「なぜ」&「どのように」と「説明の尺度」〜『わかりやすく説明する練習をしよう』(1)
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書き方・考え方
1.『わかりやすく説明する練習をしよう』
(1) 『わかりやすく説明する練習をしよう』
『わかりやすく説明する練習をしよう』は、わかりやすく説明するための教科書です。わかりやすく説明するための基本的な考え方と、わかりやすく説明するための具体的な技術を、体系的に学ぶことができます。
『わかりやすく説明する練習をしよう。 伝え方を鍛える コミュニケーションを深める』
(2) 『わかりやすく説明する練習をしよう』を読んだ経緯
私がこの本を知ったのは、2013年12月でした。ハイブリッドシリーズなどの著者である倉下忠憲さんのブログ「R-style」で、本書の書評記事を読みました。
R-style » 【書評】わかりやすく説明する練習をしよう。(リー・ラフィーヴァー)
書評記事自体、とてもわかりやすくて面白い文章です。私は、「なぜ?」と「どのように?」の関係に深く納得し、本書に強い興味を持ちました。
「なぜ?」と「どのように?」との関係が、ピンと来た。読んでみよう。→【書評】わかりやすく説明する練習をしよう。(リー・ラフィーヴァー) http://t.co/rq9cfpSLel
— 彩郎 (@irodraw) 2013, 12月 12
ただ、当時は、Kindle版を発見できず、紙の本を買うまでの踏ん切りをつけられずに逡巡していました。ところが、先日、ついにKindle版を発見したため、はりきって読み始めました。
(3) 「わかりやすく説明する技術」から、重要な2つをピックアップ
読み始めたら止まりませんでした。圧倒的にわかりやすいのです。「これが「わかりやすい説明」なのか!」と衝撃を受けました。
この本を読むまで、私は、「わかりやすい説明」とは、「わかりやすい言葉を用いた説明」や「わかりやすい文章による説明」と同じようなものだと思っていました。でも、違いました。「わかりやすい説明」は、「わかりやすい言葉を用いる」といった瑣末なことではありませんでしたし、「わかりやすい文章を書く」ことすらも大きく超えるものでした。
本書が説明する「わかりやすく説明する技術」は多岐に及びます。中でも、私が強い衝撃を受けたのは、次の2つです。
- 説明において、「なぜ?」と「どのように?」という2つの疑問文が果たす役割と、その順番
- 「説明の尺度」というモデルで、聞き手の理解度に応じた説明をする
そこで、ここでは、この2つを説明します。
2.「なぜ?」と「どのように?」という2つの疑問文が果たす役割と、その順番
(1) 「わかりやすい説明」のために役立つ2つの疑問文:「なぜ?」と「どのように?」
『わかりやすい説明をしよう』は、「わかりやすい説明」のためには、2つの疑問文が役に立つといいます。「なぜ?」と「どのように?」です。
多くの人は、「○○を説明してください。」と求められると、「どのように?」という疑問文に答えようとします。たとえば、「Evernoteを説明してください。」と求められたら、「Evernoteは、どのように使うのか?」という疑問文に答えようとして、説明を始めます。
でも、わかりやすい説明のためには、もうひとつの疑問文である「なぜ?」が大切です。「どのように?」という手段よりも前に、「なぜ?」という理由を理解してもらうことが、聞き手に説明をわかってもらうことの、大きなカギです。
たとえば、Evernoteとは何かを説明するなら、どのようにEvernoteを使うのかという手段を説明するよりも前に、なぜEvernoteを使うのか、なぜEvernoteの使い方を身につけるとよいのか、というEvernoteを理解すべき理由を説明すると、説明がわかりやすくなります。
このように、『わかりやすく説明する練習をしよう』は、「なぜ?」という質問に答えることを重視します。
説明とは「なぜ?」に答えること
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説明とは、単に事実をパッケージする術であるだけではなく、「なぜ?」という質問に答えて、事実を提示する術でもある。「なぜこれをする意味があるのか?」「なぜ気にかけるべきなのか?」といったことに対して、答えなくてはいけない。
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「なぜ?」の説明を受けることで、聞き手は、なぜ、説明される対象を理解するとよいのか、その意味を自覚します。このことによって、聞き手の中に、今聞いているこの説明を理解しようというモチベーションが生まれます。このように、聞き手に自信を与えることが、わかりやすい説明をするためのコツのひとつです。
(2) 「なぜ?」と「どのように?」の順番
「なぜ?」と「どのように?」で大切なのは、その順番です。原則として、最初に「なぜ?」で、そこが十分固まってから「どのように?」に入ります。
これは、正面から「なぜ?」と聞かれたときだけに当てはまるわけではありません。説明上手の人は、仮に、「○○は何?」とだけ質問されたとしても、その質問を「どうしてこれを気にかけなくてはならないのか?」と理解して、最初に「なぜ?」から始めます。
説明上手な人なら、質問の背後の意図を汲み取って、効率性よりも相手の理解度を重視した答えを示すものだ。「これは何?」と訊かれても、「どうしてこれを気にかけなくてはならないの?」と訊かれたときのように、こまやかな答えを返す。
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多くの場合、わかりやすい説明に欠けているのは、「どのように?」という手段を説明する前に、「なぜ?」という理由を説明することです。
たちまち、何が欠けていたのか気づいた。わかりやすい説明が必要だったのだ。〝どのように〟という手段よりも前に、〝なぜ〟という理由を理解することが、僕の学習スタイルには必要だった。
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3.「説明の尺度」というモデルで、聞き手の理解度に応じた説明をする
(1) 聞き手の理解度を把握するための、「説明の尺度」というモデル
a.「わかりやすい説明」のために必要なのは、聞き手の理解度を把握すること
「わかりやすい説明」のためには、聞き手の理解度にあった説明が大切です。
「なぜ?」と「どのように?」という2つの疑問文にしても、どんな聞き手に対しても「なぜ?」を重視すべき、というわけではありません。聞き手の理解度に合わせることがポイントです。
たとえば、Evernoteのことをよく知っていて、毎日Evernoteを使いこなしている人は、Evernoteを使うべき理由を知っています。ですから聞き手に、「なぜ、Evernoteに注目するべきか?」を説明しても、それほど効果はありません。これに対して、Evernoteをこれまで使ったことがない人は、Evernoteに着目すべき理由を知りません。その聞き手に、いきなり、「どのように、Evernoteを使うか?」を説明しても、その情報が聞き手の関心を引くことはありません。
このように、わかりやすい説明に失敗する原因の大部分は、説明をする者が、説明の聞き手の理解度を捉え損なうことにあります。
b.「説明の尺度」というモデル
では、聞き手の理解度を把握するには、どうしたらよいでしょうか。
『わかりやすく説明する練習をしよう』の回答は、「説明の尺度」です。本書は、「説明の尺度」というモデルを導入し、この「説明の尺度」というモデルによって、聞き手の理解度やニーズをビジュアル化します。
説明に関する問題を解決するためには、次に紹介する「説明の尺度」という簡単なモデルで構想を立てればいい。聞き手をビジュアル化し、そのニーズを明らかにして、周到に練られた説明を用いながら聞き手の誤解を理解へと変えるためのモデルだ。
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「説明の尺度」は、具体的には、AからZまでを連続して並べたものです。最も理解度が低い状態を「A」、最も深く理解している状態を「Z」といいます。
※図はすべて、『わかりやすく説明をしよう』に掲載されていた図を作り直したものです。
単にアルファベットの「A」から「Z」までを連続して並べた尺度だが、どのように説明するか、構想をまとめるうえでの案内役となる。これは、聞き手をある地点から別の地点に移動させたいときに、簡単に使える方法だ。本書ではこれから、この尺度を用いて理解度を深めることについて検討していく。
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左の方が理解度が低い状態、右の方が理解度が高い状態です。
「説明の尺度」は、最も理解度が低い状態を「A」、最も深く理解している状態を「Z」としている。
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c.「説明とは何か?」を「説明の尺度」で説明する
「説明の尺度」は、それ自体では、ごくごくシンプルな尺度に過ぎません。でも、この尺度を他のいろんなアイデアと組み合わせると、強力に機能します。
たとえば、説明の目的は、聞き手の理解を深めることです。これは、聞き手を「説明の尺度」上で左から右へと移動させることを意味しますので、矢印で表現できます。
矢印は、この人物を尺度の左から右へと移動させるという目的と、この人物が理解を深めていく道筋を表す。説明の尺度は、本書の目玉の一つであり、説明を位置づけるための道具だ。
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「説明の尺度」を用いれば、説明の目的は、聞き手をAからZへと移動させること、と把握できます。
すると、わかりやすい説明のための課題は、次のように整理できます。
・説明を一体どこから始めるべきか、どうすればわかってもらえるのか?
・「A」から「Z」までのすべての人を、どうすれば満足させられるのか?
・説明を成功させるためには、どんなアイデアや作戦が有効か?
・どうすれば、多くの人の理解度を「Z」地点に近づけられるのか?
location 765
「わかりやすい説明」をしたければ、次の質問を自分に問いかければよいわけです。
・ある考えを説明するとき、自分は「A」から「Z」のどこに位置するのか?
・聞き手はどこに位置するのか?
・聞き手の理解度について、どのような想定をしているか?
・現在の説明は、「A」から「Z」まですべての人を対象にしているか?
・現在の説明を、「A」から「Z」まですべての人を対象にすべきか?
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このように、「説明の尺度」を用いれば、自分の説明について、構想を練ることができるようになります。
僕たちは、ほかの人のもつ知識について想定することが不得手であり、そのせいで説明の可能性を狭めている、ということだ。説明の尺度を用いれば、自分の説明について考えを巡らせ、徹底的に話し合い、構想をまとめることができるようになる。
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(2) 「説明の尺度」モデルで、「なぜ?」と「どのように?」の順番を守って、説明する
さらに、「説明の尺度」は、「なぜ?」と「どのように?」という2つの疑問文と組み合わせると、もっと大きな力を発揮します。
わかりやすい説明のためには、「なぜ?」と「どのように?」の順番が大切でした。理解度が低いうちは「なぜ?」を重視し、理解度が高まるにつれて「どのように?」に移していきます。
この「なぜ?」と「どのように?」の順序を、「説明の尺度」モデルに重ね合わせると、次のような図ができあがります。
次のグラフが示すように、「K」地点にいる人はアイデアの実行〝手段〟より〝理由〟を理解する必要がある。アイデアが意味をなすものだと理解することが大切だ。
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「わかりやすい説明」のために、「なぜ?」と「どのように?」をどのような按分で用いればよいかが、このグラフから、一目瞭然です。すなわち、「なぜ?」と「どのように?」を用いる按分を決めるのは、聞き手の理解度です。
手段の描写は、説明に当然含めるべき要素であるし、「Z」地点に近いところで用いると、最も効果的になる。「Z」地点では、理由よりも手段が主眼となっているからだ。
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説明にはさまざまな形とサイズがある。最も効果的な形式で説明されたとき、新規の複雑なアイデアも理解しやすく、注目を引きやすくなる。だが、聞き手がそのコンセプトについてすでにある程度心得ており、抵抗を感じていないのなら、〝理由〟よりも〝手段〟を重視した説明が必要になるかもしれない。
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この「説明の尺度」と「なぜ?」「どのように?」を組み合わせた図を常に頭において説明をすれば、説明のわかりやすさはかなり改善されるはずです。
4.今後の課題
さて、今回は、『わかりやすく説明する練習をしよう』のうち、私が最も衝撃を受けた次の2つのポイントを整理しました。
- 説明において、「なぜ?」と「どのように?」という2つの疑問文が果たす役割と、その順番
- 「説明の尺度」というモデルで、聞き手の理解度に応じた説明をする
しかし、『わかりやすく説明する練習をしよう』は、わかりやすく説明することの教科書のような本です。この本からは、ここにまとめたこと以上を、まだまだたくさん学べそうな気がしています。
そこで、以下のような感じで、もうしばらく続けます。
(1) 各論を学ぶ
まず、各論を学びます。
『わかりやすく説明する練習をしよう』には、聞き手をAからZへと移動させるために、わかりやすい説明の各要素を飛び石のように活用しよう、という話が出てきます。聞き手が簡単にAからZへと移動できるように、移動の足がかりを与える、というイメージです。
この飛び石のひとつひとつが、わかりやすく説明をするために役立つ各論的な考え方です。ひとつひとつ学んでいこうと思います。
(2) 練習する
次に、『わかりやすく説明する練習をしよう』の肝は、「練習」です。私も、ここで学んだことを、実際に手を動かして、練習したいと思います。
このブログは、私にとって、最適な練習場です。そこで、このブログを使って、次の2つの練習をするつもりです。
ひとつは、これまでにこのブログに書いた説明文を、『わかりやすく説明する練習をしよう』を活かして改善することです。
もうひとつは、「Evernoteのわかりやすい説明」「Toodledoのわかりやすい説明」「WordPressのわかりやすい説明」を書いてみようと思います。
『わかりやすく説明する練習をしよう』の著者の会社であるコモンクラフト社は、TwitterやDropboxやブログについて、わかりやすいと銘打って、説明動画を作っています。私も、自分が愛用するウェブサービスの「わかりやすい説明」に挑戦してみます。
今思いついたのは、Evernote、Toodledo、WordPressの3つです。どれもわかりやすく説明するのがむずかしそうなウェブサービスなのですが、どれも私の人生に大きな好影響を与えてくれたウェブサービスなので、ぜひ挑戦したいです。
(3) 「文章教室」のように楽しめたらいい
今回やろうと思っていることは、少し前にやっていた「文章教室」の問題を解くことと、なんとなく、似ています。
「文章教室」結城浩先生のウェブサイトに公開されている、2002年のコンテンツなのですが、私は、公開12年後の2014年、このブログを使って、「文章教室」の問題を解きました。
大変勉強になり、かつ、とても楽しかったのですが、なによりうれしかったのが、「文章教室」2014期生のクラスメイトができたことです。ウェブで学びが緩やかにつながり広がっていくことに、ワクワクしました。
結城浩先生の『数学文章作法 基礎編』を読んでから、『文章教室』2014期生のクラスメイトができるまで(あるいは、『文章教室』2014期生へのお誘い)
『文章教室』(結城浩)と『アリスの物語』監修PDF(倉下忠憲・藤井太洋)に、ウェブによる教育の可能性を見る
今回も、同じように楽しめたらいいなと思っています。
『わかりやすく説明する練習をしよう』、おすすめです。よろしければ、ご一読を。(そして、一緒に練習しましょう。)
『わかりやすく説明する練習をしよう。 伝え方を鍛える コミュニケーションを深める』
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