なぜ、WorkFlowyで文章を書くのか(WorkFlowyで文章を育てる)
1.はじめに
私は、最近、文章を書くときは、できるかぎりWorkFlowyを使うことにしています。
WorkFlowyはクラウドサービスなので、すべての文章をWorkFlowyで書くことはできません。でも、WorkFlowyを使っても問題ない領域の文章を書くときは、原則として、WorkFlowyを使っています。たとえば、このブログの文章は、すべてWorkFlowyで書いています。
WorkFlowyは、文章を書くために開発されたツールではありません。また、機能面からも、文章を書くために重要な機能のいくつかを持っていません(置換機能、文字数カウント機能、校正機能などなど)。
それにもかかわらず、なぜ、WorkFlowyで文章を書くのでしょうか。
いくつか理由があります。文章を組み立てることを助けてくれる、文章を書きながら思いついたアイデアをその場でキャッチできる、書いた文章の再利用が簡単、WindowsからもMacからもiPhoneからもiPadからも同じ文章を扱える、Export機能やハサミスクリプトによってアウトプットを切り取ることができる、WorkFlowyが育つ、などです。
これらの理由は、大きく捉えれば、次の2つに分けることができます。
- ひとつの文章を書くのに便利
- 文章群全体を管理するのに便利
ひとつずつ見ていくことを通して、「なぜ、WorkFlowyで文章を書くのか?」という問いを考えます。
2.ひとつの文章を書くことを、WorkFlowyが助けてくれる
(1) 文章の構造を組み立てる
私の文章の書き方は、比較的トップダウンです。つまり、最初に文章の全体構造を組み立ててから、その後、それぞれの部分を文章にしていきます。文章の構造を組み立てることは、文章を書く上で、大きな位置を占めています。
WorkFlowyは、文章の構造を組み立てることを、強力に助けてくれます。WorkFlowyには、文章のアウトラインを扱うための便利な機能がたくさん用意されているからです。
トピックにテキストを格納する機能、トピック群を階層構造のあるリストにする機能、トピックを移動する機能、トピックを折りたたむ機能、特定のトピックにZoomする機能。
私が「WorkFlowyの本質的な基本機能」と呼んでいるこれらの機能は、文章の構造を組み立てることを、強力にサポートしてくれます。
頭に浮かんだ言葉を片っ端からWorkFlowyのトピックに入力し、トピックを階層構造に組み立てたり移動したりしていると、自然と、文章の構造を組み立てることができます。
(2) 語句をつなげて文を作り、文をつなげて文章を組み立てる
WorkFlowyは、文章の構造を組み立てるだけでなく、文章を書き上げるためにも、役に立ちます。
文章は文によって構成され、文は語句によって構成されています。語句をつなげて文を作り、文をつなげて文章を組み立てることが、文章を書き上げるということです。
語句をつなげて文を作る場面では、ひとつの文を構成する語句を選んで、語句の並び順を決めます。文をつなげて文章を組み立てる場面では、文章を構成する文を選んで、文の並び順を決めます。
かなり単純化していますが、文章を書き上げるために必要な作業は、
- 文を作る場面
- 使う語句を選ぶ
- 語句の並び順を決める
- 文章を組み立てる場面
- 使う文を選ぶ
- 文の並び順を決める
です。
そして、語句や文の並び順を決めるためには、語句や文をいろんな順序で並べてみる試行錯誤が有効です。
ところが、テキストエディタやWordなど、よく使われている文章を書くツールには、語句や文の並び順を試行錯誤するための機能は、必ずしも豊富ではありません。
ところで、WorkFlowyは、テキスト管理システムです。WorkFlowyがテキストを管理する枠組みは、
- 「テキストをトピックに格納する」
- 「トピックを階層構造で管理する」
の2段階です。
WorkFlowyがテキストを管理する枠組みは、「テキストをトピックに格納する」と「トピックを階層構造で管理する」の2段階
この2段階は、先ほど書いた文章を書き上げるために必要な作業と、次のように対応します。
- 文を作る場面
- 使う語句を選ぶ:「テキストをトピックに格納する」
- 語句の並び順を決める:「トピックを階層構造で管理する」
- 文章を組み立てる場面
- 使う文を選ぶ:「テキストをトピックに格納する」
- 文の並び順を決める:「トピックを階層構造で管理する」
つまり、WorkFlowyを使えば、語句や文の並び順を試行錯誤することが簡単になります。WorkFlowyは、語句や文の並び順の試行錯誤によって、語句をつなげて文を作り、文をつなげて文章を組み立てることを助けてくれます。
(3) 読み返し、書き直す
「読み返し、書き直す」という行程は、文章を書き上げるために必要不可欠です。書き直すことなしに文章を書き上げることはできませんし、読み返すことなしに書き直すことはできません。
「読み返し、書き直す」ことが、文書を書き上げるために必要不可欠な行程であることは、多くの優れた書き手が指摘しています。
たとえば村上春樹さんの小説はとても読みやすいと感じるのですが、この秘訣のひとつは、「何度もていねいに書き直す」ことにあります。
また、結城浩先生は、『数学文章作法 推敲編』で、「正確で読みやすい文章」を書くには推敲が不可欠であることを指摘します。
倉下忠憲さんも、「丁寧に書くこと」を「文章を書くときの、たったひとつの心がけ」と表現します。
「文章を書くときの、たったひとつの心がけ」|倉下忠憲|note
WorkFlowyは、「読み返し、書き直す」ことを助けてくれます。
a.WorkFlowyで「読み返す」
まず、「読み返す」こと。
WorkFlowyは、クラウドサービスなので、いろんなところから読み返せます。Windowsのデスクトップパソコンで書いた文章を、スターバックスで広げるMacBook Airや地下鉄の中でいじるiPhoneから読み返すこともできます。いろんな場所、いろんな環境、いろんな条件で読み返すことは、よく読み返すための基本です。
WorkFlowyのトピック折りたたみ機能やZoom機能も、読み返すことを助けてくれます。
また、読み返すときは、気づいたことをメモすることが大切ですが、WorkFlowyなら、タグやnoteによって、いろんなかたちでメモできます。
b.WorkFlowyで「書き直す」
次に、「書き直す」こと。
まず、「読み返す」ことと同じメリットがあります。クラウドサービスなので、どこからでも書き直せます。トピック折りたたみ機能やZoom機能で、書き直す対象を意図的に絞ることもできます。タグやnoteによるメモを活用することもできます。
また、太字、斜体、アンダーラインという文字の書式を設定できることで、書き直したことを視覚的に区別することもできます。
毎日差分メールが届きますし、有料のWorkFlowy Proなら1日単位のDropboxバックアップがありますので、いつどこを書き直したかを管理することも簡単です。
新規トピック数制限を気にしなくていいなら、書き直しをするたびに、文章全体を複製し、すべてのバージョンをトピック内に残す、という手もあります。トピックを折りたたんでしまえば、全然邪魔になりません。
●
このように、WorkFlowyは、文章を「読み返し、書き直す」ことを助けてくれます。
(4) ハサミスクリプトで、切り取る
文章を書く意義のひとつは、自分が考えたことを、自分以外の誰かに届けるため、です。
どんなにすばらしい考えでも、その考えが自分の頭の中に留まっているうちは、誰にも伝わりません。価値も生まれません。
どんなにちょっとした考えでも、その考えに文章の形を与えて公開すれば、誰かに届くかもしれません。誰かがそこに何らかの価値を見出してくれるかもしれません。
ですから、文章を書くことには、自分が考えたことを自分以外の誰かに届けるという意義があります。
自分以外の誰かに届けるためには、単に文章を書けばいいのではなく、書いた文章をどこかの場所に公開する必要があります。私にとっては、このブログが、文章を公開するための場所です。
ブログに公開する文章を読みやすくするには、単に文章を書くだけでなく、書いた文章をHTMLなどでマークアップすることが望まれます。しかし、見出しやリストをHTMLでマークアップする作業は、慣れていない私にとっては、煩雑で、面倒で、気が重いものでした。
ところが、WorkFlowyで文章を書くなら、今や、この問題は、きれいに解消されています。それは、マロ。さんによるブックマークレットやApple Scriptが公開されているからです。「ハサミスクリプト」と呼ばれるこれらのツールを使えば、WorkFlowyで書いた文章を、一瞬にして、構造を持ったHTMLに変換することができます。
WorkFlowyをブログツールに。ハサミスクリプトファミリーの整理(Win&Mac・HTML&マークダウン&はてな記法)
ハサミスクリプトは、WorkFlowyで文章を書くことを助けてくれます。
3.文章群全体を管理することを、WorkFlowyが助けてくれる
WorkFlowyは、ひとつの文章を書くことを助けてくれるだけでなく、文章群全体を管理することを助けてくれます。文章群全体を管理することこそが、WorkFlowyで文章を書くことの、もっとも大きな理由です。
では、WorkFlowyで文章群全体を管理すると、どのようなよいことがあるのでしょうか。
まず、ひとつの文章を書く過程で生まれた思考の断片を、確実に捕まえることができます。
次に、文章のポケット一つ原則を実現できます。WorkFlowyにアクセスさえすれば、書きかけの文章のすべてがそこにあるためです。ポケット一つ原則のおかげで、そのときの気分や状態や手持ち材料にあった文章を、少しずつ書き進めることができます。
最後に、書き上げた文章と書きかけの文章のすべてがWorkFlowyの「ただひとつの巨大なアウトライン」に蓄積されます。WorkFlowyで文章を書くだけで、WorkFlowyが育ち続けます。WorkFlowyを育てることによって、自分の知的生産全体を育てることができます。「WorkFlowyを育てることで、自分の知的生産全体を育てる」という知的生産システムを実現できます。
順番に説明します。
(1) 文章を書く過程で生まれた思考の断片を、確実に捕まえることができる
私は、文章を書くことが好きです。とても好きです。
ひとつの大きな理由は、自分が考えたことに文章という形を与えることで、自分の(暫定的な)作品を生み出すことができるためです。
でも、同じくらい大きな理由がもうひとつあって、それは、「文章を書くと、いろんなことを思いついたり考えたりすることができる」ということです。
私は考えることが好きなのですが、何かを考えるためには、考える種のようなもの、思考の断片が必要です。文章を書くと、その過程で、たくさんの思考の断片が生まれます。この意味で、文章を書くことは、考えるための有効な手段です。
WorkFlowyではない道具で文章を書いても、思考の断片はたくさん生まれます。しかし、生まれた思考の断片を捕まえる能力は、文章を書く道具によって、いろいろです。思考の断片を捕まえるのが得意なツールもあれば、あまり得意ではないツールもあります。
WorkFlowyは、「文章を書く過程で生まれた思考の断片を確実に捕まえること」については、ピカイチです。
どこに保存するかとか、どんなファイルを作るか、などを考えることなく、適当な場所に新しいトピックをひとつ作って、そのトピックに思考の断片をメモすればよいためです。
文章を書く過程で生まれた思考の断片を、確実に捕まえることができること。これが、WorkFlowyで文章を書くことの、大きな強みです。
【補足】Evernoteで文章を書くこと
「文章を書く過程で生まれた思考の断片を確実に捕まえる能力は、文章を書く道具によって、いろいろです。」と書きました。
WorkFlowy以外で、この能力が高いツールは、Evernoteだと思います。
Evernoteなら、Evernote内に新しいノートを作成し、そのノートにメモすればよいため、「新しい文書を保存する」という動作が不要だからです。
私は、WorkFlowyで文章を書くようになる以前、Evernoteで文章を書いていたのですが、理由はここにあります。
ブログ記事の原稿を書くなら、Evernoteが一番。アイデアを、素早くキャッチし、気長に育てる。
(2) 書きかけの文章のすべてがそこにあるので、少しずつ着実に育てることができる
複数の文章を同時並行で書き進めるのであれば、「書きかけの文章の全部がひとつの場所に集まっている」ということは、大きなメリットです。
テーマ、アウトプット先、文字数、完成度を問わず、全部の文章がひとつの場所に集まっていれば、文章を書くための時間や、やる気や、体力を確保できたタイミングを逃さずに、その場にもっともふさわしい文章を書き進めることができます。また、書きかけの文章が散逸し、埋もれてしまう可能性も下がります。
「書きかけの文章の全部がひとつの場所に集まっている」ということを「文章のポケット一つ原則」と呼ぶとして、私にとって、「文章のポケット一つ原則」は、とても重要です。
「文章のポケット一つ原則」を実現できれば、少しずつ着実に文章を育てることができるためです。
クラウドと「ポケット一つ原則」は、相性抜群。文章とメールとタスク、3つの「ポケット一つ原則」
現時点で私の知る限り、WorkFlowyは、文章のポケット一つ原則を実現するために、もっともふさわしいツールです。WorkFlowyはクラウドサービスなので、WindowsやMacからも、iPhoneやAndroidからも、iPadやChromeブックからも、どこからでもアクセスできます。同期速度も速く、テキストのみなのでデータ量も少ないです。競合する変更の判断がトピック単位なので、複数の端末から使ううちに最新データが失われる、という事態も生じにくい設計です。
「文章のポケット一つ原則」のための強力なツールであること。これが、WorkFlowyで文章を書く理由のひとつです。
【補足】Evernoteで文章を書くこと
文章のポケット一つ原則を実現するためのWorkFlowy以外の選択肢は、Evernoteではないかと思います。
文章を書くツールとしてEvernoteを使うことのメリット テキストデータのポケットひとつ原則
Evernoteで文章を書くようになって約3年、Evernoteは私の知的生産をどう変えたか?
(3) 「WorkFlowyを育てることで、自分の知的生産全体を育てる」という知的生産システムを実現できる
大学生のときに『知的生産の技術』を読んで以来、知的生産なるものに憧れを感じ、本を読んだり文章を書いたり各種思考ツールを使ってみるなど、いろんな試行錯誤を繰り返してきました。もう10年以上になります。
しかし、10年以上にわたる試行錯誤の大部分は、どこかに散逸してしまい、特に何も残っていません。文章を書いていた紙のノート群も、読んできた本の多くも、いつかの引っ越しで処分しました。テキストファイルに保存したメモは、多分どこかのハードディスクに残っているのでしょうが、わざわざ探すのは面倒です。
でも、ここ数年の試行錯誤は、蓄積されています。理由は3つです。
ひとつめは、数年前に、文章を書いたり読書メモを蓄積するためのツールを、Evernoteに切り替えたこと。これによって、Evernoteというひとつの場所に、知的生産の試行錯誤が蓄積されるようになりました。
ふたつめは、このブログを始めたこと。これによって、自分以外の誰かに向けて書く文章を、ひとつの場所に継続的に蓄積できるようになりました。
そしてみっつめは、2015年1月から、WorkFlowyを使い始めたこと。ブログ原稿も、日記も、読書ノートも、フリーライティングも、文章を書くときはできるかぎりWorkFlowyを使うことにしました。これによって、WorkFlowyの「ただひとつの巨大なリスト」に、自分が書く文章の大半が蓄積されるようになりました。
すると、単なるデジタルデータを提供するプログラムであるはずのWorkFlowyが、実体を持った有機体のように感じられるようになりました。今や、WorkFlowyは、私にとって、ツールであるだけでなく、育てる対象です。
そして、WorkFlowyで文章を書くことによってWorkFlowyを育てることは、自分の知的生産全体を育てることでもあります。
今の私は、WorkFlowyを中心に置くことによって、ゆるやかな知的生産システムを実現できています。大学生の私は、こんな知的生産システムがありうるということを、想像することすらできませんでした。
マンダラ「個人のための知的生産システムを構成するウェブサービス」を創る(Kindle・Evernote・WordPress・Feedly&Pocket・WorkFlowy・Twitterの関係)
「WorkFlowyを育てることで、自分の知的生産全体を育てる」という知的生産システムを実現できること。これも、WorkFlowyで文章を書く理由のひとつです。
【補足】Evernoteによる知的生産システム
Evernoteでも、「Evernoteを育てることで、自分の知的生産全体を育てる」という知的生産システムを実現できます。
自分個人のための知的生産システムを改善し続ける。「ハイブリッド」シリーズ(倉下忠憲)から受け取った「ハイブリッド・システム」というコンセプト。
4.WorkFlowyで文章を育てる
これが、「なぜ、WorkFlowyで文章を書くのか?」という問いに対する、いまの私なりの答えです。
長々といろいろ書きました。頭で理由を考えながら文章を書いたら、こんなふうに長くなりました。
でも、体や心の感覚に耳を澄ませると、もうちょっとシンプルに書けます。こんな感じです。
【問い】
なぜ、WorkFlowyで文章を書くのか?
【答え】
WorkFlowyで文章を書くことは、感覚的には、「WorkFlowyで文章を育てる」という感じである。
この「WorkFlowyで文章を育てる」という感覚が、私はとても好きである。
しっくり来るし、気持ちがいい。
WorkFlowyで文章を書くと、「WorkFlowyで文章を育てる」という感覚で文章を書くことができるから、私はWorkFlowyで文章を書く。
●
すごく感覚的で、理由にもなっていないのですが、「WorkFlowyで文章を育てる」という感覚が好きで、WorkFlowyで文章を書くことが好きなことが、私がWorkFlowyで文章を書いてる理由です。
おすすめ書籍
WorkFlowyで文章を書くことの楽しさを、私はTak.(@takwordpiece)さんに教わりました。
私が受けた教えは、Tak.さんの『アウトライン・プロセッシング入門』やTak.さんのブログにまとまってます。
『アウトライン・プロセッシング入門: アウトライナーで文章を書き、考える技術』
いちばんうれしいことは、「自由なアウトライン・プロセッシング」が、たくさんの人に開かれること(『アウトライン・プロセッシング入門』を読んだ感想)
お知らせ
このエントリは、その後、加筆修正などを経て、書籍『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の一部分となりました。
書籍『クラウド時代の思考ツールWorkFlowy入門』の詳細目次と元エントリは、次のとおりです。
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