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[『サピエンス全史』を起点に考える]サピエンス全体に存在する協力の量と質は、どのように増えていくのか?

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『サピエンス全史』は、大勢で柔軟に協力することがサピエンスの強みだと指摘します。

[『サピエンス全史』を読む]サピエンスの強みはどこにあるのか?(第1部 認知革命)

ここから素朴に考えると、もっと多くのサピエンスが、もっと柔軟に、もっと深く、協力し合うようになれば、サピエンスはもっと繁栄するんじゃないか、という気がします。そして実際、近頃のサピエンスが成し遂げた多くのことは、サピエンスがより柔軟に、より幅広く協力し合うようになったことから生まれたような気もします。

つまり、サピエンス全体に存在する協力の量と質が、サピエンス繁栄の鍵です。

では、サピエンス全体に存在する協力の量と質は、今後、どうなっていくでしょうか。増えていくような気がします。量の面でも質の面でも、前例のないレベルへと増えていく気がします。

協力の量と質がどのように増えていくのか、いくつかの観点から考えてみます。(いくぶん楽天的すぎる気がしますが、まあ、とりあえず。)

1.『サピエンス全史』が解き明かす、3つの協力の要素

『サピエンス全史』には、サピエンス全体の協力を促す要因が、多数、紹介されています。このうち、主に「第3部 人類の統一」と「第4部 科学革命」で使われたいくつかの要素を、次のとおり、3つにまとめることができるように思います。

  • 経済(貨幣・資本主義)
  • 政治(帝国・国際社会)
  • 方法論(思想・宗教・近代科学)

(1) 経済による協力(貨幣・資本主義)

ひとつめは、経済による協力です。直近50年ほどを考えると、もっとも強く機能してきた要因ではないかと思います。

まず、サピエンスは、貨幣を生み出すことによって、効果的な分業を実現しました。

貨幣は簡単に、しかも安価に、富を他のものに換えたり保存したり運んだりできるので、複雑な商業ネットワークと活発な市場の出現に決定的な貢献をした。貨幣なしでは、商業ネットワークと市場は、規模も複雑さも活力も、非常に限られたままになっていただろう。

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したがって、貨幣は相互信頼の制度であり、しかも、ただの相互信頼の制度ではない。これまで考案されたもののうちで、貨幣は最も普遍的で、最も効率的な相互信頼の制度なのだ。

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その上で、近代科学によって可能になった資本主義により、信用という制度が生み出されました。

将来への信頼に基づく、新たな制度が登場したのだ。

この制度では、人々は想像上の財、つまり現在はまだ存在していない財を特別な種類のお金に換えることに同意し、それを「信用」と呼ぶようになった。

この信用に基づく経済活動によって、私たちは将来のお金で現在を築くことができるようになった。

信用という考え方は、私たちの将来の資力が現在の資力とは比べ物にならないほど豊かになるという想定の上に成り立っている。

将来の収入を使って、現時点でものを生み出せれば、新たな素晴らしい機会が無数に開かれる。

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貨幣と資本主義という経済は、サピエンス全体の中に存在する協力の量と質を、飛躍的に高めてきました。

(2) 政治による協力(帝国・国際社会)

ふたつめは、政治です。

政治による協力は、帝国の誕生によって始まりました。「協力」という言葉には、平和で公正で優しいイメージがあるかもしれませんので、帝国と協力は、いっけん、しっくり来ません。でも、サピエンスの力の源泉である協力とは、平和で公正で優しくなければならないわけではありません。帝国は、無数のサピエンスをして、共通の目的に向けた柔軟な協力を強いました。帝国によってサピエンス全体に存在する協力の量と質が増えたことは、明らかです。

以前、帝国と国家は、概ね一致していました。でも、今は、国家の単位があまり大きな意味を持ちません。『サピエンス全史』が指摘するのは、グローバル帝国の存在です。グローバル帝国は、国家の枠に拘束されない、全サピエンスの協力を促します。

国家の枠と関係なくサピエンスが協力し合うことは、現代の世界平和ともつながります。この世界平和は、次の4つの要因間に存在する正のフィードバック・ループとして解き明かされます。

  • 戦争の代償が途方もなく大きくなったこと(その原因としての核兵器)
  • 戦争で得られる利益が減ったこと(現代社会で富を生み出すのは、サピエンスの思考であるため、戦争によって富を奪うことができない)
  • 戦争のない状態(平和)から得られる利益が増えたこと(世界規模の協力が現に存在しているため)
  • 世界を治めるエリート層が平和を愛し、平和が可能だと信じていること

このフィードバック・ループは、グローバル帝国とともに、全世界の平和を強化します。

私たちは今、グローバルな帝国の形成を目にしている。これまでの帝国と同じく、この帝国もまた、その領域内における平和を強化する。そして、その領域は全世界に及ぶから、世界帝国は、実質的に世界平和を推進することになるのだ。

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こうして、政治は、サピエンス全体に存在する協力の量と質を増やしてきました。

(3) 方法論による協力(思想・宗教・近代科学)

みっつめは、人々が共通して持つ思考枠組みやパラダイムです。

古来は思想や宗教で、約500年前以降は近代科学の方法論がこれに当たります。

近代科学については、その中に含まれる個々の理論単位で考えれば、全サピエンス共通のものは、ほとんど存在しないかもしれません。しかし、一段階メタな次元にある方法論、すなわち、観察と数学を基礎とする近代科学の方法論は、概ね、全サピエンス共通の思考枠組みとなっていると言ってよい気がします。

この近代科学の方法論には、たとえば、

  • 理論を検証する仕組み
  • 理論の功績を特定の人物や団体に帰属させて評価する仕組み
  • 他者によって生み出された理論を参照する仕組み
  • 理論を実用化する仕組み

などが含まれています。

これらはすべて、個々のサピエンスによる知的作業を、累積していく仕組みです。誰もが「巨人の肩の上」に立つことができ、また、誰もに、自分の知的作業の成果を巨人に追加する可能性が開かれているのが、近代科学の方法論です。

この方法論は、主に学界によって生み出され、改良されてきた仕組みなんだろうなと思います。しかし、今や、この仕組は、学界の枠を超え、主にインターネットの世界にも浸透しているんじゃないかと、私は楽観しています。

こうして、サピエンス共通の方法論は、サピエンス全体に存在する協力の量と質を強化してきました。

2.協力を生み出す新たな要素

これまで、サピエンスは、サピエンス全体に存在する協力の量と質を増やすべく、協力を生み出す要素を次々と発明してきました。同じように、これからも、新たな要素を創り出すはずです。

これからしばらくの間、わりと大きく機能しそうな要素は、

  • ウェブ
  • ブロックチェーン

という2つかなと思います。

(まあ、前者はすでに強力に機能しており、後者もずいぶんと機能し始めていますが。)

(1) ウェブ(Wordl Wide Web)による協力

ひとつめはウェブです。World Wide Web。

ウェブ(World Wide Web)を正確に定義することは、私にはできません。インターネットとウェブの違いも、全然わかっていません。FacebookやTwitterなどのSNSとウェブとの関係、EvernoteやWorkFlowyとのウェブとの関係については、基本的なことすらわかっていません。

それでも、今の社会において、ウェブが、個々のサピエンス同士の情報共有を非常に協力に支えていることは、私にもわかります。

サピエンスとサピエンスが情報を共有することは、サピエンスとサピエンスが協力することの、量と質を高めます。情報共有が進めば進むほど、サピエンス全体に存在する協力の量と質は増えるといってよいのではないかと思います。

(2) ブロックチェーンによる協力

ふたつめは、ブロックチェーンです。暗号通過ビットコインの基礎技術であるブロックチェーンは、サピエンス全体に存在する協力の量と質を異次元に引き上げる力を秘めているのではないかと思います。

ブロックチェーンの肝のひとつは、柔軟な証明手段を万人に解放するところにあるのではないか、というのが、今のところの私の考えです。

ブロックチェーン以前、何らかの事実をきちんと証明するには、何らかの権力に頼る必要がありました。収入を証明するために市役所で課税証明を発行してもらう、土地の所有権を証明するために法務局で登記をとる、銀行残高を証明するために銀行に残高証明を出してもらう、などです。証明対象の事実に対応して、その事実を証明する権限を持つ公権力(のような存在)があり、そんな公権力に頼って(あるいはそんな公権力を使って)、事実を証明する必要がありました。

これに対して、ブロックチェーンを使えば、公権力に頼らずに、いろいろな事実を証明することができます。仕組みさえ作ればいろいろなやり方があると思うのですが、私が最近面白いなあと思ったのは、Wikileaks創始者のジュリアン・アサンジ氏が、ブロックチェーンを使って自分の生存を証明したことです。

「私は生きている」Wikileaks創始者ジュリアン・アサンジがブロックチェーンを用いて死亡説を否定 | ビットコインの最新情報 BTCN|ビットコインニュース

ブロックチェーンは、万人に、柔軟な証明手段を開放します。これによって、サピエンスは、他のサピエンスが前提とする事実について、きちんと証明されていることを容易に確認できるようになります。これによって、サピエンスは、いろいろな事実について、お互いに100%証明できていることを前提に、関係を結ぶことができるようになります。

多分これは、これまでとは異次元の協力になります。

3.何による協力か?

これまでのサピエンス全体に存在する協力は、「何によって協力するのか?」という観点から整理すると、次のような変遷を見て取ることができます。

  • 肉体による協力
  • 中央の司令塔を前提とする、知的能力による協力
  • 分散的な、知的能力による協力

最初は、それぞれのサピエンスの肉体を用いての協力だったのが、次に中央の司令塔による指示を前提とした、知的能力による協力が可能になり、その後、中央の司令塔による指示を前提としない、分散的な、知的能力による協力も可能になってきた、という感じです。

ウェブとブロックチェーンは、分散的な知的能力による協力を、ますます推進します。

ところで、『サピエンス全史』が指摘する協力には、次の2種類のものがあるのでした。

  • 大勢で柔軟に協力する(おもに同時代の協力)
  • ゲノムを迂回する(おもに時代を超えた協力)

[『サピエンス全史』を読む]サピエンスの強みはどこにあるのか?(第1部 認知革命)

この2つから考えると、最近のサピエンスが実現しつつある、分散的な、知的能力による協力は、この両者の強みを併せ持つ協力になっています。

というのも、中央の司令塔を前提とする知的能力による協力の場合、中央の司令塔間の協力関係は、おもに時間軸に沿った時代を超えたものになります。そのため、ゲノムの迂回は時代を超えて生じるのでした。これに対して、分散的な知的能力による協力の場合、異なった知的作業が同じ時代の中に同時に併存します。これらの間の同時代の協力は、単にあらかじめ定められた一つの目的に向かって大勢に柔軟に協力することにとどまらず、時間軸をほとんど必要としないゲノムの迂回になりえます。

同時代のゲノムの迂回は、とても協力です。なぜなら、時代を超えたゲノムの迂回は、時間軸に沿っているため、A→Bという一方通行ですが、同時代のゲノムの迂回は、A→BとB→Aの両方向があるためです。

ということで、サピエンスが最近上手になりつつある、分散的な、知的能力による協力は、サピエンス全体に存在する協力の量と質を、ぐぐっと引き上げるのではないかと考えています。

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