知的生産のためにEvernoteを整理する方法の基礎理論を学べる2冊:『「超」整理法』と『ハイブリッド発想術』
目次
1.知的生産のためにEvernoteを整理する方法の基礎理論を取り入れる
(1) Evernoteを整理する方法の基礎理論
先日、Evernoteを整理しました。まだ途中(ノートブックは終わったけれど、タグや保存された検索は未了)ですが、とりあえず一段落です。
Evernoteのノートブックを整理した結果の記録(2014.6段階)
これまでにもなんどか、Evernoteの整理を試みてきました。ブログや書籍で紹介されている達人のノートブック構成をそのまま真似したこともありました。でも、これまでに試みたEvernote整理は、あんまりしっくり来ていませんでした。
これに対して、今回のEvernote整理は、自分なりに、けっこうしっくり来ています。これまでと比較して、今回の整理がしっくり来ている理由は何なんだろうかと、考えてみました。
ひとつの理由は、参考情報の取り入れ方を変えたことです。
これまでは、ノートブック構成やタグの使い方など、具体的なEvernoteの使い方の情報を集め、その具体的な情報を取り入れていました。もちろん、自分なりのアレンジは加えようとしましたが、基本は、Evernoteの達人の具体的な方法を取り入れる、というイメージでした。
これに対して、今回は、具体的な情報を追い求めるのはやめました。具体的なEvernoteの使い方情報を得たら、その背後にある抽象的な考え方や基礎理論を考えるようにしました。また、そもそもEvernoteとは関係のない、整理の一般理論も参照することを心がけました。
この方針で参考情報をインプットしたところ、とくに役に立ったのは、次の2冊です。いずれも、Evernoteを整理するための基礎理論を与えてくれました。
『「超」整理法』(野口悠紀雄)
『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』(倉下忠憲)
そこで、この記事では、この2冊に含まれるどんな基礎理論が、Evernoteを整理するために役立つのか、私なりにまとめます。
(2) 知的生産用途でEvernoteを使う
この記事では、Evernoteを知的生産用途で使うことを前提としています。
Evernoteは自由なツールなので、いろんな用途に使えます。知的生産のために使うこともできれば、子育てやライフログのために使うこともできます。
そして、どんな用途に使うかによって、Evernoteを整理するために役立つ基礎理論は、変わります。
この記事のテーマは、知的生産用途でEvernoteを使うときの、Evernoteを整理するための基礎理論です。
つまり、情報を取り入れて、その情報を元に考えて、自分なりの情報を生み出す、という一連の過程にEvernoteを使うために役立つ基礎理論です。
2.『「超」整理法』(野口悠紀雄)
(1) 『「超」整理法』
『「超」整理法』は、野口悠紀雄先生が提唱する整理法です。
それまでの「整理とは分類である」というテーゼに反旗を翻し、分類しない整理法である「押出しファイリング」という書類整理法を提唱しました。
ただ、『「超」整理法』の本質は、「押出しファイリング」という具体的な方法にあるのではなく、その背後にある理論や考え方にあります。『「超」整理法』は、いわば、整理の科学を確立する本だと言えます。
本書は、情報管理について、単なるノウハウの寄せ集めではなく、科学の確立を目指している。つまり、結論を導き出すための前提や条件、そして論理の筋道を、検証可能な形で示すことを心がけている。
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『「超」整理法』は、「ポケット一つ原則」と「時間順原則」という2つの重要な原則と、「情報をフローで扱う」という1つの基本方針を示します。この2つの原則と1つの基本方針が、Evernoteを整理するための基礎理論として、大変役に立ちます。
(2) 「ポケット一つ原則」と「時間順原則」
「超」整理法で重要なのは、「ポケット一つ原則」と「時間順原則」という二つの原則だけである。location 1000
a.ポケット一つ原則
ポケット一つ原則とは、「置き場所に一箇所に限定する」という原則です。
このように、置き場所を一箇所に限定するというのは、きわめて重要なことだ。これを「ポケット一つ原則」と呼ぼう。
location 425
ポケット一つ原則のメリットは、何かを探すときに、捜索場所が一箇所に限定されることです。
もし見つからなければ、それは、誤った判断にもとづいて、あるいは過失によって、捨ててしまったのである。その書類は、もはやどこにも存在しないことが証明されたのである。したがって、別途の処置を考えるしかない。
location 427
b.時間順原則
ポケット一つ原則に従い、すべての書類を一箇所にまとめて置けば、捜索場所は一箇所に限定されます。しかし、ポケット一つ原則を実践すると、その一箇所の捜索場所が果てしなく広大になります。果たして、その一箇所から、目的の書類を見つけることはできるのでしょうか。
野口先生は、「できる」といいます。ここで力を発揮するのが、時間順原則です。
なぜなら、このシステムでは、書類をでたらめに置いてあるのでなく、時間順という重要な軸で秩序づけているからだ。
location 459
時間順原則とは、書類を時間順に並べる、という原則です。最近使用したものを手前にして、順番に並べる、という原則です。
時間軸による検索が機能する理由は、次の2つです。
時間軸による検索は、きわめて強力である。
なぜなら、
◇使用する書類の大部分は、最近使ったものの再使用である。
◇人間の記憶は、時間順に関しては強い。
location 727
(3) 情報をフローとして扱うという基本方針
次に、「情報をフローとして扱う」という基本方針です。
まず、野口先生は、現代では、情報をフローとして扱う必要がある、と主張します。
しかし、現代のように情報が増えてくると、基本的な考えを転換する必要がある。つまり、情報とは生まれ消えるものであり、一定の寿命を持ったフロー量である、と捉える必要があるのだ。
location 1785
もちろん、図書館などの公的な場所はや商業データベースは、情報をストックする必要があります。でも、逆に言えば、これらのところに、ストックとしての情報は蓄積されています。図書館や商業データベースにストックされた情報を引き出すには、お金や手間がかかりますが、お金や手間をかければ、引き出すことは可能です。
だとすれば、個人レベルで情報をストックする必要性は、高くありません。個人の情報処理システムは、フローに集中することができます。また、フローに集中するほうが、身軽で機能的なシステムを構築できます。
だから、個人のレベルでは、フローとしての情報に専念すればよいのだ。
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情報につき、ストックとフローという区別をすること、そして、ストックについては必要となった段階で外部のシステムを利用すると割り切り、個人的なシステムはフローに集中する、という基本方針は、慧眼です。
(4) 『「超」整理法』の2つの原則と1つの基本方針を、Evernoteの整理に、どう活かすか
さて、これら2つの原則と1つの基本方針は、Evernoteの整理に、どのように活きるのでしょうか。
まず、ポケット一つ原則は、紙の書類の整理よりも、デジタル情報において、より大きな力を発揮します。さらに、クラウドサービスにおいては、一層の力を発揮します。
ポケット一つ原則は、クラウドサービスの力を発揮させるための、もっとも基本的な考え方です。
クラウドと「ポケット一つ原則」は、相性抜群。文章とメールとタスク、3つの「ポケット一つ原則」
たとえば、自分が書く文章のすべてをEvernoteに保存する、という方針が考えられます。アイデアメモも、書きかけの原稿も、すべてのテキストデータをEvernoteという一つのポケットに集約します。すると、Evernoteを開けば、そこにすべての書きかけの文章がある、という状態が実現されます。これは、文章を形にする上で、大きな助けとなります。
文章を書くツールとしてEvernoteを使うことのメリット テキストデータのポケットひとつ原則
次に、Evernoteで時間順原則を活用するのも簡単です。ノートの並び順を、更新日基準にして、更新日の新しいものを先頭にすればよいだけです。
Evernote for Windowsを使いやすくするための、ふたつの必須設定
さらに、情報をフローとして扱う、という基本方針は、Evernoteを整理するための基本的な枠組みになります。
フロー、ストック、アーカイブ。Evernote情報処理システムに収納する情報の分類。
実際、私は、フローとストックという枠組みを基本にして、Evernoteのノートブックの構成を決めました。
【Evernoteを整理する】ノートブックを、フロー・ストック・アーカイブのスタックにまとめる
このように、『「超」整理法』が提唱する2つの原則と1つの基本方針は、Evernoteを整理するために、大変役に立ちます。
3.『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』(倉下忠憲)
(1) 『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』
2冊めは、倉下忠憲さんの『Evernoteとアナログノートによるハイブリッド発想術』です。
倉下忠憲さんは、Evernoteの知的生産アンバサダーです。Evernoteについての情報を発信されている方はたくさんいらっしゃいますが、私にとっては、倉下さんが、もっとも共感でき、かつ、もっともハッとさせられるアイデアをいただける方です。
- 倉下忠憲さんのブログ→R-style
- Evernote 知的生産アンバサダーとしての倉下忠憲さんへのインタビュー→Evernote日本語版ブログ | すべてを記憶する | Evernote
さて、この書籍は、タイトルに「Evernote」という単語が入ってこそいます。でも、Evernoteの解説書ではなく、発想術をテーマにした本です。古今東西の様々な発想術をわかりやすく整理してありますので、発想術の教科書としても使えます。
この『ハイブリッド発想術』の中で、Evernoteを整理する基礎理論として役に立ったのは、
- 「着想」→「連想」→「整想」という3プロセスで「発想」を捉えること
- Evernoteに「畑」と「地層」を作る、というイメージ
の2つです。
(2) 「着想」→「連想」→「整想」という発想の3プロセス
『ハイブリッド発想術』は、発想を、「着想」→「連想」→「整想」という3プロセスに分解して把握します。
「着想」がアイデアを思いつき、捕まえること、「連想」がアイデアをふくらませたり深めたりすること、そして「整想」がアイデアを他者に伝わる形に整えること、です。「着想」と「連想」は一般的な言葉ですが、「整想」は倉下さんの造語です。
ばくっと「発想」と捉えるよりも、「着想」「連想」「整想」という3つのプロセスに分解することで、しっかりと「発想」を捉えることができます。この点で、この3プロセスに分解する考え方は、とても有益です。
知的生産において、発想は重要です。そのため、Evernoteを知的生産用途で使うなら、発想はEvernoteが担うべき重要な役割です。
そして、Evernoteが発想という役割をしっかり果たすために、この「着想」「連想」「整想」という3プロセスに分解するという考え方は、役に立ちます。
たとえば、
- 「着想」→「連想」→「整想」という発想の3プロセスに対応したノートブックを作る
- 「着想」→「連想」→「整想」という発想の3プロセスに対応したタグを作る
- 「着想」「連想」「整想」それぞれについて、Evernoteの使い方をリストアップする
などが考えられます。
(3) Evernoteに「畑」と「地層」を作る
『ハイブリッド発想術』には、Evernoteに関連するメタファーが2つ登場します。「畑」と「地層」です。私は、どんなメタファーでEvernoteを捉えるかによって、Evernoteから引き出せる価値は大きく変わると思っているのですが、この点で、「畑」と「地層」のメタファーは、とても優れています。
a.畑
Evernoteを「畑」のメタファーで捉えると、Evernoteの中で何かを「育てる」という感覚が生まれます。
Evernoteのキャッチフレーズは「すべてを記憶する」です。でも、Evernoteは、情報をそのままの形で保存することと同じくらい、保存した情報を編集することが得意です。
たとえば、Evernoteウェブクリッパーでウェブ上のあるページをクリップすると、ウェブ上の情報がそのままEvernoteのノートになります。これはこれで、ウェブ上の情報をそのままの形で保存するという価値があります。
でも、このノートは、Evernoteのノートです。なので、自由に編集できます。メモを書き加えたり、一部分だけを抜き出して別のノートにしたりすることができます。
Evernoteに保存した情報を出発点にして、そこに自分なりの手を加えると、新しい価値を生み出すことができます。
Evernoteを「畑」と捉えることで、Evernoteに保存したものを「育てる」ことができます。
b.地層
Evernoteを「地層」のメタファーで捉えると、Evernoteから何かを「発掘する」という感覚が生まれます。
Evernoteの中に情報を蓄積するのは、簡単です。ウェブクリップやメール転送、IFTTTなどを使えば、何もしなくても、Evernoteに多くの情報が蓄積されます。
でも、単にたくさんの情報を蓄積するだけでは、Evernoteから価値を生み出すことはできません。大切なのは、蓄積した情報を使って、何かを生み出すことです。
そこで役立つメタファーが、「地層」です。
Evernoteの中には、「地層」があります。「地層」から価値を掘り出すためには、「発掘する」という行為が必要です。Evernoteを「地層」のメタファーで捉えると、Evernoteを「発掘する」ことでEvernoteから価値を掘り出す、という感覚が生まれます。
【参考】
アイデアの「畑」と「地層」:『ハイブリッド発想術』読書メモ(「なぜ、私は、思考するツールとして、Evernoteを使うのか」番外編)
「着想」→「連想」→「整想」という発想の3プロセスと、「いきなり「整想」発想法」
4.Evernoteを整理する方法を育てることは、Evernoteを育てること
Evernoteを整理する方法に正解はありません。でも、自分にとっての優劣はあります。Evernoteを整理する方法を変えることで、Evernoteから生み出せる価値が増えたり、Evernoteに感じる課題が減ったなら、それは、Evernoteを整理する方法が育った、ということです。
Evernoteを整理する方法を育てることに、たぶん、終わりはありません。でも、Evernoteを整理する方法を育てることは、Evernoteを育てることそのものでもあります。Evernoteを育てることの一環として、これからも、Evernoteを整理する方法を育てていきたいと思っています。
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