Evernote・WorkFlowy/カード・こざね
目次
1.はじめに
『知的生産の技術』を読んだ私が感じたことは、同書のカード・システムとWorkFlowyとの間には、強い共通点がある、ということです。
そのようなつぶやきをTwitterに流したところ、何人かの方との簡単な意見交換が生まれ、そこから、『知的生産の技術』のカード・システムとWorkFlowyの関係を検討するための、2つの軸が浮かび上がりました。
ひとつめの軸は、『知的生産の技術』のカード・システムを構成する2つの道具です。
- カード(京大型カード・京大式カード・情報カード)
- こざね
カードとこざねという、大きさも材質も異なる紙が、『知的生産の技術』のカード・システムを支えています。
もうひとつの軸は、次の2つのクラウドサービスです。
- Evernote
- WorkFlowy
2015年現在、個人のための知的生産システムを構築するための道具を考えるなら、この2つのクラウドサービスは欠かせません。
WorkFlowyで「発見の手帳」(『知的生産の技術』とWorkFlowy)
この2つの軸からは、次のテーマが導かれます。
「カード・こざねと、Evernote・WorkFlowyは、どんな関係に立つのか?」
大変興味深いテーマです。自分で考えるのは当然ですが、それだけでなく、いろんな方々の意見を伺ってみたいなと感じています。
そこで、この文章で私は、このテーマについていろいろと考えてみるための土俵を整えたいと思います。具体的には、カード・こざねとEvernote・WorkFlowyについて、基本的な情報を整理したり、これまでに交わされた意見を並べたりすることによって、これを試みます。
2.カード・こざね
『知的生産の技術』のカードシステムは、2つの道具によって構成されています。
- カード
- こざね
では、カードとこざねとは、いったいどんなものなのでしょうか。また、どのように使われるのでしょうか。
それぞれ整理します。
(1) カード
a.カードの物理的な形状(What)
『知的生産の技術』のカードは、製品化されています。これです。
まずは、大きさ、材質、罫線などの、物理的な形状を確認しましょう。
(a) 大きさ
大きさは、B6版、12.8cm×18.2cmです。キャンパスノートの半分のサイズになります。
京大型カードは、B6判である。B6というと、一二・八センチ×一八・二センチもあるから、ずいぶんおおきいものである
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(b) 材質
材質は、あつさとしなやかさを兼ね備えた厚み、です。
カードは、活用しなければ意味がない。カードは、くるものである。カード・ボックスにいれて、図書カードをくるように、くりかえしくるものである。そのためには、ある程度のあつみと、腰のつよさが、どうしても必要である。
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紙の表面は、インクがすぐに乾くように、あまりなめらかでない方が好ましい、とされます。
紙の表面は、あまりなめらかなものはよくない。インクをよくすうほうがよい。カードは、どんどんかいて、かさねてゆくことがおおいから、インクのかわきのおそいのは、こまるのだ。
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(c) 罫線など
罫線などは、どちらでもよいそうですが、無視しても使えるようなうすいもので、間隔を広めにとったものがよいそうです。
カードにケイ線を印刷するかどうかも、このみの問題だろうが、わたしは、あったほうがよいとかんがえている。ただし、ケイ線を無視してもつかえるように、色はごくうすいものがよいだろう。わたしは、うすい青の線をいれている
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大切なのは、裏面に入れないことです。カードを使用するのは片面だけだからです。
それから、当然のことだけれど、裏には線は不必要である。カードは、原則として片面だけでつかうもので、裏はつかわないほうがよい。
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(d) シンプルで汎用的な道具
このように、『知的生産の技術』のカードは、何の変哲もないシンプルな道具です。シンプルだからこそ、汎用的で広く活用できます。
こうしてできあがったカードは、一見なんの変哲もないものであるが、この単純さが、カード・システムの効果を発揮させるための条件なのだとおもう。カード・システムのためのカードは、多様な知的作業のどれにもたえられるような多目的カードでなければならない。よけいなものをつけくわえるほど、その用途はせばめられるのである。
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b.カードの使用場面(Where)
次に、カードの使用場面を見てみましょう。
『知的生産の技術』では、基本的に、あらゆる記録を、このカードに記載することが推奨されます。
それで、それまで野外調査の整理にだけつかっていたカード・システムを、知的生産の全領域に拡大して適用することにして、いっさいのノートをやめて、カード一本にしてしまったのである。「発見の手帳」も、もちろんこれに吸収されてしまった
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研究の過程も、結果も、着想も、計画も、会合の記録も、講義や講演の草稿も、知人の住所録も、自分の著作目録も、図書や物品の貸出票も、読書の記録も、かきぬきも、全部おなじ型のカードでいける。
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日記も、です。
であるとすれば、ここで一段と飛躍がかんがえられる。なぜ日記がカードであってはいけないのか。日記も、カードにかけばよいではないか
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読書ノートも、です。
ノートといっているが、わたしの場合は、じっさいにもちいている紙は、例のカードである。それに、一枚一項目の要領でかきこむ。
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できあがったカードは、もはや読書ノートではない。読書ノートとしての制約をこえて、ほかのカードといっしょになって、あたらしい知的生産の素材として、そのまま利用されるのである。
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c.カードの一生(When)
では、カードは、どのような一生をたどるのでしょうか。
(a) 誕生
カードは、日常の中のあらゆる場面で誕生します。すべての経験が、このカードに記録されるからです。
カードに記録するときには、いくつかの原則があります。
まず、「カードの内容だけで、記録した内容がわかるように、書く」ということです。
カードにかいてしまったら、安心してわすれてよいのである。そこで、カードをかくときには、わすれることを前提にしてかくのである。つまり、つぎにこのカードをみるときには、その内容については、きれいさっぱりわすれているもの、というつもりでかくのである。
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カードの基本思想は、「記憶をたよりにしないで、記録する」です。
わたしは、なるだけ記憶をたよりにしないようにしている。なかには記憶力のすぐれたひともいるけれど、だいたいにおいて人間の記憶はあてにならない。記憶をたよりに知的作業をすすめようとするひとを、わたしはあんまり信用しない。
カードは、他人がよんでもわかるように、しっかりと、完全な文章でかくのである。「発見の手帳」についてのべたときに、豆論文を執筆するのだといったが、その原則はカードについてもまったくおなじである。カードは、メモではない。
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次に、形式的なことですが、見出しと日付をすべてのカードに記載します。
そのかわり、豆論文にはかならず「見だし」をつける。
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おなじように、カードにもかならず日づけをいれる習慣をつけたほうがよいだろう。わたしは、カードの左下のすみに、日づけをいれることにしている。また、おなじ項目で何枚かのつづきものカードができることがある。そのときには、一連番号をうつ。
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それから、カードの大原則は、1枚1項目です。1枚のカードには、ひとつのことしか書いてはいけません。
一枚のカードにはひとつのことをかく。この原則は、きわめてたいせつである。
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(b) 保管
作ったカードは、保管します。
まず、保管のための道具は、市販のカードボックスです。B6サイズなので、既成品が使えます。
さて、カードができたらカード・ボックスにいれる。
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次に、これはとても大切なことなのですが、保管するときの分類は、それほど気にする必要はありません。
カードのことをいうと、だれでも、分類はどうするのか、ということを気にされるようである。あるいは、カードといえばかならず、数千枚、数万枚のカードが整然と分類されて、ケースに保管されているところを想像するようだ。しかしこれは、カードというものは知識を分類して貯蔵するものだという、たいへん普遍的で、またむりからぬ誤解からくるまちがいである。
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(c) 活用
分類しないのであれば、カードをどうするのでしょうか。それは、活用です。
では、カードの活用とは、具体的には、どういうことを意味するのでしょうか。カードを操作して、知的生産の作業をおこなう、ということです。
何万枚のカードも、死蔵していたのではなんにもならない。それは活用しなければならないのだ。カードを活用するとはどういうことか。それは、カードを操作して、知的生産の作業をおこなうということである。
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カードの操作とは、要するに、組みかえや並べかえです。
操作できるというところが、カードの特徴なのである。蓄積と貯蔵だけなら、ノートでじゅうぶんだ。ノートにかかれた知識は、しばしば死蔵の状態におちいりやすいので、カードにしようというのではなかったか。カードの操作のなかで、いちばん重要なことは、組みかえ操作である。知識と知識とを、いろいろに組みかえてみる。
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カードを組みかえたり並べかえたりすることによって、目に見えない脳の働きを、カードというかたちで外部に取り出すことができる、とされます。
これはいわば、目にみえない脳細胞のはたらきを、カードというかたちで、外部にとりだしてながめるみたいなものである。あるいは、そうして外部で目にみえる形で操作することによって、内部の作業の進行をたすけようというのである。 こういうわけだから、カードが何枚たまっても、その分類法についてあまり神経質になる必要はない。
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カードを操作することによって行うのは、知的生産の作業でした。知的生産の作業とは、つまるところ、文章を書くこと、アウトプットです。
たとえば、著者の梅棹氏は、『知的生産の技術』を、カードを使って書きました。
じつは、この原稿も、わたしはカードをもとにしてかいているのである。まえから、「知的生産の技術」について、あるいは、カード・システムについて、気のついたことをカードにかいておいたものが、そうとうたまっている。いま、それをカード・ボックスからとりだして、ならべてみると、それでもうこの原稿の骨ぐみはほぼできあがっていたのである。
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さらに、学術論文ですら、カードを使って書きました。それも、複数の論文を、です。
こうして数千枚のカードができあがった。それを基礎にして、わたしは、そののち、モンゴル遊牧民についての論文をいくつかかいた
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(d) カードの一生の終わりは?
このように、作られ、保管され、活用されるのが、カードの一生です。
では、カードの一生に、終わりはないのでしょうか。
カードの一生の終わりとは、つまり、カードの処分、カードを捨てることです。
『知的生産の技術』には、この記載はありません。おそらく、『知的生産の技術』のカードシステムは、カードを処分することを想定していないと思われます。
カードの一生に、終わりはない。これが、カードの特徴のひとつです。
d.カードの役割(Why)
カードは、どのような役割を担うのでしょうか。『知的生産の技術』が指摘するのは、主に次の2つです。
- 蓄積
- 活用
(a) 蓄積
まず、カードは、着想を蓄積するための道具です。
着想は物理的なものではなく、思考や感情といった頭の中で生じる働きです。そのため、着想は、箱や袋やタンスにしまって保管することができません。
着想を保管する場所というと、頭のなか、つまり記憶が思い浮かびます。しかし、記憶はあてになりません。「記憶にたよらず、記録に残す」が知的生産の基本原則です。
そこで、『知的生産の技術』は、着想を蓄積するために、カードに文章で書く、という方法を採用します。
しかし、材料の蓄積はそうはゆかない。かんがえの素材となる事実や命題を、けっきょくは記憶のなかからよびおこすということになるのだが、その記憶の能力が、わたしの場合、まったくあてにならないのである。そこで、発見のあるたびに、せっせと「発見の手帳」にかきとめて、蓄積をはかることにしたのである。
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着想を蓄積すれば、思考を積み上げ、少しずつ前に進めることができます。
思想の構築のためには、「発見の手帳」は、やはりたいへん有効な素材蓄積法であろうと、わたしはかんがえている。
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かいておきさえすれば、まえの発見が、つぎの発見のためのふみ石になって、しだいに巨大な構築物にまでつみあげることも可能なはずである。
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また、記録の蓄積は、進歩とか発展のための、よい材料になります。
進歩とか発展ということをかんがえると、これではあきらかに効率がわるい。膨大な記録カードと日記の蓄積は、いわば個人のためのアルキーフである
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(b) 活用
次に、活用です。
『知的生産の技術』のテーマは、ある意味、蓄積した着想をいかに活用するか、にあります。全体を貫くコンセプトである「ノートからカードへ」も、蓄積するだけでなく活用するにはどうしたらよいか、という問いに対する答えです。
操作できるというところが、カードの特徴なのである。蓄積と貯蔵だけなら、ノートでじゅうぶんだ
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カードを活用するとは、先程も書いたように、カードを操作して、知的生産の作業を行う、ということです。
たとえば、読書ノートをカードで作れば、このカードは、もはやたんなる読書ノートではありません。他のカードと一緒になって、組み合わせや並び替えによって、対象の本の枠内にとどまらない価値を生み出しうるわけです。
できあがったカードは、もはや読書ノートではない。読書ノートとしての制約をこえて、ほかのカードといっしょになって、あたらしい知的生産の素材として、そのまま利用されるのである。
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(2) こざね
a.こざねの物理的な形状など(What)
こざねは、製品化されていません。それは、こざねが、物理的には単なるB8サイズの紙きれだからです。
ただ、わたしが「こざね」とよんでいる紙がある。おおきさはB8判、紙質はとわない。
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実物の写真を見るのが一番です。以下のページの背景に、たくさんのこざねが写っています。
人類の未来 こざね | 企画展「ウメサオタダオ展 -未来を探検する知の道具-」(梅棹忠夫) | 日本科学未来館
また、次の記事にも、実物のこざねの写真があります。
R-style » 「梅棹忠夫の七つ道具ワークショップ」に参加してきました
なお、こざねは、ホチキスで1列につなげて使います。複数のこざねをホチキスでつなげた紙きれのつらなりも、「こざね」と呼ばれます。
こうしてできあがった紙きれのつらなりを、わたしは「こざね」とよんでいる。
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b.こざねの使用場面(Where)
こざねが使用される場面は、文章を書くときです。
文章を書くという作業は、
- 考えをまとめる段階
- まとめた考えを文章に書き表す段階
の2つに区別することができます。
文章をかくという作業は、じっさいには、ふたつの段階からなりたっている。第一は、かんがえをまとめるという段階である。第二は、それをじっさいに文章にかきあらわす、という段階である。一般に、文章のかきかたというと、第二の段階の技術論をかんがえやすいが、じつは、第一の「かんがえをまとめる」ということが、ひじょうにたいせつなのである。かくべき内容がなければ、文章がかけないのは、あたりまえである。文章をかくためには、まず、かくべき内容をかためなければならないのだ。
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考えをまとめる第1段階は、書くべき素材を並べるだけでは、終わりません。ここで活躍するのが、こざねです。
一般には、素材をならべただけでは、とうていかんがえがまとまったということはできない。断片的な素材をつかって、まとまりのあるかんがえ、あるいは文章を構築するには、つぎのような技法が役にたつだろう。
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c.こざねの一生(When)
では、こざねを使って文章を構築する方法を説明します。
まず、こざねを用意します。
まず、紙きれを用意する。まえに、紙の規格についてのべたときに、わたしは、規格外の紙は全部B8判(六・四センチ×九・一センチ)のサイズに裁断してしまう、ということをのべた。
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これがいつでも、机のうえに、何百枚かつんである。これが、雑用紙といえばいえるだろう。「こざね」の意味と用法については、のちにのべる。
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そこに、1枚1項目で、書くべきテーマのキーワードや短い文を書きます。
その紙きれに、いまの主題に関係のあることがらを、単語、句、またはみじかい文章で、一枚に一項目ずつ、かいてゆくのである。
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カードに蓄えられた素材も、切り抜き資料も、引用する本の内容も、すべて一度、こざねに書き出します。一通り出し尽くすまで、頭のなかの素材をこざねに書き写し続けるわけです。
すでにたくわえられているカードも、きりぬき資料も、本からの知識も、つかえそうなものはすべて一ど、この紙きれにかいてみる。ひととおり出つくしたとおもったら、その紙きれを、机のうえ、またはタタミのうえにならべてみる。これで、その主題について、あなたの頭のなかにある素材のすべてが、さらけだされたことになる。
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次は、こざねを眺めて、つながりのありそうなものを並べます。
分類するのではありません。つながりを見つけて、そのつながりで並べます。
つぎは、この紙きれを一枚ずつみながら、それとつながりのある紙きれがほかにないか、さがす。あれば、それをいっしょにならべる。このとき、けっして紙きれを分類してはいけない。カードのしまいかたのところでも注意したことだが、知的生産の目的は分類ではない。
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筋が通る順序に並べることができたら、ホチキスでつなげます。これで、素材がひとつの思想へと構成されました。
分類するのではなく、論理的につながりがありそうだ、とおもわれる紙きれを、まとめてゆくのである。何枚かまとまったら、論理的にすじがとおるとおもわれる順序に、その一群の紙きれをならべてみる。そして、その端をかさねて、それをホッチキスでとめる。
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この作業を続けると、こざねの列がいくつもできます。今度は、こうしてできたこざねの列を次第に集め、並べていきます。
こざねの列がいくつもできたところで、さらにそれらのこざねどうしの関係をかんがえる。そして、論理的につながっているものを、しだいにあつめてゆく。
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そして、論理的にまとまりのある一群のこざねの列ができたら、それをクリップでとめ、見出しの紙きれをつけ、文章全体の構成を組み立てる、というわけです。
こうして、論理的にまとまりのある一群のこざねの列ができると、それをクリップでとめて、それに見だしの紙きれをつける。あとは、こういうふうにしてできたこざねの列を、何本もならべて、見だしをみながら、文章全体としての構成をかんがえるのである。
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文章全体の構成が見えてきたら、あとは文章にするだけです。こざねを1枚ずつとりあげて、その内容を文章に書きおろします。
ここまでくれば、もう、かくべき内容がかたまっただけでなく、かくべき文章の構成も、ほぼできあがっているのである。あとは、かさねられたこざねの列を、上から順番に、一枚ずつとりあげてみながら、その内容を文章にかきおろしてゆけばよいのである。
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文章にする作業が終わったら、こざねはもういりませんので、まるめて捨てます。
この作業がおわったら、こざねはもはや不要である。まるめて、すてればよい。
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役割を終えたら、捨てる
d.こざねの役割(Why)
このように、こざねの役割は、文章を書くことの支援です。それも、文章によって伝達する考えをまとめる段階が、こざねの守備範囲になります。
ここには、「文章は、くみたててゆくものである」という基本思想があります。
だいいち、ふつうの文章は、そういう方法ではかけない。文章というものは、基本的には、たぐりだすものではなくて、くみたててゆくものだとおもう。
location 2699
文章を書くという作業は、頭のなかの支離滅裂な思念を、努力して論理的な形に組み直す作業を伴います。
それを、文章にするときに、努力して論理的なかたちに組みなおすのである。
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この頭のなかの動きを、紙きれの形で外に取り出したものが、こざね法です。
こざね法というのは、いわば、頭のなかのうごきを、紙きれのかたちで、そとにとりだしたものだということができる。
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文章を書く、という観点から見ると、こざね法の意義は、この方法に従えば、誰でもいちおう論理的でまとまった文章がかける、という点です。こざね法は、凡人のための文章術でもあります。
もうひとつ、文章という点からいってたいせつなことは、この方法でやれば、だれでも、いちおう論理的で、まとまった文章がかける、という点である。
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3.Evernote・WorkFlowy
(1) なぜ、WorkFlowyをEvernoteと比較するのか?
カードとこざねを整理したので、次は、EvernoteとWorkFlowyです。
ただ、その前に、なぜここでEvernoteが出てくるのでしょうか。この検討の出発点は、『知的生産の技術』とWorkFlowyの共通性でした。ここにEvernoteが出てくるのは、唐突な気もします。
ひとつの理由は、Evernoteが、2015年現在、個人のための知的生産ツールとして、不動の地位を築いていることです。Evernoteは、知的生産に関心を持つ個人が、長い間夢見ていた理想を、現実にしたような道具といえます。知的生産のための道具を検討するなら、Evernoteは欠かせません。
もうひとつの理由は、WorkFlowyをEvernoteと比較することは、WorkFlowyをはじめてさわる多くの方々の頭に、実際に浮かんでくる考えのようだからです。ここ半年ほど、WorkFlowyを紹介する多くのブログ記事がウェブ上で公開されましたが、その多くが、Evernoteと比較する視点を取り入れて、WorkFlowyを検討しています。
そこで、以下、EvernoteとWorkFlowyを比較検討するための材料を整理します。
(2) EvernoteとWorkFlowy
a.Evernoteとは?
(a) Evernoteは、個人が利用できる理想的なデータベース
Evernoteは、クラウドのメモサービスです。
Evernoteの特徴は、
- 幅広い種類のデータを保存できる
- データを保存したノートを、ノートブックとタグで管理できる
- 他のクラウドサービスや連携アプリと組み合わすことができる
などにあります。いずれも、Evernote誕生前には、想像すらできなかったほど強力な機能です。Evernoteは、2015年の現在、個人が利用できる万能データベースとして、確固たる地位を築いています。
(b) Evernoteのキャッチフレーズ
Evernoteは、当初、「すべてを記憶する」というキャッチフレーズを掲げていました。すべてを記憶する第2の脳が、Evernoteです。
これに対して、最近のEvernoteが掲げているキャッチフレーズは、「自分のすべての作業を行うワークスペース」です。Evernoteはクラウドストレージではありません。単にデータを保存するだけでなく、保存したデータを活用していろいろな作業を行うことができます。新しいキャッチフレーズは、Evernoteのこの側面に光を当てたものです。
(c) データをノートに保存し、ノートをノートブック・タグ・メタ情報で管理する
Evernoteがデータを保存する基本的な構造は、「データをノートに保存し、ノートをノートブック・タグ・メタ情報で管理する」です。
まず、Evernoteは、ノートという基本単位を持っています。Evernoteにあるデータを保存するためには、ノートの中にそのデータを入れなければいけません。裸のデータそのものをEvernoteの中に保存することはできないわけです。
次に、Evernoteは、ノートを管理するためのいくつかの機能を持っています。これらの機能を、私自身は、3系列に分けて理解しています。ひとつめがノートブック&ノートブックスタック、ふたつめがタグ、みっつめがメタ情報(による抽出&並び替え)です。
ノートブックは、ノートが所属する場所です。すべてのノートは、必ず、どれかひとつのノートブックに所属します。そして、複数のノートブックをまとめる機能が、ノートブックスタックです。
タグは、ノートに付けられた目印やラベルのようなものです。ひとつのノートにつけるタグの数に制約はありません。複数のタグをつけることができますし、ひとつもつけないこともできます。タグが可能にするのは、串刺し検索です。複数のノートに同じタグをつけておけば、そのタグをつけたすべてのノートを、一瞬にしてピックアップすることができます。
メタ情報とは、ひとつひとつのノートにEvernoteが与えている様々な情報のうち、ノートの中身以外のものすべてです。ノートタイトル、作成日&更新日、URL、位置情報、作成者、ソースなどがこれにあたります(なお、ノートブックとタグも、メタ情報のふたつです)。これらによって何ができるかといえば、自動抽出と自動並び替えができます。抽出とは、Evernoteに保存したすべてのノート群から、条件に当てはまるノートだけを、かつ、条件に当てはまるノートのすべてを、拾い出すものです。並べ替えとは、ある値を並べ替えの基準として、ノートを自動で並べ替えることです。これによって、Evernote内に保存したノート群から、必要なノートだけを、必要な順序で並べて、表示することができます。メタ情報による自動抽出と自動並べ替えによって、Evernoteはノートを管理しています。
(d) ノート群の構造
Evernoteのノート群は、網目構造をしています。あるノートと別のノートの関係は、基準によって様々です。「ノートブックは同じだけれど、タグは異なる。」「ノートブックは違うけれど、タグは共通で、更新日では隣り合っている。」など、Evernoteのノート群の間には、無限の関係性が張り巡らされています。
また、Evernoteによるノート群は、1次元です。つまり、Evernoteのノート一覧表示は、1列に並んでいて、空間配置することができません。カードビューは、一見、2次元に並んでいるように見えますが、1列が折り返しになっているだけです。
それから、Evernoteのノート群は、手動を受け付けません。つまり、どのノートを拾い出すかの抽出と、拾いだしたノートをどのように並べるかの並べ替えを、手動ですることができないのです。
ノートの抽出は、ノートブックやタグを選んだり、検索条件を設定したりした瞬間に、自動的に完了します。ノートの並べ替えは、並べ替えの基準を設定した瞬間に、自動的に完了します。手動で拾い出したり、手動で並べ替えたりすることは、できません。
もちろん、それぞれのノートのタイトルやタグを工夫すれば、思い通りに抽出と並べ替えをすることができます。しかし、これは、ノートを手動で拾い出したり並べ替えたりすることとは、ちょっとちがいます。
(e) 全部でひとつ
Evernoteに保存したデータは、全部でひとつです。イメージとしては、ひとつのEvernoteアカウントの中に保存したすべてのデータがひとつの実体を持っています。
具体的には、次の3つの機能です。
まず、検索です。Evernoteの検索は、ひとつのEvernoteアカウント全体を対象とすることができます。
次に、関連するノートやGoogle検索時の関連情報提示機能です。Evernoteであるノートを開いていると、おなじアカウント内に存在する別のノートが提示されます。また、Evernoteウェブクリッパーを入れているブラウザでGoogle検索をすると、Google検索画面にEvernoteの関連するノートが表示されます。
最後に、ノートリンク機能です。ひとつのアカウント内に存在する複数のノート間に、好きなようにリンクを張り巡らすことができます。
(f) Evernoteの生態系
Evernoteは、豊かな生態系を持っています。
まず、膨大な数のユーザーがEvernoteを使っています。Evernoteに関する情報を発信する人も多く、ウェブ上には毎日たくさんのEvernote情報が生まれています。
次に、Evernoteと連携するアプリやクラウドサービスも豊富です。EvernoteはAPIを公開しているため、ひとつの機能に特化したアプリも多いですし、iftttのような自動化サービスとも連携しています。
それから、Evernoteには日本法人があります。Evernoteの日本法人は、サポート、セミナー、公式ブログでの情報発信、アンバサダー制度の運営など、日本におけるEvernote生態系の育成に、日々邁進しています。
b.WorkFlowyとは?
(a) WorkFlowyは、理想的なクラウドアウトライナー
WorkFlowyは、クラウドのアウトライナーです。
アウトライナーなので、テキストを入れたトピックを階層化することができます。また、トピックを移動したり、階層構造に応じてトピックを折りたたんだり、特定のトピックを最上位階層のように表示したり、といった操作が可能です。
それから、WorkFlowyはクラウドサービスです。WorkFlowyを使うには、WorkFlowyのウェブサイトにアクセスし、メールアドレスとパスワードを登録してアカウントを作成します。端末を問わず、ウェブブラウザやアプリによって、ひとつの共通したデータを扱うことができます。
(b) WorkFlowyのキャッチフレーズ
WorkFlowyは、「Organize your brain.」というフレーズを掲げています。脳の構造化です。頭のなかに浮かんだ思考の断片をトピックに入れて組み立てることを支援するのが、WorkFlowyの役割です。
また、WorkFlowyは、画面の一番下に、「Make Lists. Not War.」とうたっています。「Make Love. Not War.」のもじりだと思われますが、ここにWorkFlowyの思想を読み取ることもできます。
R-style » WorkFlowy企画:第五回:Make Lists, Not War.
(c) テキストをトピックに格納し、トピックを階層構造で管理する
WorkFlowyは、テキストを管理するシステムです。WorkFlowyがテキストを管理する枠組みは、「テキストをトピックに格納し、トピックを階層構造で管理する」という2段階になっています。
まず、WorkFlowyは、テキストをトピックに格納します。WorkFlowyに何らかのテキストを保存するためには、基本的に、そのテキストをトピックに格納する必要があります。トピックが、WorkFlowyに用意された唯一の入れ物です。(noteはちょっと脇においておきます。)
トピックに格納できるのは、改行のない1段落のテキストです。ひとつのトピックの中のテキストを改行によって2段落に分けることはできません。トピックは、中に格納するテキスト以外に、更新日やURLなどのメタ情報を持っています。
つぎに、WorkFlowyは、このようにしてテキストを格納したトピックを、階層構造で管理します。階層によってたくさんのトピック間に上下関係や並列関係を明示するのが、WorkFlowyのトピック管理方法です。このWorkFlowyの階層構造は、ひとつの原点から枝分かれするツリー構造になっています。
(d) トピック群の構造
WorkFlowyのトピック群は、階層構造をしています。この階層構造の基本はトピックの親子関係ですが、あらゆるトピックの直近の親はただひとつです。あるトピックの親が、Aであり同時にBである、ということは、ありません。すべてのトピックは、自分が属する親トピックを、ひとつに絞る必要があります。
WorkFlowyのトピック群は、1.5次元です。WorkFlowyのトピックは、順序と深さという2つの軸を持っていますが、順序の次元は同時に1つのトピックしか存在できないという意味で、時間軸のような0.5次元です。ですから、WorkFlowyの階層構造は、平面のような2次元ではなく、時間軸にそって階層の深さを色々に変えていく、1.5次元です。
それから、WorkFlowyの階層構造を、自動的に整えることはできません。WorkFlowyの秩序は、すべて自分の手で組み立てる必要があります。トピックはそれぞれ更新日などのメタ情報を持っているのですが、これらのメタ情報によってトピックを自動的に並び替える機能を、WorkFlowyは持っていません。
そのかわり、WorkFlowyの階層構造は、自分の手で、自由自在に組み替えることができます。階層を飛ばすことができない、空白行を作ることができない、など、厳密なツリー構造の制約はありますが、この制約の枠内で、柔軟に、自分の意図を持って、トピックの階層構造を組み立てることができます。
(e) 全部でひとつ
WorkFlowyでは、ひとつのアカウントに与えられるリストの数は、ただひとつです。WorkFlowyの中に保存する情報は、そのすべてがひとつの階層付きリストを構成します。
一見、不便です。しかし、WorkFlowyには、特定のトピックを最上位階層のように表示するというZoom機能があります。そのため、適当なトピックにZoomしさえすれば、目に入るのはそのトピックの子や孫だけです。すべてがひとつのリストになっていたとしても、必要な情報だけを表示することが簡単なので、全然困りません。
それどころか、すべてがひとつのリストにまとまっていることは、メリットもあります。たとえば、ある場所に作ったトピックを別の場所に移動するのが簡単なこと、リストの全部(や任意の一部の全体)を検索できること、などです。
(f) WrokFlowyの生態系
WorkFlowyは、2015年現在、マイナーなサービスです。Evernoteとは比較になりません。
それでも、少しずつ広がっています。このことは、ウェブ上に公開されるWorkFlowyの情報が確実に増えていることからもわかります。
さらに、熱狂的なユーザーが多いことも、WorkFlowyの特徴です。WorkFlowyというツールは、ある種の人にしっくりくる感覚を与えるようで、ハマる人はとことんハマります。
WorkFlowyは、2015年現在、APIを公開していません。そのこともあって、WorkFlowyと連携するアプリやクラウドサービスは、現時点では、あまり多くありません。事実上、公式アプリだけといってよいかと思います。
WorkFlowyに、日本法人はありません。また、英語の公式ブログがありますが、公式ブログによる情報発信もそれほど豊富ではありません。
WorkFlowyの生態系は、今少しずつ育っているところです。
(3) EvernoteとWorkFlowyの共通点と相違点
EvernoteとWorkFlowyは、知的生産に関心を持つ個人が手軽に使えるクラウドサービスである点で、大きな共通点を持っています。でも、両者には、大きなちがいもたくさんあります。
そこで、「(2) EvernoteとWorkFlowy」で書いたことを組みかえて、別の視点からEvernoteとWorkFlowyを比較検討してみます。
a.どんな知的生産ツールなのか? データベースとリスト
EvernoteとWorkFlowyは、いずれも、個人が使える知的生産ツールです。では、知的生産ツールとして、どんな特徴を持っているのでしょうか。
Evernoteは、データベースです。データベースの特徴は、抽出と並べ替えにあります。Evernoteは、データを保存したノートを、ノートブック、タグ、更新日など、ノートが持つメタ情報を基準にして、自由に、抽出したり並べ替えたりできます。だから、Evernoteは、個人の知的生産を支えるデータベースツールです。
これに対して、WorkFlowyは、データベースではありません。WorkFlowyの基本単位であるトピックは、メタ情報を持っていますが、このメタ情報によってトピックを自動的に抽出したり並べ替えたりすることはできないためです。
WorkFlowyは、リストです。データを格納した入れ物を一列に並べると、リストができます。WorkFlowyは、テキストデータを格納したトピックを一列に並ています。だから、WorkFlowyは、個人の知的生産を支えるリストツールです。
b.思想・キャッチフレーズの比較
Evernoteのキャッチフレーズは、以前は「すべてを記憶する」で、今は「自分のすべての作業を行うワークスペース」になりました。
WorkFlowyのキャッチフレーズは、「Organize your brain.」や「Make Lists. Not War.」などです。
共通するのは、ひとつの場所にすべてを集める、ということです。EvernoteもWorkFlowyも、そこに何かを放り込んでおきさえすれば、あとからその場所に行くことで、その何かと出会うことができます。EvernoteとWorkFlowyは、ポケット一つ原則にぴったりのツールです。
また、今のEvernoteのキャッチフレーズを前提にすれば、EvernoteとWorkFlowyは、データを保管するための場所ではなくデータを活用するための作業場所と捉える点で、共通しています。
c.情報を管理する基本枠組み
EvernoteとWorkFlowyの役割は、いずれも、情報の管理です。この情報の管理という役割を果たすために、EvernoteとWorkFlowyが採用する基本枠組みには、似ているところもあれば、ちがうところもあります。
(a) 似ているところ
EvernoteとWorkFlowyが似ているところは、情報を管理するために2段階の枠組みを採っているところです。
Evernoteは、
- データをノートに保存する
- ノートをノートブック、タグ、メタ情報などで管理する
という2段階です。
WorkFlowyは、
テキストデータをトピックに格納する
トピックを階層構造で管理する
という2段階です。
Evernoteの基本単位はノートで、WorkFlowyの基本単位はトピックです。いずれもデータを保存するための基本単位を持っている点で、共通します。
(b) ちがうところ
他方で、EvernoteのノートとWorkFlowyのトピックには、大きなちがいもあります。
まず、わかりやすいところでは、保存できるデータの種類がちがいます。Evernoteのノートには、およそあらゆる種類のデータを保存することができます。これに対して、WorkFlowyのトピックに格納できるのは、1段落のテキストだけです。
つぎに、ここから、Evernoteのノートは、そのひとつひとつがまとまった意味を持つことが多いけれど、WorkFlowyのトピックは、そのひとつひとつだけでは意味の断片に過ぎず、たくさんのトピックが集合体にまとまることによって、一定の意味を持つ、というちがいが生まれます。あくまで傾向としてですが、Evernoteでは、ひとつの文書を作るためにひとつのノートが使われることが多いのに対して、WorkFlowyでは、ひとつの文書を作るためにひとつのトピックしか使われない、ということは、ほとんどありえません(noteを使えばできなくもないけれど、WorkFlowyのメリットが消えてしまいます)。WorkFlowyでは、ひとつの文書に対応するのは、トピックの集合体です。
このことは、Evernoteにおけるノートという単位の位置づけと、WorkFlowyにおけるトピックという単位の位置づけとが、かなり異なっていることを意味します。
Evernoteのノートは、Evernoteの中に存在する情報を区切る単位です。ノートによって区切られた情報は、簡単には、ノートの外に出ていきません。そして、このようにノートによって情報を区切ったうえで、ノート群をノートブックやタグで管理することが、Evernoteが情報を管理する仕組みです。Evernoteの中に存在する情報は、ノート内の段落、ノート、ノートブック、ノートブックスタックなど、いろいろな基準で区切られているのですが、その中で、ノートによる区切りは、他の区切りとは一線を画する、特別な区切りです。
これに対して、WorkFlowyのトピックは、WorkFlowyの中に保存するあらゆるテキストを格納する容器です。WorkFlowyの中に存在するすべての情報は、すべてがトピックに入っています。そして、ここが大切なのですが、トピックの管理は、階層構造一本です。トピックを格納するための別の単位があるわけではなく、トピックという単位を階層構造で組み立てることだけによって、WorkFlowyは、そ内に保存するすべての情報を管理します。このように、WorkFlowyにとって、トピックという基本単位は、すべての基本となる唯一の単位である、という意味で、特別です。
るうマニアSIDE-B – 杭を打てば垣根ができる[アウトライナー][思考のOS]
全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい)
d.ノート群の構造、トピック群の構造
EvernoteのノートとWorkFlowyのトピックを比較したところで、つぎは、Evernoteのノート群の構造と、WorkFlowyのトピック群の構造を、比較してみましょう。
Evernoteのノート群は、網目構造です。すべてのノートがたくさんのメタ情報を持っていて、なんらかのメタ情報を基準にして、ノートを自動抽出したり自動並べ替えしたりできます。基準が縦横になっても大丈夫です。串刺しで抽出と並べ替えをすることができます。
WorkFlowyのトピック群は、階層構造です。階層構造を構成する個々の親子関係は、常に1:他になっています。どのトピックも、同時に複数の親を持つことはできません。階層構造を作るには、基準を一階層ごとにひとつだけに絞る必要があります。
網目構造と階層構造を比較すると、網目構造の方が複雑な情報をそのまま扱えるような気もします。しかし、WorkFlowyの階層構造の特徴は、変化することです。意味の変化におうじて、柔軟に階層構造を組み替えることができます。固定された階層構造では、網目構造が表現するような複雑な意味を形作ることはできません。でも、柔軟に変化する流動的な階層構造なら、場面ごとに階層構造を組み替えることによって、網目のような構造を表現することも可能です。
e.全部でひとつ
EvernoteとWorkFlowyは、いずれも、ひとつのアカウントの中に保存したデータのすべてを、ひとつの実体のように扱います。ここには、データをひとつの場所に集め、そのひとつの場所に集まったデータをあたかも有機体のように把握し、その全体を操作する、という思想があります。
R-style » 情報の構造、一本のメインストリーム、Evernote,Scrivener,WorkFlowy
全部でひとつという思想自体は、EvernoteとWorkFlowyの共通点です。しかし、この思想をより徹底しているのは、圧倒的に、WorkFlowyです。なにせ、WorkFlowyでは、ただひとつのリストしか使えません。すべてのデータを全部ひとつのリストに集めても問題ないし、むしろその方が望ましい、というのが、WorkFlowyの思想です。
f.生態系の比較
EvernoteにもWorkFlowyにも、ツールを支える生態系が生まれています。
しかし、Evernoteの生態系とWorkFlowyの生態系の大きさは全然ちがい、Evernoteのほうがずっと大きいです。
この差は、ひとつには、ツールが誕生してからの時間の長短によります。Evernoteのサービス開始は2008年6月で、WorkFlowyのサービス開始は2010年11月ころなので、サービス開始から2015年現在までの期間は、Evernoteが7年ちょっと、WorkFlowyが5年弱です。
しかし、時間の長短だけでは、EvernoteとWorkFlowyの差は説明がつきません。EvernoteとWorkFlowyの生態系の大きさが大きく異なることには、次のような要素が関係している気がします。
(a) わかりやすいEvernoteとわかりにくいWorkFlowy
大きな要素は、EvernoteとWorkFlowyのわかりやすさのちがいではないかと思います。
Evernoteは、わりとわかりやすいツールです。自由度が高いので、自分なりにしっくりくる用途を見つけるまでに戸惑うことはあるかと思いますが、少なくとも、Evernoteを使えばどんなことができるかは、むずかしくありません。何でも保存できる万能メモツール、です。
これに対して、WorkFlowyは、かなりわかりにくいツールです。このわかりにくさは、WorkFlowyというよりもむしろアウトライナーのわかりにくさなのですが、アウトライナーの使用経験がない人が、アウトライナーやWorkFlowyとは一体どんなツールなのかをイメージするのは、わりと困難です。
(b) PDFや写真や動画なども扱えるEvernoteと、テキストデータだけを扱うWorkFlowy
また、EvernoteとWorkFlowyの機能のちがい、特に、扱えるデータの種類のちがいも大きいように感じます。
Evernoteは、PDFや写真や動画を扱うことができます。知的生産の場面でも、PDFや画像のデータをそのまま保存しておけるEvernoteは便利です。また、写真や動画を保存できることによって、Evernoteは子育て日記や料理日記など、知的生産以外の場面で活躍します。実際、今の私が一番たくさんEvernoteを使っているのは、子育て日記の場面です。
これに対して、WorkFlowyが扱えるのは、テキストデータだけです。言葉しか扱えません。人によっては、言葉だけしか扱えないことに、大きな不満を感じるかもしれません。
(c) AIP公開の有無
EvernoteとWorkFlowyの大きな差は、連携するアプリやクラウドサービスの量です。
Evernoteには、公式アプリ以外に、とてもたくさんの連携アプリがあります。テキスト投稿に特化したアプリ、特定のノートブックに属するノートを検索することに特化したアプリなど、ある特定の課題を解消するために役立つアプリの豊富なラインナップが揃っています。
また、Evernoteは、他のクラウドサービスと連携する機能も持っています。タスク管理サービスであるTodoistは公式のEvernoteとの連携をサポートしていますし、IFTTTなどの自動化ツールによってGmailやTwitterとEvernoteを自動的に連携することもできます。
これらが可能なのは、EvernoteがAPIを公開しているためです。
これに対して、WorkFlowyには、公式アプリ以外のアプリが、ほとんどありません。また、WorkFlowyと連携するクラウドサービスを私は知りません。
おそらく、WorkFlowyがAPIを公開していないためだと思われます。
(d) 情報の差
情報量の差も大きいように思います。特に、日本語情報において、この差が顕著です。
Evernoteに関する情報は、膨大です。日本語の書籍だけで何十冊も出版されていますし、ブログやウェブマガジンの記事もたくさんあります。
Evernoteについて、これほどまでにたくさんの情報が公開されているのは、Evernoteが、何か書いてみたくなる魅力を持ったツールだからかもしれません。豊富な機能を持ちながら、使用目的や使用方法を限定しないツールなので、自分なりの使い方を探求したくなります。
これに対して、WorkFlowyに関する情報は、限られています。2015年9月現在はずいぶんと情報が増えてきましたが、私がWorkFlowyを使い始めた2015年1月段階では、本当に限られた情報しか公開されていませんでしたし、WorkFlowyを扱った書籍もありませんでした。
(e) 日本語でのサポート
これも日本の事情ですが、Evernoteは、日本法人を持っていて、日本人のスタッフが公式ブログで積極的に情報を発信しています。
これに対して、WorkFlowy開発陣は、現時点では、日本語圏の関係をまったく持っていないようです。Twitterを検索するかぎり、WorkFlowyに関する日本語情報は、世界的にも遜色ありませんので、WorkFlowy開発陣が日本のWorkFlowyコミュニティにアクセスしてくれると、WorkFlowyの日本における生態系は、一段と成長する気がします。
4.Evernote・WorkFlowy/カード・こざね
最後に、「Evernote・WorkFlowy/カード・こざね」についてのいくつかの見方を、簡単に紹介します。
(1) 「カード=Evernote、こざね=WorkFlowy」という見方
まず、カードがEvernoteに、こざねがWorkFlowyに対応する、という見方があります。
a.倉下忠憲さん
R-style » 「梅棹忠夫の七つ道具ワークショップ」に参加してきました
EvernoteからOmniOutlinerに移動させることは、ぴったり京大式カードからこざねに移し替えることに適合しています。
引用元:R-style » 「梅棹忠夫の七つ道具ワークショップ」に参加してきました
R-style » 「こざね法」に適したアウトライナーの提唱
b.るうさん
@irodraw こざねは特にね!(展覧会で実物の模型見たときは感動した) こざね→WF カード→ENって感じ (初読のうさぼうさんの感想もきになる。。)
— るう@栗きんとん (@ruu_embo) 2015, 9月 21
c.Tak.さん
@ruu_embo @irodraw こざねです(るうさんと同じですね)。正確にいうとプロセス型はこざねに近く、プロダクト型はカードに近いと思うけど、もちろん決まりはないし互いに両方の要素を持っている(ただ直感的にどっちを連想するかにはけっこう思考のクセが現れると思う)
— Tak. (@takwordpiece) 2015, 9月 21
(2) 「カード&こざね=WorkFlowy」という見方
これに対して、カードとこざねの両方がWorkFlowyなんだ、という見方もあります。『知的生産の技術』のカード・システムの全体をWorkFlowyで実現するわけです。今の私は、この見方です。
『知的生産の技術』の「こざね」と「京大型カード」で考えると、WorkFlowyは、両者を兼ね備えた存在のような気がする。 機動性はこざねなんだけど、私にとってWorkFlowyは、ひとつの場所に蓄積され続けることに意義がある。継続的な蓄積は、むしろカード。(こざねは使い捨て。)
— 彩郎 (@irodraw) 2015, 9月 24
(3) WorkFlowyをカードととらえるか、こざねととらえるかで、WorkFlowyに対する見方がわかる、という説
なお、WorkFlowyと『知的生産の技術』に関しては、カードとこざねのどちらにWorkFlowyとの共通点を感じるかによって、WorkFlowyに対する意識がわかる、という説もあります。
@ruu_embo @irodraw 京大カードをアウトライナーと感じるかこざねをそう感じるかでアウトライナーに対する意識がわかるw
— Tak. (@takwordpiece) 2015, 9月 21
@ruu_embo @irodraw こざねです(るうさんと同じですね)。正確にいうとプロセス型はこざねに近く、プロダクト型はカードに近いと思うけど、もちろん決まりはないし互いに両方の要素を持っている(ただ直感的にどっちを連想するかにはけっこう思考のクセが現れると思う)
— Tak. (@takwordpiece) 2015, 9月 21
この説で行くと、私は、アウトライナーをプロダクト型として把握する傾向があるのかもしれません。
5.おわりに
この記事では、『知的生産の技術』とWorkFlowyとの関係を検討するための準備として、次の2つの軸についての情報を整理しました。
- 『知的生産の技術』を支える2つの道具
- カード
- こざね
- 2015年の個人が利用できる2つのクラウド知的生産ツール
- Evernote
- WorkFlowy
今後は、ここで整理した情報を踏まえて、私自身の毎日の中で現に動いている知的生産システムを具体的に検討できたらいいなと思います。
【参考】Evernoteとアウトライナーを比較する記事のリスト
参考情報として、Evernoteとアウトライナーを比較する記事のリストを掲載します。
以前、「アイデア広場」というウェブサイトに掲載されていたリストをベースにしたものです。
a.すべてはここから始まった? 2013年3月
R-style » アウトライナー嫌いだった僕が、今ではそれを愛用しているワケ(上)
R-style » アウトライナー嫌いだった僕が、今ではそれを愛用しているワケ(下)
b.フリーク論を起点として生まれた記事たち 2013年8月〜
るうマニアSIDE-B – ワープロ・カードビュー・アウトライナーのもつ次元性
目に見えるカタチは時としてその内実を表す、ということーEvernoteとアウトライナー – LawDesiGn
アウトライナーとEvernote、記憶と思考、体系と破壊:Word Piece >>by Tak.:So-netブログ
c.Evernoteとアウトライナー 2014年2月
R-style » Evernoteから思いつきのメモをOmniOutlinerに移すことについて
「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか?」の「はじめに」
項目番号はアウトライナーになる(項目番号によって文章の構造を組み立てる)
d.Evernoteとアウトライナーの融合についての一連のやり取り(2014年11月)
るうマニアSIDE-B – Evernotとアウトライナーの融合に対する試案(2014)[思考のOS]
なぜ、文章書きとしての私は、アウトライナーよりもEvernoteを贔屓しているのか?
「声だけイケメンで辛い」他 日報No.671 20141105(水)版
るうマニアSIDE-B – 杭を打てば垣根ができる[アウトライナー][思考のOS]
全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい)
e.プロセス型アウトライナーの基本
Core functions enduing outliners to be dynamic media. | gofujita notes
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