なぜ、抜き書き読書ノートを作るのか?
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本
目次
1.はじめに
昨日、抜き書き読書ノートのことを紹介しました。
そこでも簡単に触れたのですが、私が手間暇を費やし、わざわざ抜き書き読書ノートなるものを作り続けている目的は、次の3つです。
- その本に対する理解を深めるため
- その本を起点として、考え、行動するため
- その本を「大きな引き出し」に「しまう」ため
いずれもいくぶん抽象的なこの3つを、以下、丁寧に説明します。
2.抜き書き読書ノートを作る目的
(1) その本に対する理解を深めるため
a.その本をそのまま理解する
抜き書き読書ノートを作る目的のひとつめは、「その本に対する理解を深めるため」です。
どのような本であれ、読書の最初の一歩はその本をそのまま理解することだと、私は考えています。批判的に読むのでもなく、その本の外にある知の体系の中に位置づけるのでもなく、そのまま理解することが第一歩です。
これは、実用書や学術書にだけ妥当することではありません。小説やエッセイ、対談やドキュメンタリーも同じです。その本に書かれている内容をそのまま理解しなければ、その本から何かを得ることはできません。批判や反論ができないのはもちろん、賛同や応援もできません。
結論に同意できる本もできない本も、面白いと感じる本も面白くないと感じる本も、自分にとって役に立つ本も自分には役に立たない本も、まずはその本をそのまま理解しなければ、その本に対する自分の姿勢を定めることすらできないはずです。
では、その本をそのまま理解するには、どうしたらよいでしょうか。丁寧に読む、何度もくり返し読む、辞書や事典を参照しながら読む、書き込みながら読むなど、いろんな読書技法があるかと思いますが、抜き書き読書ノートを作ることは、その本を理解するための効果的な手段です。
b.抜き書き読書ノートで、その本をそのまま理解する
では、なぜ、抜き書き読書ノートを作ることが、その本をそのまま理解することにつながるのでしょうか。
私が読書ノートを作る手順は、次の3つのプロセスから成り立ちます。
- 印をつけながら、本を読む
- 本の中の大事な箇所や面白い箇所を、読書ノートに抜き書きする
- 抜き書き読書ノートを、書き込みながら読む
この3つのプロセスを簡単にふり返りながら、この問いを考えます。
(a) 印をつけながら、本を読む
抜き書き読書ノートを作る最初のプロセスは、「印をつけながら、本を読む」でした。抜き書きすべき価値ある箇所を、その本全体の中から発掘し、印をつけます。
このプロセスで心がけることは、印をつけた箇所を読むだけで、その本の趣旨の8割程度を把握できる、という条件を満たすように印をつけることです。三色ボールペン方式のいう客観系統に当たります。
この条件を満たすように印をつけるのは、高度な知的作業であり、難しいです。もちろん、いつもうまくいくわけではありません。でも、客観系統の箇所を漏れなく発掘しよう、という意識で本を通読することは、本をそのまま理解するための、とても大切な読み方です。この心がけで本を読むこと自体が、本をそのまま理解することを促します。
(b) 本の中の大事な箇所や面白い箇所を、読書ノートに抜き書きする
抜き書き読書ノートを作る次のプロセスは、「本の中の大事な箇所や面白い箇所を、読書ノートに抜き書きする」でした。
抜き書き読書ノート→本の中の大事な箇所や面白い箇所を、読書ノートに抜き書きする
このプロセスを実行すると、自然と本そのものやハイライト箇所を読み返します。また、紙の本であれば必然的に、Kindle本であれば自分でやろうとしたときに、本の中の重要な部分を手で書き写すことになります。
読み返すことも、書き写すことも、本の中の重要な箇所を注意深く丁寧に読むことにつながりますので、本をそのまま理解することを促します。
(c) 抜き書き読書ノートを、書き込みながら読む
抜き書き読書ノートを作る最後のプロセスは、「抜き書き読書ノートを、書き込みながら読む」でした。本の中から抜き書きした箇所を、一冊の本のように読み返し、そのとき考えたことや関連することなどを、なんでもかんでも書き込みます。
抜き書き読書ノート→抜き書き読書ノートを、書き込みながら読む
このプロセスを実行すると、その本を起点に、いろんなことを考えたり、いろんな行動を実行したりすることができます。また、実際に考えたり行動したりすれば、その分、現実からのフィードバックを受けます。さらに、抜き書きをした箇所(客観的に重要な箇所や主観的に面白い箇所)を何度も読み返すことになります。
このような、考え、行動し、フィードバックを受け、読み返すことが、本に対するそのままの理解を促します。
(2) その本を起点として、考え、行動するため
a.その本による変化
私が本を読む動機のひとつは、「その本を読むことで、変化を自分に引き起こすため」です。その本によって変わることを求めて、本を読みます。
本を読むことそれ自体がうれしくて楽しい、という読書も、もちろんあります。そんな読書なら、読み終わった後、自分が何も変わらなくても、読書の価値は減らないはずです。でも、たとえそんな読書だとしても、その本を読んだことで自分の何かが少しでも変わったなら、そのほうがもっとすばらしいことだと、私は感じます。
本を読むことで生じる変化というと、「この本で人生が変わった!」とか、「この本のおかげで新しい能力を身につけた!」など、大きくて根本的な変化をイメージしがちです。実際、世の中には強い力を持った本が存在していて、一冊の本が、新しい視点や能力を与えてくれたり、人生の新しい局面を切り開いてくれたり、といったことも、しばしば起こります。
しかし、ここで私がイメージする変化は、もっと小さくて日常的なものです。具体的には、その本を読まなければ考えなかったであろうことを考えること(その本を起点として、考える)と、その本を読まなければ実行しなかったであろう行動をすること(その本を起点として、行動する)を想定しています。
b.その本を起点として、考える
私が求めるひとつめの変化は、「その本を起点として、考える」です。
私は、考えることを大切にしています。興味あるテーマについて自分なりの考えを進めることができたら、それは人生のよろこびです。
でも、なにもないまっさらなところに、自分の頭だけで考えを積み重ねるのは、難しいことです。自分だけで「これは!」と思うような考えを進めることは、なかなかできません。考えるためには、なんらかの足場が欲しいところです。
本を読むことは、考えるための足場を与えてくれます。読んだ本について落ち着いて考える機会を設ければ、本を足場に、考えを深いところまで掘り下げることができます。
抜き書き読書ノートを作ることは、本という足場を、もっと強固にしてくれます。
さきほども書いたとおり、私が抜き書き読書ノートを作るプロセスは、次の3段階です。
- 印をつけながら、本を読む
- 本の中の大事な箇所や面白い箇所を、読書ノートに抜き書きする
- 抜き書き読書ノートを、書き込みながら読む
まず、「印をつけながら、本を読む」については、線を引いたり、書き込んだりしながら本を読めば、本そのものが、思考する場になります。
次に、本の中の大事な箇所や面白い箇所の抜き書きは、考えを進めるための材料となる言葉をたくさん与えてくれます。
そして、抜き書き読書ノートを、書き込みながら読み返すことは、まさに本を足場に考えることそのものです。
このように、抜き書き読書ノートは、その本を思考の足場にしてくれます。その本を読まなければ考えなかったであろうことを考えることができる、つまり、本を起点として考えることができるのです。
c.その本を起点として、行動する
私が求めるふたつめの変化は、「その本を起点として、行動する」ことです。
抜き書き読書ノートは、その本を読まなければしていなかったであろう行動を実行することを助けてくれます。次の2つの理由からです。
(なお、抜き書き読書ノートを作ることそれ自体が、その本を読まなければしていなかったであろう行動を実行することにほかなりません。が、この点は置いておきます。)
(a) 自家薬籠中のものになる
ひとつは、抜き書き読書ノートを作ると、その本が、自家薬籠中のものになるからです。
「自家薬籠中」とは、自分の薬箱の中です。自分の薬箱の中にある薬は、自分の思うように使うことができます。これと同じように、何かを自分の思うように使えるものにすることを、自家薬籠中のものとする、というそうです。
抜き書き読書ノートを作って一冊の本を読むと、たんにその本を深く理解できるだけでなく、その本から、応用可能な素材をたくさん受け取ることができます。
一般に、一冊の本の中には、ものの見方やフレーズ、テクニックや行動指針など、たくさんの有益な記述が含まれています。抜き書き読書ノートを作り、自分の思考や感情にくぐらせることで、それら有益な記述を、自分の人生のいろんな場面で思うように使える素材として、吸収できます。
たとえば、『終末のフール』に出てくる苗場さんは、「明日死ぬとしたら、生き方が変わるんですか?」「あなたの今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なんですか?」というめちゃくちゃかっこいい一言を述べています。これは、一読でしびれるくらいかっこいい記述なのですが、抜き書き読書ノートにこの前後の箇所を書き写して、実際に「明日死ぬとしたら、生き方が変わるのか?」「私の今の生き方は、どれくらい生きるつもりの生き方なのか?」という問いに対する答えを書いてみれば、このセリフは、たんに超かっこいいセリフというのではなく、生きる軸にも関わってくる言葉として、自分の中に入ってきます。
伊坂幸太郎『終末のフール』の中の、私が好きな言葉たち【一部ネタバレあり】
抜き書き読書ノートを作れば、一冊の本から、いくつもの大切な言葉や視点を、自家薬籠中のものとして受け取ることができます。これらの素材が、新しい行動を促してくれます。
(b) 具体的なタスクを洗い出す
もうひとつは、抜き書き読書ノートを作る中で、具体的なタスクを洗い出すことができるためです。
本を読むと、何らかの行動をしたくなります。『ノルウェイの森』を読むとビートルズが聞きたくなったり、『獣の奏者』を読むとはちみつが食べたくなったり、『風が強く吹いている』を読むと走りたくなったりします。向上心とか意欲とかは関係ありません。自然な心の動きとして、こうなります。
とはいえ、このように浮かび上がった「●●をしたい」という感情は、長続きしません。本を読み終えて少し経てば消え去りますし、それどころかその本のその箇所を過ぎると小さくなっていきます。これも、自然な心の動きです。本を読むのは、新しいタスクを見つけるためではありません。本の中のある箇所を読んでいて、何らかの行動をしたいという感情が浮かんできたとき、その都度その場でタスク管理システムにタスクを追加していては、読書体験は台無しです。
しかし、本を読みながら浮かんできた「●●をしたい」という感情は、しばしば大切なことを含んでいます。ひょっとしたら、自分の生き方を揺さぶる何かが潜んでいるかもしれません。せっかく浮かんだこの感情を軽視するのは、もったいない話です。
そこで、一度本を読み終えた後、抜き書き読書ノートを作るときに、「●●をしたい」という感情を受け止めるために、その本を読み返します。抜き書き読書ノートを作るついでに、普通の読書とはモードを変えて再読するわけです。
このときに「●●をしたい」という感情を見つけたら、抜き書き読書ノートの該当箇所にその感情をメモします。そして、できれば、その場で、具体的なタスクの形にしてしまいます。
これをすれば、抜き書き読書ノートを作り終えたタイミングで、新しいタスクの5個や10個を洗い出せているはずです。この全部を実際にやる必要はありませんが、その中の1個でも実行に移せたなら、そのタスクは「その本を起点とした行動」です。
d.抜き書き読書ノートで、その本を起点として、考え、行動する
まとめます。
まず、抜き書き読書ノートを作る過程それ自体が、考えることです。抜き書き読書ノートは、強固な考える足場を与えてくれます。
次に、抜き書き読書ノートは、その本を、自家薬籠中のものにしてくれます。その本のいろんな箇所が自分の思考や感情をくぐり抜けることで、以後、自分の人生のいろんな場面で、その本から得た素材を応用できます。これによって、新しい行動の可能性が開かれます。
最後に、本を読みながら浮かんだ「●●をしたい」という感情を受け止めることができます。その中のいくつかを新しいタスクとして実行すれば、それは「その本を起点とした行動」です。
(3) その本を「大きな引き出し」に「しまう」ため
a.「大きな引き出し」に「しまう」
『大きな引き出し』という短編小説があります。『光の帝国』という恩田陸さんの短編集におさめられた物語です。
『光の帝国』は、不思議な力を持つ「常野」という一族の物語です。『大きな引き出し』の主人公である春田家の人々は、膨大な物語を「しまう」ことのできる「大きな引き出し」を自分の中に持っています。
●
ところで、この「大きな引き出し」は、私の人生観の土台を支えている物語のひとつです。
人生の中でくぐり抜けるいろんな体験や出会いのすべてを、物語として「しまう」ことのできる「大きな引き出し」が、自分の中にある。「大きな引き出し」の中に「しまわれた」たくさんの物語の総体が自分の人生である。どんな体験をしても、どんな人と出会っても、その体験や出会いが自分の中に「しまわれていく」ことによって、その分、自分の「大きな引き出し」が豊かになり、深みを帯びる。
これは、完全にフィクションの物語です。でも、この物語が人生観の土台を支えるようになってから、私は、人生や世界を、まるっと肯定できるようになった気がします。まあ、青臭くて感傷的ではありますが。
●
話を戻します。
「大きな引き出し」にどんな物語を「しまう」のかは、その人がどんな生き方をしているかによって、人それぞれです。では自分にとっては何だろうかと考えてみると、現実の体験や出会いは当然ですが、それと同時に、読んだ本が重要な気がします。
私にとって、一冊の本を読むことは、その一冊の本を自分の「大きな引き出し」に「しまう」ことです。小説や漫画はもとより、ドキュメンタリーや対談やエッセイも、実用書や学術書も、そのひとつひとつを物語として「しまう」ことで、自分の「大きな引き出し」を多彩にしていけたらいいと願っています。
b.読書体験を抜き書き読書ノートに「しまう」
『大きな引き出し』の春田家の人々は、自分の記憶の中に自前の「大きな引き出し」を持っています。驚異的な記憶力のなせる技です。
しかし、私には、そんな特殊能力はありません。記憶に頼れないなら、人類最大の発明である記録に頼るしかありません。そこで、私は、記録のためのツールを、自分にとっての「大きな引き出し」にすることにしました。
この抜き書き読書ノートは、読んだ本を「しまう」ための「大きな引き出し」です。
抜き書き読書ノートには、その本を読んだという事実や、その本の抜き書きやポイントだけでなく、その本を起点に考えたことや行動したことが、全部記録されています。これは、抜き書き読書ノートという「大きな引き出し」に、読書体験全体を「しまう」ことだと言えます。
このように、抜き書き読書ノートを作る目的のひとつは、「大きな引き出し」に読書体験の全体を「しまう」ことです。
3.おわりに
以上のとおり、私が抜き書き読書ノートを作る目的は、次の3つです。
- その本に対する理解を深めるため
- その本を起点として、考え、行動するため
- その本を「大きな引き出し」に「しまう」ため
この記事では、これら3つの目的を、抽象的に説明しました。他方で、私自身は、これら3つの目的を実現するための抜き書き読書ノートを、現実に日々、作り続けています。
そこで、次は、抜き書き読書ノートについてのもう少し具体的なことを書いてみます。
昨日の記事にも書いたのですが、私が抜き書き読書ノートを作るために使っているツールは、WorkFlowyです。WorkFlowyで読書ノートを作ることを始めたのは半年ほど前で、この半年の間に、いくつかの試行錯誤をくり返し、その一部をブログ記事として公開してきました。
- 紙の本の読書ノート
- Kindle本の読書ノート
これらの試行錯誤を踏まえて、WorkFlowyで抜き書き読書ノートを作ることについて、現時点までの到達点を形にしたいと思います。
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