンスを磨く【整想のプロセス】)
発想プロセスの最後の大切な一歩
アイデアの形を整えるデジタルツール群
- デジタルマインドマップ
- アウトラインプロセッサ
アイデアを整えるための三つのポイント
- キークエスチョン(要点を見つける)
- 目次作り(構造化する)
- ストーリーライン(ストーリーを作る)
最終的なアウトプットを見すえた「整想」エクササイズ
本章のまとめ
- □アイデアは最終的に収束させる必要がある
- □アイデアは人に伝わってナンボを忘れない
- □「要点を見つける」「構造化を行う」「流れを作る」の三つを押さえる
「整想」というのは、本書の造語で、発想を整えて、他者に伝わるかたちにすることです。この言葉は、本書を読んでいて、なるほど!と感じたポイントの一つでした。
発想術というと、アイデアを思いつくことや育てることまでがイメージされることが多いと思います。しかし、「整想」まで行かないと、アイデアが価値を生み出すことはありません。そのため、「整想」の重要性は、どんなに強調しても強調しきれないのではないかと感じます。
整想は、畑のメタファーでは収穫に相当します。そして、整想のためのツールは、デジタルのものです。
整想のための3つのポイントとして紹介されているもののうち、私は、キークエスチョンという考え方にハッとさせられました。今後、活用したいと思います。
また、整想エクササイズとして提案されていた「幻本の企画書を書いてみる」というのは、とてもおもしろそう。今度やってみます。
(3) Evernoteによるアイデア地層(05 Evernoteによるアイデア地層のつくり方)
アイデアの地層化が可能になった
Evernoteで「体験」を保存する
Evernoteの情報整理スタイル
Evernoteでできるこんなアイデアの地層化
本章のまとめ
- □アーカイブデータをEvernoteに保存していく
- □整理は最小限の手間で、「後で見つけられる」程度で十分
- □一気に全てやるのは無理がある。小さいところから少しずつはじめる
「05 Evernoteによるアイデア地層のつくり方」は、発想のプロセス全体をEvernoteに蓄積することで、Evernoteにアイデア地層が生まれるということと、その方法を解説しています。この「アイデアの地層化」というメタファーも、本書の中で、特に響いたところです。
化石燃料も埋まっているだけでは意味がなく、それらを掘り出して使う必要があるように、自分の記憶や体験も忘れてしまったままでは、あまり意味を成しません。知識・情報・体験を蓄えて、それを「掘り出せる」状態にしておくことで、役立てることができます。
必要な時に、昔の自分の体験を引き出せるようにしておくこと。これが「アイデア地層」作りです。表現を変えれば、過去の自分を味方にするための方法と言えるかもしれません。
Evernoteに蓄積することで、「過去の自分を味方にする」というのは、ワクワクします。Evernoteの魅力をわかりやすく表現していると思います。
(4) ハイブリッド考具 iPad(06 ハイブリッド考具としてのiPad活用法)
アップルによってもたらされた新しい考具
アナログ感覚でデジタルデータを扱えるツール
iPadを考具に変えるアプリたち
本章のまとめ
「06 ハイブリッド考具としてのiPad活用法」は、iPadは、アナログ感覚でデジタルデータを扱うことができるという、これまでにないツールなので、iPadを使うと、これまでにない発想ができるかもしれないよ、というようなことが書いてあります。
3.この本を読み終えた今、私は何を考えたらいいんだろう、という気もするけれど、考えるべきことは、たぶんまだたくさん残されている
「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを抱えている今このタイミングで、『Evernoteとアナログツールによるハイブリッド発想術』を読むことができたのは、ほんとうにありがたいことです。たくさんの収穫がありました。
しかし、この本を読んだことは、私に大きな課題を突きつけもしました。それは、「この本が存在することを前提として、何かまだ考えるべきことは残されているのだろうか?」「この本がすでに存在するのに、さらに私が何か考えることはあるのだろか?」「この本を読み終えた今、私は何を考えたらいいんだろう?」ということです。それくらい、この本は、Evernoteと思考の関係について、深く考察しています。
でも、考えるべきことは、まだたくさん残されているのだろうと思います。Evernoteも思考も、大きなテーマです。考え尽くす、ということは、たぶん不可能です。今の私に見えていないだけで、きっと、考える余地は、たくさん残されています。
というわけで、もうしばらくの間、「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」という問いを考えていこうと思います。
「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」の「はじめに」
とはいえ、まあ当分は、この本から拾った種をひとつひとつ畑にまいて、育てていくことになりそうです。それだけで当分楽しめそうです。コストパフォーマンスが高い本でした。
【いろんなブロガーさんたちが書いた書評エントリ】
『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』の書評エントリのまとめです。いろんな方が書かれているんですねえ。
R-style » 『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』
「発想法」をテーマにした、拙著6冊目。 発想において、アナログ・デジタル・クラウドツールをどのように使うのか。 そもそも、「発想」って一体なんなのか。 どうすれば、発想力を鍛えることができるのか。 …
私のおすすめ書評は、こちら。
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