当事者意識を活用する
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書き方・考え方
目次
1.当事者意識とはなにか
「当事者意識」は、私にとって大切なものです。自分にとって大切な領域においては、いつも高い当事者意識を持っていたいと心掛けています。
当事者意識とは、何らかの対象に対する意識の持ち方です。当事者意識には、前提として、何らかの対象があります。その対象と自分とがどのような関係性であると意識しているかという、その意識の持ち方のひとつが、当事者意識です。
当事者意識と対立する概念として私が把握しているのは、「お客さん意識」と「被害者意識」です。このふたつも、何らかの対象に対する意識の持ち方です。このふたつは、当事者意識とまったく違う意識の持ち方なので、このどちらかの意識を持っているとき、当事者意識を持つことができません。
(1) お客さん意識
「お客さん意識」は、自分はその対象のお客さんだという意識です。お客さん意識の特徴は、次のふたつです。
- 自分は、その対象から、何らかの利益(サービスや商品など)を受けとる
- 自分は、その対象に対して、その対象から受けとる利益の対価として、その利益とは独立のなにかを支払う
たとえば、ホームパーティーに参加するとき、会費という対価を支払って、ホームパーティーの料理や楽しい雰囲気といった利益を受け取る、という意識は、お客さん意識です。「会費を支払ったんだから、料理や楽しい雰囲気を楽しませてもらいます。」という感覚。
たとえば、会社で働くときに、仕事という対価を支払って、給料や有給の権利という利益を受け取っている、という意識は、お客さん意識です。「自分はやるべき仕事はしているんだから、きっちり給料をもらうし、有給もとらせてね。」という感覚。
対価を支払って利益を受け取るという関係は、公平な関係です。なので、お客さん意識が悪いわけではありません。
でも、お客さん意識を持っていると、少なくとも、当事者意識を持つことはできません。
(2) 被害者意識
「被害者意識」は、自分はその対象から被害を受けている、という意識です。被害者意識の特徴は、次のみっつです。
- 自分は、その対象から、何らかのマイナスの影響(=被害)を受けている
- 自分は、その対象から自分が受けているマイナスの影響について、責任を負わない
- 自分は、その対象から自分が受けているマイナスの影響について、解決すべき立場ではない
たとえば、友だちに誘われて参加した飲み会で、幹事の手違いで店の予約が取れていなくて、店に入れなかったとします。このとき、幹事の手違いから店に入れずにいる状況からマイナスの影響を受けていて、その状態について自分は責任を負わず、その状態について自分は解決する立場ではない、と考えるのは、被害者意識です。「こんなことになってるのは、幹事の手違いのせいだ。自分は一方的に被害を受けていて、自分がこの状況をどうこうする筋合いではない。」という感覚。
たとえば、出張帰りに台風が直撃して、予定していた飛行機が飛ばなかったとします。このとき、自分は台風や航空会社によって被害を受けていると考えて、この状態について自分には責任がないし、自分分がこの事態をどうにかすることはできず、また、どうにかする義務もない、と考えるのは、被害者意識です。
(3) 当事者意識
当事者意識は、お客さん意識ではありませんし、被害者意識でもありません。
これらふたつと比較して、当事者意識の特徴は、こんな感じです。
- 自分は、その対象が生み出す利益を生み出したり増やしたりして、その生み出されたり増やされたりした利益を、自分も享受する(利益と独立の対価を支払うことで利益を受け取るのではなく、自分が関わって利益を増やす)
- 自分が、その対象から受けているマイナスの影響については、自分にも責任(の一部)がある(一方的に被害を受けているとは感じない)
- 自分は、自分がその対象から受けているマイナスの影響を、どうにかすることができる(どうにもできないとは考えない)
- 自分は、自分がその対象から受けているマイナスの影響を、解決するべき立場にある(解決すべき立場にある、とは考えない)
要するに、ある対象について、自分がその対象の当事者であると考えて、その対象のいいところを増やしたり、その対象の悪いところを減らしたりすることについて、自分ならできるし、自分はやるべき立場にある、と考えるのが、私が理解する当事者意識です。
2.当事者意識を活用する
(1) 当事者意識は、しんどい
ある面では、当事者意識を持つのは、しんどいです。
対価を支払っていると割り切ることをしないで、その対象の利益を増やすために積極的に関与する必要があります。何らかの対象からマイナスの影響を受けたときに、自分以外に責任を求めたり、自分以外に問題の解決を求めたりすることができません。自分に責任があるし、自分で問題を解決しなければいけません。
いち参加者として参加したセミナーに当事者意識を持つというのは、料金を支払ったんだから教えてもらって当然、という意識(お客さん意識)を脱して、そのセミナーが生み出す利益を増やすための工夫を自らする意識が必要になります。たとえば、全員のためになる質問を一生懸命考えて、みんなの前で発言する、とか。
台風で飛行機が運休になったという状況に当事者意識を持つというのは、この状況について自分には責任がなくて、ひどい目に遭っている、という意識(被害者意識)を脱して、その状況のマイナスを解決するために自分で動く必要があります。空港に閉じ込められた状態でもできる有益なことを探したり、同行者がいるなら同行者も含めて充実した時間を過ごせるようになにかを提案するとか(『ダンス・ダンス・ダンス』の「僕」が飛行機が飛ぶまでの時間、「ユキ」とドライブを楽しんで大音量で音楽を聴いたように。細かすぎるたとえでごめんなさい。)。
実際には、セミナーはお客さんだし、空港で飛行機が運休になったことには何の責任もありません。だから、これらをする義務は、まったくありません。それをあえてやろうとするのですから、当事者意識を持つのは、しんどいです。
(2) でも、当事者意識は、楽
しかし、当事者意識を持つのは楽だと思います。楽だし、楽しい。それは、自分の行動の可能性が広がるからだと思います。
ふたつの場面を例に挙げます。
a.いいと思う対象に対するブレーキを外せる
ひとつは、「自分がここまでやるべきではないかなあ」という逡巡を超えられます。自分がいいと思うなにかに出会ったとき、その対象への関わりについて、自分にブレーキをかけてしまうことを、超えられます。
たとえば、すばらしいブログ記事を読んだとします。この記事には価値がある!と感動したとします。
このとき、自分とそのブログの関係を、お客さん意識で考えていると、自分はそのブログ記事のお客さんなんだから、そのブログ記事から生み出される価値を消費する立場であっても、その価値を増やす立場ではない、ということになります。
でも、当事者意識を持ってそのブログ記事と関わるのなら、自分なりにそのブログから生み出される価値を増やすにはどうしたらいいかな、という方向で考えることになります。その結果、たとえばTwitterで共有するとか、家族にいい記事があるよと紹介するとか、自分でブログ記事に関連する記事を書いてみるとか、書いた人に連絡を取ってみるとか、いろいろできます。
逡巡を超えられる点で楽ですし、ひとつのすばらしい対象と出会ったときのあり方として、圧倒的に楽しいです。
b.なにかからマイナスの影響を受けているときに、生産的になれる
もうひとつは、マイナスの影響を受けているときに、生産的になれます。何らかの対象からマイナスの影響を受けても、その対象から受けているマイナスの影響を自分でどうにかできる、と考えることができるし、そのマイナスの影響をどうにかしようとして動くことで、結果として、マイナスの影響を減らすことができます。
たとえば、大学で受けている必修講義が、先生の説明はわかりにくいし、指定されている教科書は高いのにつまらないし、レポートの負担は重いし、単位認定も厳しい、とします。
このとき、自分とその講義の関係をお客さん意識や被害者意識で考えていると、自分は大学に受講料を支払っているんだから、わかりやすい講義を提供してもらうべきだし、説明がわかりにくいのは先生の責任だし、レポートの負担が重くて単位認定も厳しく、最悪の講義だ、ということになります。
でも、当事者意識を持ってこの大学の講義と関わるなら、先生をうまくおだてて講義の方式を変えてもらったり、指定教科書を先輩から後輩へ譲り受ける会をセッティングしたり(そんな教科書なら、講義が終われば廃品回収行きになる)、講義ノートを共有して省エネでレポートや試験をクリアできるためのチームを作ったり、あるいは、前提知識を勉強することで意外とおもしろい講義であることを発見したり、できることはいろいろあります。
これは、我慢して講義を受け続け、ひょっとすると単位を落とすよりも、気持ち的にも楽だし、なにより楽しいです。
(3) 当事者意識を活用する
当事者意識は、いろんな場面に活用できます。
もちろん、自分が関わる全部の対象に当事者意識を持っていては、もちません。自分の手持ち時間は限られています。
でも、自分にとって大切な対象や、自分の人生において長時間を費やさざるを得ない対象との関係については、当事者意識を持って関わっていきたいなと思います。
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