三色ボールペン方式を取り入れると、なぜ、読書会の場は、創造的になるのか?
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目次
1.はじめに
『三色ボールペンで読む日本語』は、三色ボールペン方式という、シンプルで具体的なただひとつの読書の基本技だけを、本一冊かけて、訓練するために存在する本です。
三色の使い分け方は、次のようだ。
青(客観重要)…「まあ大事」というところに引く。
赤(客観最重要)…客観的に見て「すごく大事」と思ったところに引く。
緑(主観大切)…自分が勝手に「おもしろい」と感じたところに引く。『三色ボールペンで読む日本語 (角川文庫)』(齋藤孝) location 94
私は、大学生のころにこの本に出会い、三色ボールペン方式を使い始めました。客観と主観を区別することために、三色ボールペンという道具を使う、という三色ボールペン方式の基本思想をとても気に入り、それ以後、10年以上、三色ボールペン方式で本を読み続けてきました。
先日、久々に、『三色ボールペンで読む日本語』を読み返し、WorkFlowyで「読書ノート」を作りました。
「読書ノート」を作りながら読み返すと、やはりたくさんの収穫があったのですが、その中のひとつは、「三色ボールペン方式の読書会」です。
読書会をやってみたい。三色ボールペン方式を取り入れると、創造的な場ができそうな気がする。
引用元:WorkFlowyで作るKindle本の「読書ノート」の実例:『三色ボールペンで読む日本語』
読書は一人で行うことが普通だが、最大の喜びは、それについて誰かと語り合うことにある location 1301
本当にそう感じ、ワクワクします。私も、三色ボールペン方式の読書会をやってみたくなりました。
そこで、来たるべき三色ボールペン方式の読書会の日のために、以下、『三色ボールペンで読む日本語』の内容を整理しながら、なぜ、読書会に三色ボールペン方式を取り入れると、読書会の場が創造的になるのか、その意義を確認します。
ポイントは、三色ボールペン方式を取り入れると、世の中に存在する多くの読書会がうまくいかない原因の多くが解消される、ということです。
読書会の運営方法にはコツがある。三色ボールペン方式は、読書会をうまく運営しやすくする。読書会というほど大げさなものでなくとも、何人かで短い文章を読んだ後に話し合うケースも同様である。location 685
2.なぜ、読書会はつまらない場になるのか? 読書会が失敗する3つの原因
世の中には、たくさんの読書会が開催されています。しかし、そのすべてが創造的な場になっているわけではありません。なぜ、読書会は失敗するのでしょうか。
『三色ボールペンで読む日本語』で、著者の齋藤孝氏は、失敗の原因を、以下のように分析します。
(1) 読みに自信がない者が発言を控えすぎる結果、場がつまらなくなる
話し合いが盛り上がらない原因としては、集まりの中で読みに自信のない者が発言を控え過ぎるということが挙げられる。読みに自信のある少数の者同士による対話が場を支配し過ぎると、全体としてはあまりおもしろい場にはならない。location 687
ひとつめは、読みに自信のないものが発言を控えすぎる結果、読みに自信のある少数の者同士による対話が場を支配しすぎてしまい、あまり面白い場にならない、ということです。
読書会の意義のひとつは、いろんな人のいろんな読み方に触れることです。自分が読み飛ばしていたところを他の人が面白く読んでいたことを知り、言われてみれば確かに面白いと発見できる瞬間は、読書会の醍醐味です。
この醍醐味を実現するには、たくさんの参加者が、率直に発言できなければいけません。しかし、読みに自信のない少数の者が発言を控えてしまうと、読書会は、つまらない場になってしまいます。
(2) 必ずしも全員が課題図書の全体をがっつりと読んでいるわけじゃない
読書会がうまくいかないもう一つの原因として、必ずしも皆が本を読んできていないということがある。途中までしか読んでいない人が参加しにくい読書会ではうまくいかない。皆が読み終えてくるのを期待するのもムリがある。location 708
次に、必ずしも全員が本を最初から最後までしっかりと読んでいるわけではない、ということです。
時間に制約のある中で集まるわけなので、途中までしか読めない人もいるでしょうし、全体を読んだとしても、流し読みの場合もあります。
そのため、途中までしか読んでいない人が参加しづらかったり、がっつり読んでいないと発言しづらかったりすると、読書会の場は、冷めてしまいます。
(3) 客観的な要約が不十分で、やりとりがかみ合わない
私は、客観的な要約力の足りなさが、相互的な理解を妨げる要因になっていると考えている。私が、尊敬する先生の補佐として、ある市民大学のゼミを担当させてもらっていたときのことだ。どのような文章をテキストとして扱ったとしても、私たち講師二人の理解は常に一致していた。しかし、その他の参加者の意見はそれぞれまちまちであることが多かった。前提となる読みが狂っているのに、あれこれと自分の意見を強気に述べ立てる人がいるのには驚いた。文章を批判して自分の意見として主張していることがまさに、その文章の主旨であったりする場合さえよくある。location 545
それから、客観的な要約が不足しているケースも有ります。
読書会の肝は、共通のテキストを土台にした意見交換です。にも関わらず、課題図書の趣旨の把握の仕方が食い違っていると、共通のテキストの土台ができません。
前提となる読みが食い違ったまま、主観的な意見を交わしているだけだと、意見交換が噛み合わず、場が生産的になりません。
3.三色ボールペン方式は、どのように失敗の原因を解消し、読書会を創造的な場にするか?
これに対して、三色ボールペン方式は、これら読書会の失敗原因を、うまく解消できます。
(1) 緑の線を引いたところを順番に発表して、場をあたためる
最初の「読みに自信がない者が発言を控えすぎる結果、場がつまらなくなる」は、緑の線を引いたところを順番に発表することで解消できます。
それを防ぐ一つの工夫は、緑を引いたところを皆ではじめに順々に言っていくということだ。location 690
なぜ、緑を引いたところを順々に言うことが、原因の解消になるのでしょうか。
緑は、主観的に面白いところなので、正解がありません。そのため、正解不正解を問わず、気楽に発言できます。
一度発言をすると、場に対して参加した気分を味わえるので、二度目の発言のハードルが下がります。ワークショップのアイスブレイクのような感じです。
一度発言をしてあると、場に対して落ち着いて参加している気持ちを味わうことができる。location 691
さらに、もっと大切なことがあります。
緑を言い合うことは、共感の力で場をあたため、創造的にする効果があります。
緑に関して、同じ箇所を引いてある者同士は、気が合う感触を持ちやすい。location 692
その際、誰かが言った箇所と同じ箇所に自分が線を引いている場合には、拍手をするように習慣づけている。すると、発表した者も、他に賛同者がいることで勇気づけられるし、発表しなかった者も代弁してもらった気分になり、自己表現欲がある程度満たされる。location 694
ある文章をいいと思ったということが共有されるだけでも、共感の網の目が場の中に張り巡らされていく。location 697
緑は、主観的に面白いところに引く色であり、自分の癖を出す色です。その緑が共通する人同士には、共感が生まれやすいわけです。
(2) 他の人が線を引いたところに線を引くことで、課題図書を自分の本にする
次に、「必ずしも全員が課題図書の全体をがっつりと読んでいるわけじゃない」という原因は、他の人が線を引いたところに全員で一緒に線を引くことで、課題図書を自分のものにする、という方法で解消できます。
ここでは主に赤と青だと思うのですが、順番に赤や青を引いたところを発表します。そして、発表者以外の人は、自分の本の発表された箇所に、赤や青で線を引きます。
読みの進度にバラツキがある場合は、三色ボールペンでそれぞれどこに引いたかを、読み進んでいる人から順に言ってもらう。そして、その箇所に、まだ読んでいない人は、チェックを自分のペンでするようにする。すると、読んでいない箇所にも線が引かれ馴染みが出てくる。location 708
これを続けていくと、全員が持っている本には、ある程度同じようなところに線が引かれた状態になっていきます。
それを何人も行っているうちに、徐々に読んでいない部分にもかかわらず、おもしろそうな部分には線が引かれることになる。location 713
このように引かれた線は、話し合いの出発点としても機能します。
あらかじめ読んであったとしても、線をまったく引いていない状態でいきなり話し合いをはじめると、何をきっかけとしていいのかがわからないので盛り上がりにくい。とりあえず線を引いた箇所を言うだけならば、自分の考えを深く述べる必要がないのでスタートが切りやすい。location 700
こうすることで、読書会が始まった段階では、全体を読んだわけでも、がっつりしっかり読んだわけでもない人でも、読書会の中盤ころまでには、課題図書を自分の本にすることができます。
このやり方は、邪道のようだが、実際やってみると楽しいし、効果がある。あらかじめ線がある程度引かれていることが、次に自分で読む意欲を妨げることにはならず、逆に読みやすくしてくれる。location 715
(3) 赤の基本的な主旨を共有し、土俵を作る
最後の、「客観的な要約が不十分で、やりとりがかみ合わない」という原因は、赤色を引いた基本的な主旨を共有することで、話し合いの基本の土俵を作ることによって、解消できます。
齋藤孝氏は、本には、著者が言いたい主旨が明確に存在する、と断言します。
本にはやはり著者が言いたい主旨というものが明確に存在する location 544
そして、生産的な議論のためには、主旨をとらえた基本的な要約が必要不可欠だ、と言います。
基本的な要約ができていないのに突っかかるというのでは、生産的な議論になり得るはずがない。「それぞれの読み方があっていい」という考えは、基本的には誤りだ。location 550
そこで、読書会においては、必要不可欠な箇所については、全員で赤色を共有することもあってよい、と言います。この赤色の共有が、話し合いのための基本的な土俵として機能します。
赤に関しては、リーダーとなる人が、最低限必要な箇所を指摘し、それを全員で赤を引くということがあってもいい。最重要なテーマを話し合いの基本の土俵とする作業である。location 697
主旨を共有することは、各人の自由な読みを制約することにはなりません。読書会の場をつまらなくさせることにもなりません。それどころか、むしろ、およその主旨を共有する事こそが、読書会の場を生産的にします。
およその主旨を共有しておいた上でこそ、各人の微妙な読みの差は生きてくる。location 561
三色ボールペン方式は、客観と主観を区別することを促します。三色ボールペン方式で読書会を行えば、まず全員で力を合わせて課題図書を正しく理解し(客観)、その上で、それぞれがおもしろく感じた部分を交換しあう(主観)、という流れを作ることができます。
4.おわりに
三色ボールペン方式は、とてもシンプルな読書の基本技です。
- 客観的に重要
- 客観的にとても重要……赤色
- 客観的にまあ重要……青色
- 主観的に面白い……緑色
三色ボールペン方式の基本思想は、客観と主観を区別することと、このために三色ボールペンによる三色の色分けというシンプルな型を使うことです。
三色ボールペン方式は、読書会の場を創造的にすることにも、役に立ちます。
なぜなら、三色ボールペン方式は、読書会の場をつまらなくする3つの原因を解消するからです。
- 原因(1) 読みに自信のないものが発言を控えすぎて、場がつまらなくなる
- ← 最初に緑を引いたところを順番に言い合って、場をあたためる
- 原因(2) 必ずしも全員が課題図書の全体をがっつりと読んでいるわけじゃない
- ← 順番に線を引いたところを発表し、一緒に線を引くことで、課題図書を自分の本にする
- 原因(3) 客観的な要約が不十分で、やりとりがかみ合わない
- ← 最低限必要な客観的な主旨を赤色で共有して、話し合いの基本的な土俵を作る
【おまけ】
三色ボールペン方式も取り入れて、WorkFlowyを使った読書会をします。
実際に集まってやるのとはちょっとちがいますが、創造的な場になればいいなと思っています。
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