*

伝えたいメッセージを持つ、ということ(実験に参加した感想)

公開日: : 書き方・考え方

1.「Chikirinの日記」の実験に参加した

(1) 「Chikirinの日記」の実験

先日、こんな文章を書きました。

社会の夢への当事者意識(スーパーで元気が出た話)

この文章は、「Chikirinの日記」で呼びかけられていた実験に参加するために書いたものです。

このエピソードが、「伝えたいメッセージを起点としてブログを書く」練習の題材として、すごくおもしろいと思った私は、ひとつの実験を思い立ちました。

それは、私たちがそれぞれ Jazzy-Tさんとまったく同じ体験をしたとして、それぞれに自分が「伝えたい!」と感じたメッセージを起点にして、ブログを書いてみるという試みです。

(略)

というわけで、もし自分が、

・いつもは行かない初めてのスーパーに入ったら、

・価格が驚くほど高く、周りの客の服装もいつものスーパーより、かなりハイソな感じだった。そして、

・「オーガニック納豆をください」と店員に話しかける “6歳ぐらいの女の子”を目撃した

としたら、その経験から、ブログの読者にたいして「何を伝えたい」と思うか、ぜひ考えてみてください。

伝えたいメッセージを文章にする、ということ – Chikirinの日記

この実験を、私はとてもおもしろく感じました。ので、自分も参加してみました。

(2) 苦労したのは、「伝えたい!」と感じるメッセージを見つけること

実際にやってみると、なかなか難しかったです。

この実験に参加することで私が経験したのは、

  1. こんな体験を自分がしたということを具体的に想像する
  2. その体験から、何らかの「伝えたい!」と感じるメッセージを見つける
  3. そのメッセージを伝えるための文章を書く

というプロセスです。

このうち、私がいちばん苦労したのは、「その体験から、何らかの「伝えたい!」と感じるメッセージを見つける」という段階です。最初は「伝えたい!」と感じるメッセージが見つかりませんでした。いくつかリストアップしてみたのですが、そのどれもに、わざわざ文章を書いて伝えるに値するメッセージではないなあ、と感じてしまい、これを伝えたい!という気持ちにはなれませんでした。

しかし、最終的には、「伝えたい!」と感じるメッセージが浮かんできて、そのメッセージに突き動かされて、やたらと長い文章を書きました。

この間、私の中でどんな変化があったのか、私が「伝えたい!」と感じるメッセージを見つけることができた理由について、2つのポイントに分けて、分析してみます。

2.自分の過去と結びつけたら、伝えたい気持ちがわき上がった

(1) 頭で考えたメッセージは、気持ちが伴わなかった

この状況を具体的に想像して、最初に頭で考えたメッセージは、子供の教育に関するメッセージと、スーパーの経営に関するメッセージのふたつでした。

考えたプロセスを再現すると、こんな感じでした。

設定の状況を頭で分解すると、着目するポイントは、次の4つ。

  1. 「普段の自分が行かないスーパーに自分が属する世界とは別の世界があった」という社会構造に着目する
  2. 6歳ぐらいの女の子であることに着目する
  3. 「オーガニック納豆」という製品に着目する
  4. 驚くほど価格が高いのにお客さんが入っているというスーパーに着目する

社会構造に着目したメッセージは、オリジナル記事と同じ範疇なので除外。残り3つのうち、自分の関心事から、

  1. 「6歳ぐらいの女の子」に着目して子供の教育に関するメッセージ
  2. スーパーに着目してスーパーの経営に関するメッセージ

の2つを考えた。

でも、このメッセージを前にして、私は、このメッセージを「伝えたい!」と感じることが、全然できませんでした。わざわざ文章を書いて伝えたいかと考えてみると、「いや、別に。」という気持ちでした。

(2) 「私が」伝える必然性を求めて、自分の過去と交差するところを探す

頭で考えたメッセージに気持ちが伴わなかった理由のひとつは、そのメッセージを「私が」伝えるということに、ぜんぜん必然性がなかったからではないかと思います。自分の価値観や信念に合致しているわけでもなく、自分の過去の経験や自分の将来の目標と関係しているわけでもなく、自分にしか伝えられないものでもなく、自分だけが考えていることでもなく、……。

このことに気づいた私は、「伝えたい!」と感じるメッセージを見つけるには、そのメッセージを「私が」伝える必然性を見つけなくちゃいけない、と感じました。

そして、「私が」伝える必然性を持つメッセージを見つけるには、私の過去の経験と絡めたメッセージを探すのがよいのではないかと思いました。それも、わりと珍しい経験と絡めたメッセージです。

そこで、自分の過去の経験の中から、今回のエピソードと関連がありそうで、かつ、わりと珍しい経験を探しました。そうしたところ、「貧乏な大学生でありながら、かなり偏った信念を持って、こだわりのスーパーに通い詰めていた」という経験を思い出しました。

この経験と絡めて書こう、と思いついたときに、「伝えたい!」という気持ちがわき上がりました。この経験と絡めて書くことは、私にしかできないことだから、「私が」このブログで書くことに必然性がある、と感じました。

この段階では、まだ、自分が何を伝えたいのか、その内容は全然固まっていませんでした。自分でも全くわかっていませんでした。でも、自分のこの経験と絡めたメッセージが何かあるはず、と思えたことで、そこで生まれたメッセージを文章にして伝えたい、という気持ちが生まれました。

3.「誰に伝えたいか」を考えたら、「何を伝えたいか」がくっきりした

(1) ぼんやりとしたメッセージを、「誰に伝えたいか」

こだわりのスーパーに通い詰めていたという過去と絡めて書く、と決めても、「何を伝えたいか」は、ぼんやりとしたままでした。ぼんやりとしたままで、とりあえず文章を書いていたら、何となく、ぼんやりとしたメッセージが生まれてきました。

そのぼんやりとしたメッセージは、「自分は環境問題を解決するという夢に挫折したけれど、だからといって、環境問題を解決するという夢に没頭していたことを否定しなくてもいいんじゃないか」というようなことです。

ぼんやりとしたメッセージが生まれてきたので、このメッセージをくっきりさせていこうと試みたのですが、ここで再び、「わざわざ文章にするに値することか?」という疑問が浮かんできました。

まず、夢に挫折したとしても、夢に没頭していたことを否定しなくてもいい、というのは、すごくあたりまえのことで、わざわざ書くまでもないのではないか、という疑問を感じました。また、そもそも、何らかの夢に挫折して、その夢に没頭していたことを否定する、なんていうことは、ほとんどの人には関係ない話なのではないか、という疑問も感じました。

これは、いわゆる「誰得?」というやつです。わざわざこのことを伝えるための文章を書いたとして、その文章は、誰にとって得になるのか、ということです。

この疑問を持ったときに発見したのは、何らかのメッセージを「伝えたい!」と思うとき、そこには、必ず、「誰に伝えたいか」という、メッセージを届けたい相手がいるはずだ、ということです。「誰得?」の「誰」に相当する人が、ちゃんといるはずだ、ということです。

そこで、私は、そのぼんやりとしたメッセージを、「誰に伝えたいか」を考えました。

(2) 「誰に伝えたいか」をはっきりさせると、「何を伝えたいか」がくっきりする

「誰に伝えたいか」を考えてみたら、これはわりとすぐにわかりました。

要するに、自分と同じような経験をして、自分と同じように考えている人です。まったく同じ経験をした人はまずいないと思うけれど、次のレベルまで抽象化して、私と同じような人です。

  • 何らかの分野で社会をよくする夢を持ち、その夢に没頭していた
  • 原因はともあれ、その夢に挫折して、その夢を捨てた
  • その夢を否定するだけでなく、社会をよくする夢一般に対して否定的になっている

こんな人にメッセージを伝えたい、ということがはっきりとわかると、伝えたいメッセージの内容も、くっきりしました。「挫折したとしても、その夢を持ったことには、価値がある」ということ、「社会をよくする夢一般を持つことにたいして否定的にならなくてもいい」ということ、そして、「社会をよくする夢を持つことをもう一度自分に許してみると、けっこう元気になれる」ということ。これらのメッセージが、どんどん浮かんできました。

「誰に伝えたいか」をはっきりさせることが、「何を伝えたいか」をくっきりさせるために、とても役に立つことなんだと実感しました。何らかのメッセージを伝える文章を書く際に、これは便利に使えるコツではないかと思います。

4.「伝えたい!」は、「万人に伝えたい!」でなくてよいけれど、「私が伝えたい!」でなければならない

私が「伝えたい!」と感じるメッセージを見つけることができたのは、ふたつのことに気づいたからです。この文章のまとめとして、ふたつのポイントを整理します。

(1) 伝えたいメッセージ≠万人に伝えたいメッセージ

ひとつは、「伝えたい!」は、「万人に伝えたい!」でなくてもよい、ということです。

これまで、私は、伝えたいメッセージを持つ、ということを、「万人に伝えるに値するメッセージを持つ」というような意味で理解していたように思います。そのため、そこまえのメッセージの持ち合わせはないなあ、と思い、「自分は伝えたいメッセージを持っていない」と考えていた様に思います。

しかし、「万人に伝えたいメッセージを持つ」でないにせよ、「こんな人に伝えたいメッセージを持つ」であれば、それは十分、「伝えたいメッセージを持つ」なのだなと感じました。

(2) 伝えたいメッセージ=私が伝えたいメッセージ

もうひとつは、「伝えたい!」は、「私が伝えたい!」でなければならない、ということです。

メッセージを伝えることの起点にあるのは、「伝えたい!」という気持ちです。この「伝えたい!」という気持ちは、他の誰かが伝えるのではなくて、「私が」伝えたいという気持ちなのではないかと思います。

「私が」このメッセージを伝えることの必然性を感じるとき、私は、「伝えたいメッセージを持つ」ことができるのではないかと思います。

スポンサードリンク

関連記事

no image

なぜ、「書く」ワークスペースとして、Evernoteを使うのか?

1.なぜ、文章を「書く」ためのワークスペースとして、Evernoteを使うのか? (1) 「自分の

記事を読む

no image

ノート、Evernote、ブログ、そして……

1.自分の考えや思いに、文章というかたちを与えること こんな文章を書きました。 よき聞き手として

記事を読む

no image

全体としてひとつの流動的な有機体であるか否か(Evernoteとプロセス型アウトライナーの思想のちがい)

1.はじめに 「Evernoteとアウトライナーの融合は可能か?」というテーマを考察した、この記事

記事を読む

no image

「文章群を書き続ける」によって考えることの具体例

「文章群を書き続ける」とは、ここ数年間、私の中で、とてもうまく機能している知的生産のあり方です。 私

記事を読む

no image

『文章教室』を『数学文章作法 練習問題編』として使う。

1.『数学文章作法 基礎編』(結城浩著・ちくま学芸文庫)で学んだその後に、何をすべきか? (1)

記事を読む

no image

項目単位で文章を組み立てると、意見を述べる文章を速く書くことができる

1.意見を述べる文章を速く書くコツは、項目単位で文章を組み立てること (1) 私が探求したい文章の

記事を読む

no image

アウトライナーによる「大量の書きかけの文章群全体を管理する仕組み」について感じていること

1.問題の状況 私は、このブログを始めたころからつい最近まで、ブログエントリを書くために、Evern

記事を読む

no image

『WorkFlowy文章作法』第1章「2つの原則」(前半「知的生産のフロー」)

この記事は、『WorkFlowy文章作法』の第1章「2つの原則」のうち、前半の「知的生産のフロー」で

記事を読む

no image

Evernoteやアウトライナーで文章を書くことで、大量の書きかけの文章群全体を管理する仕組みを作る

1.すてきな文章が、どのように生まれたか 11月が好きなブログを告白する月だから言うわけではないの

記事を読む

no image

整った論理構造を持つ文章を書くための、自分のブログの強みと落とし穴

1.ブログのために書くほうが、ブログ以外のために書くよりも、整った論理構造を持つ文章を書くのが、うん

記事を読む

スポンサードリンク

スポンサードリンク

no image
お待たせしました! オフライン対応&起動高速化のHandyFlowy Ver.1.5(iOS)

お待たせしました! なんと、ついに、できちゃいました。オフライン対応&

no image
「ハサミスクリプト for MarsEdit irodrawEdition」をキーボードから使うための導入準備(Mac)

諸事情により、Macの環境を再度設定しています。 ブログ関係の最重要は

no image
AI・BI・PI・BC

AI 『〈インターネット〉の次に来るもの 未来を決める12の法則』を読

no image
[『サピエンス全史』を起点に考える]「それは、サピエンス全体に存在する協力を増やすか?」という評価基準

1.「社会派」に対する私の不信感 (1) 「実存派」と「社会派」 哲学

no image
[『サピエンス全史』を起点に考える]サピエンス全体に存在する協力の量と質は、どのように増えていくのか?

『サピエンス全史』は、大勢で柔軟に協力することがサピエンスの強みだと指

→もっと見る

  • irodraw
    彩郎 @irodraw 
    子育てに没頭中のワーキングパパです。1980年代生まれ、愛知県在住。 好きなことは、子育て、読書、ブログ、家事、デジタルツールいじり。
    このブログは、毎日の暮らしに彩りを加えるために、どんな知恵や情報やデジタルツールがどのように役に立つのか、私が、いろいろと試行錯誤した過程と結果を、形にして発信して蓄積する場です。
    連絡先:irodrawあっとまーくtjsg-kokoro.com

    feedlyへの登録はこちら
    follow us in feedly

    RSSはこちら

    Google+ページ

    Facebookページ

PAGE TOP ↑