なぜ、「書く」ワークスペースとして、Evernoteを使うのか?
目次
1.なぜ、文章を「書く」ためのワークスペースとして、Evernoteを使うのか?
(1) 「自分のすべての作業を行うワークスペース、それがEvernoteです。」
2014年10月、Evernoteのキャッチフレーズが、「すべてを記憶する」から「自分のすべての作業を行うワークスペース」に変わりました。
このキャッチフレーズの変化は、Evernoteが目指す方向性を示しているのだろうと想像します。これからのEvernoteが目指す方向は、いろんな情報をそのままEvernoteに保存することだけではなく、Evernoteに保存した情報を材料にEvernote上でいろんな作業を行い、Evernote上で情報の価値を増やしていくことです。
では、「自分のすべての作業を行うワークスペース」とは、具体的には、どういうことでしょうか。Evernote上での作業で、Evernoteに保存した情報の価値を増やすとは、どういうことでしょうか。
Evernote自身は、「書く」「集める」「見つける」「発表する」という4つの作業を提案しています。文章を「書く」という作業を行うためのワークスペース、情報を「集める」という作業を行うためのワークスペース、情報やメモや情報源を「見つける」作業のためのワークスペース、何かを「発表する」作業のためのワークスペース、です。
(2) なぜ、文章を「書く」作業を行うためのワークスペースとして、Evernoteを使うのか?
この4つの作業の中で、私自身が利用しているのは、「書く」です。私は、文章を「書く」という作業を行うためのワークスペースとして、Evernoteを使っています。
Evernoteは、文章を書くことに特化したサービスではありません。そのためEvernoteは、文章を書くためには不必要な機能をたくさん持っていますし、反対に、文章を書くためにあったほうがよい機能のいくつかを備えていません。
文章を書くためには、Evernote以外にも、いろんなツールが存在します。たとえば、テキストエディタなら正規表現やgrep検索を使えます。アウトライナーならアウトラインを使えます。Microsoft Wordなら、アウトラインやスタイルも使えますし、最初から印刷前提でレイアウトを調整することもできます。Google Driveのドキュメントなら、リアルタイムの共同編集も可能ですし、(本来文章を書くためのツールではないですが、)GitHubならかなり柔軟なバージョン管理も使えます。
このように、文章を「書く」という作業を進めるためには、Evernoteよりも豊富な機能を持つツールやサービスがたくさんあります。Evernoteというサービスと、文章を「書く」という作業とは、必ずしも、ピッタリと相性がよいわけではないような気もします。
それなのに、なぜ、私は、文章を「書く」ためのワークスペースとして、Evernoteを使っているのでしょうか。
これを説明するために、Evernoteを使いはじめるまでに私が抱えていた問題をお話した上で、Evernoteによってこの問題がどのように解消されたのかをふり返ります。
2.「書く」ワークスペースとしてEvernoteを使うことで、どんな問題を解消できるか
(1) Evernoteを使いはじめるまでに、私が抱えていた問題
a.個々の文章ファイルの編集は問題なかったが、文章群全体の管理がうまくいかなかった
私が文章を書き始めたきっかけは、『知的生産の技術』の発見ノートです。かなり大雑把にいうと、発見ノートのポイントは、次の2つです。
- 毎日の中で、考えたことや気づいたこといろいろを、なんでも文章でメモする
- 後々の再利用のため、1つの文章につき、カード1枚やノート1ページを使う
この発見ノートをデジタルに切り替えたとき、私は、この1文章1ページを踏襲して、1つの文章につき1つのファイルを作る、というかたちで文章を書くことにしました。
Evernoteを使いはじめるまでに、私が文章を書くために使っていたデジタルツールは、秀丸エディタというテキストエディタです。1つの文章ごとに、1つのテキストファイルを作って、そこに文章を書いていました。
秀丸エディタは定評のあるテキストエディタです。プロのプログラマの中にも、秀丸エディタを愛用されている方がいるそうです。個々のテキストファイルを編集するためなら、秀丸エディタは申し分ない機能を持っています。私は、マクロなどはほぼ使わなかったライトユーザーでしたが、動作が軽快で柔軟な設定もできる秀丸エディタを、かなり気に入っていました。
しかし、1文章1テキストファイルを作成する方式では、自分が書いた文章をうまく管理することができませんでした。ひとつひとつのテキストファイルの中身を編集する作業の点では、テキストエディタに不満はありませんでした。しかし、テキストエディタだと、テキストファイルを管理するのは、Windowsのエクスプローラになります。この、Windowsのエクスプローラで自分が書いた文章群全体を管理することを、私はぜんぜんうまくこなせませんでした。
b.文章群全体の管理がうまくいかない
文章群全体の管理がうまくいかなかったのは、大きく分けると次の3つです。
(a) 新しいファイルの作成と保存が面倒で、新しい文章を書き始めるハードルが上がる
ひとつめの問題は、新しいファイルの作成と保存が面倒だということです。
ちょっとしたことを思いついて、デジタルでメモを書き始めたとします。このとき、テキストファイルをWindowsのエクスプローラで管理する方式だと、
- (1) 新しいテキストファイルを作成して、
- (2) そのテキストファイルにメモを書いて、
- (3) そのテキストファイルを保存する
というステップを踏む必要があります。
さらに、「(3) そのテキストファイルを保存する」ためには、
- (3)-1 ファイルの保存場所を指定する
- (3)-2 ファイルに名前をつける
という2つの作業をする必要があります。
新しい文章を書き始めるために、これだけの作業が必要になります。これが面倒です。
この面倒くささが心理的なハードルになって、なにかを思いついても、「まあ、新しいファイルを作るまでもないし……」となって、メモをやめてしまうようになりました。
(b) 過去に作成したファイルが埋没してしまい、思考が前に進まない
ふたつめの問題点は、新しいファイルを作るハードルを超えて作成されたテキストファイルがたどる運命です。テキストファイルをWindowsのエクスプローラで管理する方式だと、過去の作ったファイルが埋没してしまうのです。
たとえば、今日、私が、「Evernoteで書評エントリを書くためのステップ」を考えたとします。でも、今日書き始めたこの文章を、今日中に完成できることは、ほとんどありません。今日の終わりの段階で、このテキストファイルは、未完成です。そこで私は、このテキストファイルに「Evernoteで書評エントリを書くためのステップ」という名前をつけて、しかるべき場所に保存します。明日以降に続きを書くためです。
が、しかし、多くの場合、このファイルの続きが書かれることはありません。このファイルは、パソコンのハードディスクの中に埋没します。
なぜでしょうか。
致命的なのは、このテキストファイルにどんな内容が書かれているかを確認するのが大変だということです。基本的には、ファイルをダブルクリックして開いてみないと、このファイルに何が書かれているかを確認できません。そのため、開いてみなければ、続きを書くべきテキストファイルなのか否かが判断できません。
また、思いついたことや考えたことを毎日のように新しいテキストファイルにメモしていたため、書きかけのファイルは、どんどん増えます。そのため、新しく作成したファイルも、数日が経つと、多くのファイルの中に紛れてしまいます。今日書いたものの続きを明日書くのであればそれほど大きな問題にはなりませんが、そうでない場合、これも大きな問題でした。
このように、開かないと内容を確認できないことと、たくさんのファイルの中に紛れてしまうことから、私が書きはじめた文章の多くは、書きかけのまま、ハードディスクに埋没していきました。そのため、いくらたくさんの文章を書いても、同じようなことをぐるぐると繰り返し書いているだけで、思考が前に進みませんでした。
(c) 書きかけの文章が複数のパソコンに分散して、書きたい文章が手元にないため、「書きたい気分」を生かせない
最後の問題点も、主に書きかけの文章の管理に関わる問題です。
当時も今も、私は、自分のデスクと外出先とで、2台のパソコンを併用しています。そのため、書きかけの文章を保存したテキストファイルは、机のデスクトップと外出用のノートとに分散して保存されていました。
テキストファイルが分散していたために、「今はあの文章の続きを書きたい気分なのに、その文章のファイルが手元にない」という事態が、しばしば生じました。これが、大きな問題でした。
文章を書くうえで、「書きたい気分」は、すごく大切です。文章を書くという作業は、ある程度、頭を使う創造的な作業なので、自分の気分やノリが文章を書くという作業とフィットしていることが、その作業の生産性に決定的な影響を与えます。
私の場合、この「書きたい気分」は、「文章一般を書きたい」というかたちでやってくるのではなくて、「こんなテーマの文章を書きたい」とか、もっといえば、「あの文章の続きを書きたい」というかたちでやってきます。そこで、「まさにその文章を書きたい気分のときに、その文章を書く」というのが、私にとって、とても大切な文章作成術です。
それなのに、2台のパソコンに書きかけの文章が分散していることによって、「あの文章の続きを書きたい気分」なのに、その文章が手元にない、という状態が、しばしば生じました。せっかく「書きたい気分」になっているのに、その気分を生かせないのですから、これは大きな損失でした。
(2) 文章群全体の管理の問題を、Evernoteが解消した
まとめます。以前の私が直面していたのは、文章群全体の管理に関する問題で、具体的には、次の3つです。
- (1) 新しいファイルの作成と保存が面倒で、新しい文章を書き始めるハードルが上がる
- (2) 過去に作成したファイルが埋没してしまい、思考が前に進まない
- (3) 書きかけの文章が複数のパソコンに分散して、書きたい文章が手元にないため、「書きたい気分」を生かせない
Evernoteは、これら3つの問題を解消してくれました。ひとつずつ見ていきましょう。
a.新しいノートを作るのは一瞬で、保存場所もノートの名前も気にしなくていいから、どんどん新しいノートを作ることができる
まずひとつめ。新しいファイルの作成と保存が面倒なので、新しい文章を書き始めるハードルが上がってしまう、という問題点を、Evernoteは、どのように解消するのでしょうか。
Evernoteでは、1つの文章につき1つのノートを作ることによって、『知的生産の技術』の1文章1カードを実現できます。
Evernoteで新しいノートを作るのは、一瞬です。マウスを使うなら、「ノートを作成」をクリックするだけですし、Ctrl+Nといったキーボードショートカットを使うこともできます。
また、Evernoteには、ノートを保存する、という概念がありません。そのノートを開き、そこに何かを書けば、自動的に、ノートが保存されています。
さらに、Evernoteのノートタイトルは、ファイル名ほど厳密に付けなくても問題ありません。タイトルをつけなければEvernoteが勝手につけてくれますし、あとからタイトルを変えるのも簡単です。ノートの中身を編集するのと同じような動作で、ノートタイトルを変えることができます。
その上、Evernoteなら、ノートの保存場所を気にする必要がありません。Evernoteには、ノートの保存場所らしきものとして、ノートブックという概念があります。しかし、これはWindowsのフォルダほど厳密なものではありません。どのノートブックに保存しても、「すべてのノート」を確認すれば、そこにそのノートが表示されます。
このように、Evernoteは、新しい文章を新しいノートに書き始めるハードルが、ものすごく低いです。新しい文章を書くたびにいちいち新しいテキストファイルを作成して、そのファイルを保存するときは名前をつけて保存場所を指定しなければいけないことと比べたら、その差は一目瞭然です。
b.これまでに書いたノートを一望できるから、過去に書き始めたノートを育てることができて、思考が前に進みやすい
ふたつめ。過去に作成したファイルが埋没してしまい、思考が前に進まないという問題を、Evernoteは、どのように解消するのでしょうか。
Evernoteには、過去に書いた文章を埋没させないための機能が用意されています。
まず、ノート一覧のビューです。Evernoteには、ノート一覧を表示するエリアが用意されています。WindowsクライアントやMacクライアントであれば、ノート一覧を表示するエリアの表示方法として、「カードビュー」「サマリービュー」「リストビュー」などが用意されています。そして、たとえば「カードビュー」なら、ひとつひとつのノートがカードのように表示され、そこにそのノートの抜粋が表示されます。これだけで、Evernoteで書いた文章の内容を確認する手間が、激減します。
次に、ノートを開くのが簡単である点です。Evernoteには、エディタエリアが用意されています。ノート一覧エリアであるノートを選択すると、すぐに、エディタエリアにそのノートの中身が表示されます。ノート一覧エリアで選択するノートを切り替えるだけで、エディタエリアに表示させるノートを切り替えることができるのですから、いちいちテキストファイルを開かなければいけない場合と比較して、ノートの中身を確認するのがずっと手間いらずです。
また、ノート一覧エリアに並ぶノートの並び順は、更新日や作成日、タイトルやソースURLなどで、手軽に並び替えることができます。
さらに、検索機能や関連するノート機能といった、過去に自分が書いたノートと再開できる仕組みが用意されています。
Evernoteで作ったノートは、Windowsのフォルダに保存したテキストファイルと比べれば、埋没してしまう可能性が低いといえます。Evernoteで文章を書けば、過去に書いた文章に少しずつ手を加えることによって、少しずつその文章を完成に向けて書きためていくことができます。ひいては、その文章が整うに連れて、思考を前に進めることができます。
c.Evernoteというただひとつの作業場にいけば、すべての書きかけの文章がそこにあるので、「書きたい気分」にフィットした文章を書ける
みっつめ。書きかけの文章が複数の場所に分散しているため、書きたい文章が手元にないことがあって、「書きたい気分」を生かせない場合があるという問題を、Evernoteは、どのように解消するのでしょうか。
Evernoteですべての文章を書けば、自分が書くすべての文章は、Evernoteの中にあります。これまでに書いた文章も、今書いている文章も、これから書きたい文章のネタも、全部Evernoteの中にあります。どんな文章を書きたい気分になったときも、Evernoteを開きさえすれば、書きたい文章はそこにあります。
そして、Evernoteはクラウドサービスなので、いつでも、どこからでも、同じデータを扱えます。複数のパソコンを使っていても、すきま時間にiPhoneで文章を推敲しても、一時的に使う実家のパソコンからでも、いつもと同じEvernoteのデータを扱えます。
いわば、Evernoteは、どこからでも入ることができる、魔法の書斎のようなものです。そこにいきさえすれば、いつもと同じ執筆環境が整っていて、自分がこれまでに書いた文章の全部が、最新の状態で、そこに用意されています。
何らかの文章を書きたい気分になったとき、私がすべきことは、Evernoteという魔法の書斎にいくことだけです。これまでに私が書いた文章の全部が、そこにあります。私は、その中から、今の書きたい気分にフィットする文章を探して、続きを書けばよいわけです。仮に、そこに今の書きたい気分にフィットする文章が見つからなければ、そのときは、今の書きたい気分にあわせて、書きたい文章を書けばよいだけです。そこに書きたい気分の損失はありません。
Evernoteを使えば、いつでもどこでも、自分が書いた文章のすべてが用意されている魔法の書斎を手にすることができます。Evernoteで文章を書けば、いつ、どんな書きたい気分になったとしても、その書きたい気分を逃すことはありません。
3.次のテーマ
なぜ、私は、Evernoteを、「書く」作業のためのワークスペースとして使っているのか。その理由は、ここに書いたとおりです。新しい文章を書き始めるハードルが低く、過去に書いた文章が埋没しにくく、これまでに書いた文章の全部がそこにあるのが、Evernoteという「書く」ワークスペースの強みです。
しかし、ほんとうの意味で「書く」作業の「すべて」をEvernoteでしているかといえば、そうではありません。仕事で作成する文章にはEvernoteを使っていませんし(いきなりWordで書くことが大半です)、メールの文章は最初からGmailで書いています。Evernoteを「書く」ワークスペースとして使っているのは、私の毎日の中の「書く」作業の一部分です。
Evernoteは、「自分のすべての作業を行うワークスペース」と謳います。でも、私は、実際には、「すべての作業」をEvernoteでしているわけではありません。
そこで、次は、「なぜ、私は、すべての書く作業をEvernoteでしないのか?」「ほんとうの意味ですべての書く作業をEvernoteで行えば、今よりももっと生産性が上がるのではないか?」ということを考えたいと思います。
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