本を、「思考する場所」として捉える
公開日:
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最終更新日:2014/07/23
Kindle
目次
1.「本は読者と作者が一堂に会する場所となる」
(1) 『本は死なない』の予言
『本は死なない』という本があります。
この本の副題は「Amazonキンドル開発者が語る「読書の未来」」で、この本の原題は「Burning the Page: The eBook Revolution and the Future of Reading」です。つまり、この本は、AmazonでKindleプロジェクトを率いた著者が、現在進行形の電子書籍という革命について解説するとともに、電子書籍革命の結果、読書にどのような未来が広がっているか、を描いた本です。
この『本は死なない』には、電子書籍革命後の読書についての、いくつかの予言がなされています。それぞれ興味深い予言なのですが、私にとってとくに興味深かったのは、「やがて本は読者と作者が一堂に会する場所となるだろう。」という予言です。
物語に読者の注釈が添えられるようになると、本は公会堂のように人々が議論を交わす場所となる。そしてその議論の内容は、これからその本を読む読者のために記録される。Read more at location 1622Add a note
やがて本は読者と作者が一堂に会する場所となるだろう。Read more at location 1629Add a note
(2) 読者と作者が本という場所で一堂に会するとは、どういうことか?
この予言は、どういうことを意味するのでしょうか?
電子書籍は、ウェブと結びついているので、ソーシャルネットワークなどに、その本の読書メモや感想を簡単に共有することができます。
たとえば、Kindleなら、今でも、「共有」機能によって、読書をしながら、FacebookやTwitterにハイライト箇所や感想を投稿することができます。
Kindle Paperwhiteの「共有」は、読書に関する、ハードルの低いアウトプットを助けてくれる。
また、Amazonが提供するポピュラーハイライトや公開メモ、さらにはkindle.amazon.co.jpそのものは、この方向性を志向するサービスです。
『本は死なない』は、この先にあるものを予言するものです。
たとえば、現在は、ウェブに公開されたその本についての読書メモや感想は、ウェブ中に散在しています。しかし、いつかは、ウェブに公開されたその本についての読書メモや感想のすべてを、その本を読みながら、その本の上から確認できるようになるかもしれません。
また、現在は、その本について議論をしたり感想を語り合ったりするためには、TwitterやFacebookなど、それぞれのSNSを使う必要があります。しかし、いつかは、その本を読むための電子書籍端末から、その本について議論をしたり、感想を言い合ったりできるようになるかもしれません。
こうなれば、本は、人々が議論を交わす場所、人々がその本についての情報を交換しあう場所、そして、「本は読者と作者が一堂に会する場所」になります。
この予言が実現した世界では、本の価値を決めるのは、その本にどんな情報や思考過程が表現されているかというコンテンツではなく、その本の上で交わされる議論や交換される情報の量と質なのかもしれません。
コンテンツを収録する媒体としての価値よりも、議論や交流のための場としての価値こそが、本の価値を決める世界。いやはや、革命と未来です。
2.今(2014.7)、本を、思考する場所として捉える
(1) まだ、本は、「読者と作者が一堂に会する場所」にはなっていない
『本は死なない』を読んだとき、私は、「やがて本は読者と作者が一堂に会する場所となるだろう。」という予言は、そのうち実現するだろうな、と感じました。
ですが、現時点(2014.07現在)では、まだずいぶんと距離があるように感じます。その理由は、この方面でいちばん進んでいるであろうAmazonのKindleサービスですら、以下のような問題を抱えているからです。
a.一覧できるプラットフォームがない
まず、ある本について交わされた議論や情報交換を、一覧できるプラットフォームが存在しないことです。
ある本について交わされた議論や情報交換は、Amazonのカスタマーレビュー、読書サイト、ブログ、Twitter、Facebook、noteなど、ウェブ上に散在しています。それを本ごとに一覧できるプラットフォームが、現時点では、ありません。
ある本についての情報がやりとりされていても、それらがウェブに散在したままでは、それらの情報は、その真価を発揮できません。
「読者と作者が一堂に会する場所」というからには、その本を読みながら、その読んでいる箇所に関して交わされた感想や議論を、その本の上から、確認できる、という形が理想です。
たとえば、『本は死なない』の「やがて本は読者と作者が一堂に会する場所となるだろう」というくだりに興味を持ったときに、その電子書籍リーダーを少し操作すれば、この記載についてウェブ上で交わされた情報を一覧表示できる、というイメージです。
b.「kindle.amazon.co.jp」が未熟
次に、Amazonが用意している「kindle.amazon.co.jp」が未熟だと言うことです。
「kindle.amazon.co.jp」は、ソーシャルネットワーク的な要素を取り入れていて、機能としては、かなり面白いウェブサイトです。このまま成長していけば、ウェブ上に散在する本についての情報を、本ごとに一覧できるプラットフォームになるかもしれません。
しかし、現時点では、未熟です。
なによりもまず、動作が重たいです。光やLTE回線でも待ち時間が長いので、おそらく、Amazon側のサーバーの問題のように思います。動作の重たさが解消されない限り、「kindle.amazon.co.jp」がメジャーになることは、ないのではないかなと感じてます。
また、現時点(2014.07時点)では、英語表示です。英語でも、基本操作には不都合はありません。でも、無駄にハードルが上がっています。
動作の重さや英語の点で、Amazon.co.jpは、「kindle.amazon.co.jp」のことを、あんまり重視していないのかな、と感じます。
c.読んだ本のアウトプットを公開する、という行動習慣が、一般的ではない
最後に、読んだ本についての感想やメモを公開する、という行動習慣が、まだあまり一般的ではないことです。
長い間、本は、ひとりで読むものでした。
ここにはふたつの要素があります。ひとつは、読書は、読むというインプットが中心であり、感想をまとめたりメモを作ったりするというアウトプットは中心ではない、ということです。もうひとつは、読書は、ひとりの世界に閉じた行為であって、他者に開かれた行為ではない、ということです。
読んだ本の感想やメモをソーシャルネットワーク等で共有することは、アウトプットかつ他者に開かれた行為なので、この両方に反します。そのため、この行動習慣は、現時点では、まだそれほど一般的ではありません。
(2) 本を、思考する場所として捉える
しかし、かといって、現時点ではこの予言の価値がないかといえば、そういうわけではありません。
この予言の価値は、「本が、他者とのコミュニケーションのための場所になる」ということだけでなく、「本を場所として捉える」というところにあります。
(1)で記載した3つの問題点は、いずれも、前者の「他者とのコミュニケーションのための場所」との関係での、技術や行動習慣の問題点でした。
これに対して、後者の「本を場所として捉える」という考え方なら、もちろん、どんな場所と捉えるかによりますが、(1)で記載した3つの問題点をクリアできる可能性があります。
そこで、本をどんな場所と捉えるとよいだろうか、と考えたところ、「思考する場所」がよいのではないか、と感じました。「本を、思考する場所として捉える」ということです。
そもそも、私が読書する目的の大部分は、思考することです。情報やノウハウを収集することも小さくない目的ですが、それだけではありません。論理の筋道を追いかけたり、根拠を辿ったりすることで、その本のテーマについて自分で考えたいからこそ、私は読書します。「本を、思考する場所として捉える」というのは、この目的に沿った考え方です。
(3) 現段階のKindleを前提として、「本を、思考する場所として捉える」を軽く考える
そこで、最後に、現段階のKindleを前提として、「本を、思考する場所として捉える」について、軽く考えを巡らせます。
まず、Kindleのハイライトとメモ、そして、これらをウェブで表示する「kindle.amazon.co.jp」の「Your Highlights」機能が使えそうです。
Kindleのハイライトとメモとは、こんな機能です。
Amazon.co.jp ヘルプ: ブックマーク、ハイライト、メモを使用する
このブログでも、以前こんな記事を書きました。
Kindleの「ハイライト」「メモ」「共有」の基本を整理する
これらは、「kindle.amazon.co.jp」というウェブサイトから一覧で確認できます。
ウェブクリップすれば、Evernoteにテキストデータで取り込むことも可能です。
Kindleのハイライト箇所をテキストでEvernoteに取り込み、読書のアウトプットを促す(kindle.amazon.co.jp)
気になったところをハイライトするだけでなく、メモで思考内容を書き込めば、その本についての思考が「kindle.amazon.co.jp」に蓄積されます。
他方、現段階で、私は、ほとんどメモを使っていないのですが、その理由は、Kindle Paperwhiteからの文字入力が、使い物にならないからです。
そのため、メモで思考を書き込むときは、Kindle Paperwhiteではなく、iPhoneのKindleアプリを使う方がよさそうです。
また、iPhoneのKindleアプリを使うなら、マーカーの色を使って三色ボールペン方式を実践することも可能です。iPhoneのKindleアプリなら、ハイライトの際に、黄色だけでなく、赤・青・オレンジを使うことができますので、緑のかわりにオレンジを使えば、Kindle本に三色ボールペン方式を使うことができます。(ただし、iPhoneで色分けをしても、kindle.amazon.co.jpからは、マーカーの色を確認することができません。)
どんどん先へ読み進めたいときは、Kindle Paperwhiteを使う。じっくり思考しながら読みたいときは、iPhoneのKindleアプリでメモをしたり三色ボールペン方式を実践したりしながら読む。このような使い分けをするのがよさそうです。
何にしても、Kindle(という電子書籍サービス)は、本を思考する場所として捉えることを促します。私自身は、ここに、電子書籍革命と読書の未来の一端を垣間見ています。
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